52.封印- 3
帰ってきたジークと向き合い、どうしていいか分からない咲。問題を全て解決したジークの想いを受け止められるのか⁈
「やっと貴女と二人きりになれた…」
「えっと…はい」
「仕事も母も解決し後は貴女の心だけ」
直視出来ないほど甘いジークさんの視線に居た堪れない。慌ててお茶を飲み心を落ち着かせる。ちゃんと向き合い逃げず素直な気持ちで…
「大変でしたね。お疲れ様でした。で…あのですね…」
「はい」
ジークさんは座り直した。声が上ずる!でも…
「ジークさんがいない間に色々あって…いやあり過ぎて正直まだ気持ちが定まっていなくてですね…」
「えぇ…」
“まだ気持ちが定まっていない”って言ったのにジークさんは変わらず優しい眼差しを向けてくれる。まだ決心が付いてないけど…
「私…ジークヴァルトさんの気持ちに応えれない。実はさっき倒れた時に過去の事をやっと全て思い出した所だから」
「思い出しのですか!」
「はい…」
ジークさんはゆっくり立ち上がり隣に来て労わるように抱きしめてくれた。ジークさんの温もりに泣きそうになりながら、ゆっくりエミリアとの約束とエミリアが今世でアルフに遭うのを諦め、次世に生まれ変わるまで深い眠り着いている事を話した。
ジークさんは驚いた顔をして何か言いかけたが、口を黙み私の話に再度耳を傾ける。
ジークさんが話を聞いてくれている事に安心し続きを話す。本当は誰にも言いたく無いけど、祖母から虐待を受け酷い怪我をした事を話した時、大丈夫だと思ったが自分の意思に反し止め処なく涙が出てきた。
ジークさんは何も言わずにハンカチで涙を拭ってくれる。ジークさんと目が合うといつもの優しい瞳と違い、怒りに満ちた瞳に恐怖を感じる。分かっているその怒りは私では無く祖母に向いている。でもいつもと違うから少し怖い…
でも自分を鼓舞しエミリアと交わした約束を話す。
「エミリアは私に前世に関わらず忘れ一人の女性として幸せになる事を願ったの。そして前世を知っている者を信じるなって。騙した者がいる話もしてくれたわ」
「…」
「エミリアを騙した者はケインの事。しかし幼い私は前世を知っていて近付く者はエミリアを騙し裏切った人として認識して、悪者として思い込んだのだと思う。だから…初めから私の事をエミリアとして接して来たジークさんは、無意識に避ける人となり距離を取ってしまう」
ジークさんは何故か安堵の表情だ。涙目でジークさんの綺麗な若葉色の瞳を見ていたら
「やっと疑問が解消されてホッとしました」
「疑問?」
「はい。咲さんに嫌われていない…寧ろゆっくりではあるが好意を持っていただいているのに近づくと離れて行く。何故なのか全く分からなかったんです。そうか…エミリアが咲さんにそんな事を言い暗示をかけたのですね」
「私も疑問だったんです。ジークさんは嫌いでは無いのに近づかれると何故か逃げたくなる。他の方にはそんな事無かったのに」
何故か妙に2人で納得した。
するとジークさんが徐に私の眼鏡とマスクを取ってしまった。
「なっ!」
「タチバナも倉本もいません。真剣な話をしているのです。素顔を見せて欲しい」
「…」
確かに超真面目な話をしているのに顔を隠すのは失礼かも…
「ごめんなさい…」
「はぁ…貴女という人は…可愛すぎます。私の忍耐をお試しか⁈」
そんなつもりも無くめいいっぱい首を振った。するとジークさんは眉尻を下げ、ゆっくり手を伸ばしてきた。そしてキョトンとする私の頬を温かく大きな手で包んで綺麗なお顔が近付く。
『キスされる!』
驚き体が強張る。すると触れそうな距離で止まり…ジークさんは両頬にキスをした。そして私の両手を握りしめ真っ直ぐに見つめて
「今は私の想いは受けれないのですか⁈」
「はい。でもジークさんは好きです。どうしてもエミリアの暗示が…長い間染み付いていて簡単には…。ジークさんは初めからエミリアとして接してきたので、この時点で暗示が効いて心が向かないんだと思います。賢斗は出会った時から全く前世の話をしなかった。だから受け入れれたんだと思います」
悲しい目をしたジークさんに申し訳なく思うけど、私の本心だから致し方ない。
「偽物はずる賢く真実を黙って受け入れられ、正直に話した私は…悲しい」
「エミリアは私を護る為に!」
「分かっています。エミリアも咲さんも悪くない」
重苦しい空気に包まれ息苦しくなって来た。暫くの沈黙の後、ジークさんが
「これ以上私は望めないのでしょうか?」
「今は…」
「なら未来は!」
「何とも言えません」
ぐっと引き寄せ抱きしめるジークさん。嫌いじゃないの…でも…
「分かりました。一番初めから私は選択を間違っていたんですね。もう愛する貴女を苦しめたくない。貴女の前から去ります。もう連絡も会いにも来ません」
「ごめんなさい…」
涙があふれ視界が滲む。見上げたジークさんの目にも涙が…申し訳ないのと寂しさ愛しさ色んな感情が溢れ出し涙が止まらない。何も言わずに抱き締めてくれるジークさんのお胸を借りて涙が枯れるまで泣いた。私の涙が止まり落ち着いたらジークさんが
「何もしない紳士であると神とエミリアに誓う。だから今晩は同衾して欲しい。最後に貴方の温もりが欲しい。それで私は残りの人生生きていける」
「私疲れている時はいびきをかきますよ。幻滅し共にした事を後悔するかも…」
「(いびきは)私もしますよ。咲さんのいびきさえ愛おしいんですよ私は」
「後で幻滅したって後悔しても知りませんよ」
「ありがとう…では!早速ベッドに行きましょう」
「!!」
ジークさんは立ち上がり私を抱きかかえて寝室へ歩き出した。
そしてタチバナさんを呼び翌朝まで退室を命じた。ジークさんの腕の中で恥ずかしくて小さくなる私。きっとタチバナさんは誤解している。いたしませんから!添い寝するだけって言いたいけど言える訳もなく更に小さくなる私。
ジークさんのベッドに下ろされジークさんに抱え込まれる。
手のやり場に困り自然に手がジークさんのご立派な大胸筋に…すると左手の痣が熱くなる。すると驚いたジークさんが
「今、痣が熱くなったのですが!」
「私もです」
「「・・・」」
お互い顔を合わせ見つめ合ってしまった。恐らくジークさんも感じている筈。痣が呼び合っているのを…
でもお互いそれに触れずに抱き合って眠りについた。
翌朝。目を覚ますと優しい若葉色の瞳と目が合う。
「おはよう咲さん」
「おはようございます。昨晩は蹴ったりしませんでしたか?」
「とても寝相が良すぎて何度も息をしているか確認しましたよ」
柔らかく笑ういつものジークさんに安心する。この後2人でリビングに行くとタチバナさんがお茶を入れてくてゆったりした朝を迎えた。
タチバナさんも後で来た倉本さんも何も言わない。その心遣いが嬉しい。用意された朝食を時間かけ話しながらゆっくり頂く。
そして…ジークさんは私の目の前でスマホの私の連絡先を全て消した。私も同じように削除する。
そして私は別室で帰り支度をする。何度もタチバナさんと倉本さんが送ると言ってくれたが、別れが辛い私はタクシーで帰ると伝え、タチバナさんと倉本さんにお礼を言いハグをした。そして…扉の前で泣かない様に唇を噛みしめお礼とお別れを述べた。
「咲さん。もし偶然再会したら今度は恋愛対象として見てくれますか?」
「今の段階では何とも…でも、このままさよならは正直寂しいと思っている自分がいます。だから…」
ジークさんの肩に手を置いて背伸びをしてジークさんの頬に口付けた。そしてジークさんの首に腕を絡め抱きついた。
「ありがとう…また縁があったらいつかどこかで…」
「咲…」
ジークさんが腕を廻そうとした時、離れて3人に礼をし踵を返して退室。必死で振り向かない様にしてEVホールへ向かいホテルを後にした。
タクシーの中で泣きそうになるのを我慢して、自宅についた途端に玄関で泣き崩れ、お昼過ぎまで玄関で寝転がり動けなかった。
「なんでなのかなぁ…」
なんとも言えない気持ちに暫く落ち込む事になる。
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二人の関係に答えを出した二人。別々の道を歩き出す。
本当にこれで終わりなのか⁈
しかしまだ二人には『時渡り』の巫女と騎士の痣があり…
終わりまで後少し、お付き合い下さいませ。
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