48.帰国 ジークヴァルトside2
実家に戻り母と対峙するが手強く…
「とりあえずこの女性とはお見合いなさい!」
「何度言えば分かってくれるのですか!私は咲さんだけだ」
「ダメよあの子は」
「!」
母はうちと同じくインカール王国の侯爵家の直系血筋で気位が高く気が強い。
父とは親が決めた婚姻だが正反対の温厚な父と案外仲がいい。
父は仕事に関しては強引で隙がない。しかしプライベートは拘りが無く家庭内の事は母に任せている。
その父が代表をランディに譲るのも咲さんの為に日本に永住するのも認めてくれている。父も母を説得してくれているが、母は聞く耳を持たない。
母は写真と資料を目の前に置いて見るように強要する。無駄な言い合いは体力を使うので仕方なく目を通す。
一番上の写真見ていると
「彼女はパリコレのランウェイを歩いた事も有りその美貌は有名だわ。それなりの家なら容姿も優れていないと務まらない。この女性とならそれは整った子が生れるわ。何よりまだ若いから2,3人は産めるわね。先方からブライダルチェックの結果ももらっているから大丈夫よ」
「・・・」
無視しペラペラと資料を流し読みした。経歴だけは素晴らしい様だが、私は彼女は知っている。この縁談の前から色んなパティーで接触を受けている。
本人は自分の容姿に自信があるようで煽情的な装いで毎度接触してきた。失礼だが品の良い娼婦のようだ。1μも気が向く事は無い。それに大っぴらにはされていないが、かなり浮名を流しているらしく、兄弟は2桁では足りないかもしれない。
「先方との縁組はとりたてウチに影響がある訳でもないけど、家柄的にはこの位で無いとウチが笑われるわ。ジークがランディの結婚を手助けしたせいで、ランディは普通の女性を娶ったでしょ!せめて貴方くらいは私の願う結婚をなさい」
そう母のいう通り私が手助けしてランティは自分で見つけた一般女性と幸せな結婚をして子供にも恵まれている。親の決めた縁など糞くらいだ!
「一度会えば母上は納得するのですか?」
「会うだけでなく1日デートなさい。1日くらい共にしないとお相手の事が分からないでしょう⁈」
「・・・」
母が腕組みをした。このポーズをした時はこの世界が破滅しようと折れない。溜息を吐き
「では出来るだけ早くアポを取って下さい。早く終わらせたい」
「レティシャ嬢がだめでも、お相手のストックはまだまだありますからね」
「仕事がありますのでもういいですか⁈」
2時間近く母に拘束されもう昼前だった。
直ぐに出かける準備をしオフィスにいる父の元へ。オフィスに着くと父は日本茶と羊羹を嬉しそうに食べていた。見た目に似合わず父は甘党だ。
「やっと帰ってきたね。フローラとは話をしたか?」
「はい。話にならないですよ。見合いしろの一点張りで」
「愛しい人の為に頑張るんだろ?」
「…」
気がつくと秘書のリアナ嬢が日本茶と羊羹を出してくれていた。座り頂きながら仕事の話をする。一頻り話が終わると父が
「ランディからジークの最愛の人は謙虚で素晴らしい女性だと聞いたよ。私はお前が幸せならいい。ランディも最愛の人と結ばれて良かったと思っている」
「父は想う方はいらっしゃらなかったのですか?」
親の恋愛事情など今まで聞いた事も無かったが、あの母を愛しているのか疑問に思ってしまった。私の意図が分かった様で笑いながら
「親の決めた縁だがちゃんとフローラを愛しているし愛おしく思っているよ」
心の中で”何処が?”と呟いているのが分かったのか父が苦笑している。
そしてスマホを取り出した父は操作して画面私に見せる。
「レイとミラだよ。大きくなっただろう?」
「あぁ…可愛いなぁ」
レイとミラはランディの双子の子で2歳を迎えたばかりだ。ランディに子が出来て後継の心配はない。父は子供が大好きでスマホを見る目はとても優しい。
母の使いで一週間も日本にいて子供に顔を忘れたら私のせいだとランディに文句を言われた。
「サーシス様。そろそろ」
「あぁ…明日ランディが帰る。久しぶりに家族で食事をしよう」
「はい」
こうして父は次の予定があり退室して行った。私はスタッフに声かけをしてまわり実家に戻った。
翌日、ダイニングルームに行くと両親がいた。着席し朝食を食べていたら母が
「3日後にお見合いをセッティングしたわ。滞在するホテルに迎えに行きなさい」
「はぁ…わかりました」
不機嫌に返事すると父と母は今日帰ってくるランディと夕食を共にする為、孫のプレゼントをこの後買いに行く様で楽しそうに相談している。あれだけランディの結婚に反対していたのに、可愛い孫が産まれ態度を急軟化した母に苦笑いする。
とりあえず母が推す女性と見合いさえすれば納得するだろう。母の件もあるか仕事関係もやる事が山盛りある。食後は直ぐオフィスに向かいCEO変更の手続きに取り掛かる。
「ジークヴァルト様。お時間でございます」
タチバナに声をかけられ急いで帰る。自宅に着くとリビングから楽しいそうな声が聞こえてくる。部屋に入るとレイとミラが楽しそうに父の母の間に座り絵本を読んでいる。
その向かいにランディと奥方のクラリスが寄り添って座っている。
私に気付いたクラリスは立ち上がり会釈し、双子はソファーを降りゆっくり駆けてくる。屈み両手を広げると抱き付いてきた。2人を抱き上げ温かい重みに和む。
「ねぇ!子供を持つ事は素晴らしいわ。ジークも早く我が子を持ちなさい」
穏やかな気持ちを母の余計な発言で萎えた。母の言いたい事は分かっている。
母は咲さんの事を調べ上げ、彼女の年齢では子供は無理だと言いたいのだろう。
相手すればまた喧嘩になり団欒の雰囲気が悪くなる。双子を父と母に預けて寛ぐランディの元に行き拳骨を一発頭に入れた。
「何!痛いよ!」
「咲さんに対して馴れ馴れしい!」
「ちぇっ!悋気全開かよ」
「だか…ありがとう」
「俺は応援してるよ。きっとエミはクラリスとも気が合うよ」
こうして久しぶりに家族で食事を共にし、この場に咲さんが入る事を夢見る。食事会が終わりランディは家族と帰って行った。すると母が
「先程先方から連絡があり、明日こちらに到着し暫く滞在するそうよ。ラグーナホテルに滞在するそうだから、3日の11時に迎えに行きなさい」
「分かりました」
「気に入ったらそく関係を持ってくれ…」
「フローラ…」
「!」
とんでもない事を言った母を父が珍しく非難する。強気の母も父には言い返せない。
咲さん以外に欲情する事はない。そう思い咲さんを思い出すと男の欲が出てくる。
『早く咲さんと一つになりたい…』
そう思い。部屋に戻り咲さんに連絡を取る。
苦痛でしかない母の相手と忙しい仕事を進める。糧は咲さんとの電話だ。早く見合いを終わらせ母を説得しなければ。
そして見合いの日が来た。相手が滞在するホテルに着いた。ロビーにレティシャ嬢が座っている。
「!」
レティシャ嬢は以前会った時は自分の魅力を分かっていて派手な装いをしていた。しかし…
「ジークヴァルト様。ご無沙汰しております」
「こちらこそ。母が無理を言いまして…本日は1日お付き合いよろしくお願いします」
彼女はシンプルな若葉色のワンピースと白色のカーディガンを着て低めのヒールに履き、今までと違い華奢には見える。
恐らくウチとの縁を望み咲さんの事を既に知っているのだろう。それに若葉色のワンピース…私の瞳の色だ。側から見ればカップルに見え、明らかに狙ってやっている。
あざとく嫌悪感が増す。
彼女をエスコートし車に乗り母が手配したミュージカルを見に行く。車内では和やかにお互いの話をする。見た目は清楚で大人しい雰囲気だが、話しているうちにぼろが出る。
自信家で男を懐柔し相手を思うように操縦したいのが分かる。会場に着き車の扉を開けると彼女は無言で手を出す。手を差し伸べエスコートしたら満足気な顔をだ。
『咲さんなら”ありがとうございます”と何をしても感謝してくれる。この様は何気ない仕草で為人が分かるなぁ』
あー何をやっても咲さんを思い浮かべてしまう。
ミュージカルを観終えて彼女の希望でショッピングに付き合う。有名ブランドショップに連れて行かれ彼女のパーティードレスを選ぶ。
「レティシャ様はどんな装いも着こなされますのて、ジークヴァルト様の装いと合わせましょう」
「そうね。ジークヴァルト様に合わせて選んで頂戴」
レティシャ嬢が選んである間に、咲さんに似合いそうなパンツスーツを見つけて紺色とダークグレーとどちらにするか悩む。
「ジークヴァルト様。このドレス婚約パーティーにピッタリだと思うのですが似合います?」
「私に合わさずご自分が似合う物を選ばれては?」
私の発言に彼女は本性が出て明らかにイラついている。店員は慌ててフォローしているが知らん。無視して別の店員に先程見ていたパンツスーツのダークグレーに決めサイズを伝えてプレゼント包装してもらい自宅へ届けてもらう。視線を感じ振り返ると不機嫌なレティシャ嬢が無言で見ている。
そして強張った顔をして化粧室へ行ってしまった。待つ間にランディが送ってくれた咲さんの写真を見て癒される。
早く会いに行きたい…
化粧室から戻ったレティシャ嬢は先程と違い機嫌良く不気味だ。買い物を終え早めに夕食をとるために有名レストランへ。個室に案内されシャンパンで乾杯し歓談し、食事をしていたらレティシャ嬢が手を止めて
「ジークヴァルト様が想いを寄せている女性がいらっしゃるのを存じております。しかし貴方は世界有数企業の代表であり高貴な身分。家の繁栄の為の婚姻をなさるべきです」
「何が言いたいのですか?」
「私が受けた報告では彼女性は魅力的でおモテになるよう。既に恋人がいるのでは?」
「貴女に関係ない話だ」
「私は貴方のプラスになる女ですわ」
やはり咲さんの事を知っている。嫌な女だ。
この後もずっといかに自分が有能かアピールし端々に咲さん蔑む発言をする。
頬を染め次の約束を取り付けようとするレティシャ嬢。しかし私はもう早く帰りたいし二度と共にする気はない。
長かった見合いが終わりレティシャ嬢をホテルまで送りロビーでお別れを述べると抱きつかれた。そして耳元で
「貴方の愛しい人は男がいます。私になさい」
「!」
レティシャ嬢はとんでもない事を言い、私の頬にキスをして去っていった。車に戻りハンカチで頬を拭き嫌な予感がし直ぐに咲さんに連絡する。
咲さんはいつも通りだが少し様子ごおかしい。何かあるのか?忙しいからか?
様子を見て変わらないなら愛華さんに探りを入れてもらおう。
こうして家に戻り一番に母に見合いを断り、シャワー浴びてあの女の匂いを落とし早めに就寝した。
そして翌日、ダイニングルーム行くと不気味な微笑みをたたえた母が別の令嬢の釣書を持って待っていた。
『もぅ勘弁してくれ!』
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