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55.無 ジークヴァルト side

咲と別れてからのジークヴァルトの様子


「ありがとう…また縁があったらいつかどこかで…」

「咲…」


伸ばした手は愛しいあの人にとどかず無情に扉は閉まる。頭の中は真っ白になり動けない


「本当に”終わり”ですか?追いかけてまだ…」

「倉本!私達が口を出す事ではない!ジークヴァルト様。隣部屋に控えております。何かございましたらお呼び下さい。また、軽食をご用意いたしますので、少しでも召し上がって下さい」

「あぁ…ありがとう」


“ぱたん”


広い部屋に1人になってしました。寝室に行き数時間前まで一緒に寝ていたベッドに横になり、咲さんの残り香を名一杯吸いこむ。


「うっ…」


涙が止めどなく溢れ暫く涙の海に溺れた。


身体中の水分が涙に変わりドライフルーツの様だ。起き上がりリビングに行きミニキッチンの冷蔵庫を開ける。スポーツドリンクにミネラルウォータが大量に入っている。

この状態になるのを見越してタチバナが用意したのだろう。いい部下を持った…


ソファーに座り目を閉じる


「覚悟はしていたが、本当にあの彼女ひとを失ってしまった」


そして気持ちを整理する様にここ数週間の事を思い返していた。

来日が決まった時に咲さんから虐げられていた祖母の家までは記憶があった事を聞いた。祖母の家で衝撃的な事があったのだろう。

タチバナに指示して咲さん祖母の家での様子を調べさせた。30年以上前の事で関係者はなかなか見つからない。やっと祖母の家の料理人見つけ、日本にいる倉本が会いに行き聞き取りをしてくれた。


「男性は当時見習いな上、勤めていた期間が短く詳しく知らなかった様です。ただ…咲さんが2年生の時に10日ほど学校を休まれた時に、数日お姿が屋敷になかった事と、使用人達は主人から敷地奥の蔵の付近への立入を禁止されていたそうです」

「蔵に閉じ込められていたのか⁈」

「恐らく…」


怒りで頭に血が上り持っていたボールペンを折ってしまった。タチバナは顔を歪ませ報告書を渡して来た。タチバナを下がらせ報告書を読む。

「酷い…」今の時代なら確実に虐待で逮捕だ。自暴自棄にならずあれだけ素晴らしい女性に育てたお母様に感謝し彼女に想いを馳せる。

もしケインではなく私が時渡りの騎士として彼女エミリアと渡っていたら、生まれ変わった時から側にいて護ったのに…

開いた時渡りの扉から私はエミリアを護る為に来たのに彼女に助けが必要な時に側に居てやれなかった。

勿論。状況的に私に非はないが彼女の苦しみを思うと居た堪れない。

ふとデスクの引き出しにある小さな箱を取り出し開ける。中にはフランシスに頼んだブラックダイヤモンドのエンゲージリングがある。想像していた以上の仕上がりにこれを着けた彼女を想像して口元が緩む。


『華奢な彼女に似合う。早く嵌めてあげたい…』


日本に行き彼女へ正式にプロポーズする。やっと彼女と共に居れる。目星を付けていた轟町駅前の土地も押さえオフィスと新居の建築準備も進んでいる。

日本で設立する会社も来年には出来るだろう。後は咲さんの返事だけだ。しかし不安な事が…

彼女は確かに私に好意を向けてくれている。しかし踏み込むと逃げ腰になる。恐らく彼女は意識しておらず無自覚だろう。それが何故なのか分からない。

一抹の不安を抱きながらも前世からの縁があれば大丈夫だと思っていた。

しかし…見事に求婚を断られてしまった。日本語で『青天の霹靂』とはこの様な場面で言うのだろう。

眉尻を下げ一生懸命私に説明する咲さんを愛おしく感じながら彼女の話を聞きいた。


やはり調べた通り学校を休み数日居所が分からなかったのは、祖母に虐待を受けて蔵に監禁されていたのた。怒りがこみ上げたが涙しながら必死で話す咲さんを宥め続きを聞く。

すると…記憶を失くしたのはエミリアとの約束だと言う。

エミリアは前世の記憶があると祖母にまた虐待され下手をすると命を落としかねない。だからエミリアは今生を諦め咲さんの深いところで眠りにつき、咲さんに前世を忘れる様に約束させた。


『だから覚えてなかったのか…』


また、エミリアはケインが偽騎士である事に気付き、エミリアは咲さんを護る為に前世を知っていて近づく者に心を許さない様に幼い咲さんに暗示をかけていた。

そして…卑怯者ケインは真実を隠し咲さんに近づき、前世を忘れた咲さんに受け入れられ、真実を話し咲さんに警戒された私。


『神はどこまで卑怯者ケインには慈悲の手を差し伸べ、本物である私には試練ばかり。私が何をしたというのだ!』


もう神すら信用できなくなって来た。

泣いて真っ赤な目をし申し訳なさそうに私を見る咲さん。これ以上彼女を悲しませたくない。精一杯強がって


「もう愛する貴女を苦しめたくない。貴女の前から去ります。もう連絡も会いにも来ません」


彼女を思い別れを決断した。

私が狼狽えると余計に咲さんを困らせてしまう。彼女は優しいから…

お別れする前に一緒に一晩眠りたいとお願いする。すると「いびきをかく」と恥ずかしそうに言う彼女。もう可愛すぎて押し倒して無理やりでも全て奪いたくなる。男の欲を必死で押さえ


「貴女のいびきすら愛おしい」


そう言うと彼女はそっぽを向いてしまった。怒ったのでは無く照れている様で耳まで赤い。こうしてタチバナと倉本を退室させ咲さんとベットに入る。咲さんは小柄で私の腕にすっぽり入り柔らかく抱き心地がいい。

どんな高級な抱き枕より気持ちがいい。そして彼女は手の置き場に困り腕の中でもぞもぞ動いている。人生でこんなに我慢した事が無い。

気分は修行僧だ。きっと一晩寝ずに咲さんを抱いていたら悟りを開くだろう。彷徨った彼女の手は私の左胸付近に落ち着いた。すると時渡りの騎士の痣が熱を持った。驚き思わず彼女をみると彼女も驚いている。彼女の時渡り巫女の痣も熱くなったようだ。

そして見つめ合う。言葉を交わさなくても分かった。痣がお互いを求めている事を…

しかし別れを決断した私たちは何も言わずお互いの温もりを忘れぬように更に強く抱き合った。

泣き体力を消耗した咲さんは直ぐに規則正しい寝息をはじめた。目の前にある愛らしい寝顔を見ていて後悔とやり切れない気持ちに押しつぶされそうになる。


「咲さんがエミリアの暗示を受けていると知っていたら、ゆっくり時間をかけて関係を築いたのに…エミリアを見つけ高揚し必死だった」

「う…ん」


腕の中でもぞもぞ動く彼女を抱き直し、夜が明けて彼女を帰してあげれるか不安になる。出来れば何処か一室に彼女を閉じ込め自分だけのものにしたい…


「やれば確実に嫌われるな」


色んな想いで彼女を見ていたら、彼女の寝息が睡魔をよび眠くなる。


「おこられるなぁ…でも許して欲しい。もう一生会えないかもしれないから」


寝ている彼女の両頬を手で包み口付けた。


「!」


口付けた瞬間、胸の痣がさっきより更に熱く熱を持つ。痣が彼女が私の半身だと主張しているのに…咲さんが起きないので何度も口付けた。

こうして幸せで辛い夜を過ごした。


翌朝に朝食の席で彼女に誠意を見せる為にスマホの連絡先を彼女の目の前で削除した。すると彼女の同じ様に私の連絡先を削除したのだ。私が先にしたとはいえ咲さんのスマホから私の名が消えた事に改めて別れを意識させられる。


こうして愛しい笑みとさんと別れ数日廃人の様に何もせずに時間だけが過ぎて行った。



側に居るタチバナと倉本に支えられ少しずつ日常を取り戻している。咲さんと別れて3日後に愛華さんから連絡が入る。


「ジークさん大丈夫?ちゃんと寝て食べてる?」

「お気遣いありがとうございます。何とか…」

「咲に聞いたよ。もぅびっくりよ。咲に聞いても詳しく話してくれないし。でもね咲の感じでは咲はジークさんの事好きよ。慰めなんかじゃ無いからね!何か事情があるとおもうんだけどなぁ…暫く様子を見てあげて」

「ありがとうございます」

「あとね。怒らないでね。咲は少しジークさんから離れて他の男性と交流を持つ方がいいと思うの」

「…お世話になった上咲さんの友人とは言え、それは聞き捨てならない」

「咲は運命の相手なんでしょ?なら信用しなさい。ずっとジークさんとの事に囚われると咲はつぶれるよ。少し視線を他にやり心身ともにリフレッシュした方がいい。大丈夫よ咲は私に隠し事しなしちゃんと私が見ておくし逐一知らせるわ」

「…」


愛華さん説得され泣く泣く受け入れた。咲さんに他のヤロウが近づくだけで嫉妬に狂いそうだ。


連絡を断ち1ヶ月が経った。日に日に咲さんロスに辛さが増す。私はこんなに貴女えみを欲しているが、貴女は平気なのだろうか⁈


『貴女の心の片隅にでいい私を住まわせて欲しい』

 

願わずにはいれなかった


辛い気持ちと反比例して日本での起業準備もビル建築も順調だ。幸い忙しくしている時だけ咲さんを忘れられる。


『前世で渡の扉が開くのを待っていたあの時に似ているなぁ…』


思い出し苦笑いする。そして先日母から連絡が入った。父には別れた話はしてあり、父に聞いたのだろう。きっとやっぱり見合いしろとか言うのだろう。身構えて電話に出ると…


『母は64歳に今日なりました。あっお花ありがとう』

「いえ。直接祝えなくてすみません。母上の言いたい事は分かりますがもう見合いは…」

『一度振られたくらいなんですか!再度アプローチなさい!そして老い先短い母に娘を紹介なさい』

「母上…」

『まぁ!なんて情けない声を出して!大丈夫。ジークの本気は咲に届くわ』


思いもよらないところからの応援エールに泣きそうになる。母に礼を言い自分を鼓舞する。


『そうだ再度咲さんを迎え入れる為に環境を完璧に整えなければ』



こうしてモチベーションを上げ前を向いた矢先に愛華さんからメールが…


『咲にBF現る。でも安心して!会ったけどいい人。田沢さんみたいに本気の恋愛をする気は無いみたい。所謂お茶飲み友達だから』

「・・・お茶飲み友達とは何なんだ?」


お読みいただき、ありがとうございます。

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