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47.帰国 ジークヴァルトside 1

親、仕事全て解決したジークヴァルト。日本行きの飛行機の中で咲に想いを馳せる。



『私は空腹で狂いかけている獣です。あまりお預けをくらうと暴走するやもしれませんで、お承知おきいただきたい』


長い間咲さんに会えておらず苛立ちがピークだった。珍しく感情を抑えられなかった。

咲さんに会ったら襲ってしまいそうだ。


「それにしても私にしては時間がかかったな」


日本へ向かう機内でここ数週間の出来事を思い出していた。



咲さんに母と向き合う様に言われ母国に向かう機内。搭乗前に母に戻る旨をメールする。間髪入れずに返事が


『やっとだわ。言いたいことが沢山あります。会わせたい女性ひとがいるからそのつもりで』

「やっぱりか…」


直ぐ返信を打つ。


『私は誰もと見合いをする気はありません。私の想い人は咲さんだけです。母上であれ口出しさせない』

『まぁいいでしょう。やっと帰ってくるのだから。じっくり話しましょう』


相変わらず強引だ。穏やかな咲さんの顔が脳裏に浮かび既に日本に帰りたい気持ちで一杯になる。早く終わらせて咲さんを迎えに行かないと悪い虫がついてしまう。

飛行機は離陸しベルトサインが消えた。

機内でノートPCを立ち上げ仕事を始める。今回の帰国はCEOをランディに譲る目的も有る。勿論ランディ、父、役員達も了承済みで後は母のみだ。私は株を保有し何かしら会社の運営には関わり、今後も相談やアドバイスはする事になるだろう。全て終わったら日本でコンサルタント会社を立ち上げ日本に根を下ろすつもりだ。


暫く仕事をしそろそろ一息つこうと客室乗務員フライトアテンダントに飲み物をもらい、USBメモリーを差込みある資料をみる。

これは咲さんの家から一番近い主要都市の不動産情報だ。住み慣れた街を離れるのは咲さんの負担になる。だから私が咲さんの近くにオフィスと家を構えて咲さんを迎えるつもりだ。


「やはり轟町駅前がいい。咲さんの職場も近いし商業施設があり便利だ。この辺りに建てようか…」


咲さんとの未来を見据えるだけで気力が湧いてくる。早く日本へ帰るために長い間フライトの間は仕事に集中する。

少しすると疲れたので一旦仕事をやめ休憩し…


「ジークヴァルト様。失礼します。まもなく着陸致しますのでご準備を」

「あぁ…少し眠っていた様だ。ありがとう」


タチバナに起こされ降りる準備を始める。

窓の外を見ると空港が近いのか機体が高度を下げ始めている。

生まれ育った母国を眼下に溜息しか出ない。本来は母国には里心が湧くはずなのだか全くない。綺麗な街並みを見ながら複雑な想いだ。

入国手続きを終え到着ロビーから出ると母の執事が待ち構えていた。逃げると思われているのだろう。


「お帰りなさいませ。ジークヴァルト様」

「子供じゃないんだ。迎えは要らない」

「フローラ様が首を長くしてお待ちでございます」

「心配しなくても本宅には行く。所用の後に本宅へ行くから母上にそう伝えろ」

「必ずお連れする様に仰せ使っております故に…」

「しつこい!責は私が負うから先に帰れ」

「…畏まりました」


溜息を吐き空港を出るとタチバナが車をつけていて、乗り込んである場所へ向かう。


「タチバナ。追跡は…」

「はい。しっかり付いております。お任せ下さい」


先程の母の執事が車をつけている。タチバナに任せれば撒けるだろう。暫く街中を走りやっと撒いたようだ。そして目的の場所へ


「ジークヴァルト!この日が来るのを待っていたよ!」

「久しぶりだフランシス!老けたな」

「お互い様だ。さぁ!話を聞かせてくれ!」


訪れたのは郊外の小さな宝飾店。ここはアカデミーの友人フランシスが経営する店だ。彼は歴史ある家の長男だが、ジュエリーデザインに才があり親の反対を跳ね除け独立し自分でお店を経営している。


「彼女女性が見つかったんだな」

「あぁ…遠い日本にいたよ」

「はぁっ!通りで見つからない筈だよ。写真はないのか?」

「写真でも愛しい女性ひとを他の男の目に晒したくない」


フランシスは腹を抱えて笑う。


「氷の貴公子が嫉妬かよ!お前をそこまで魅了するレディを余計に見てみたい。それにデザインするならレディの姿や性格が分からないと出来ないぞ」

「…分かった。だかその前にお茶くらい出してくれても良いんじゃないか⁈」

「すまない興奮しすぎた。奥に入ってくれ。マギー店を頼む」


こうして奥の部屋に案内される。

席に着きスマホに咲さんの写真を映し出しフランシスに見せる。するとフランシスは笑いながら奥の金庫から小さな箱を出してきた。

見ずとも分かる。何故なら()()は私が彼に預けた物だからだ。箱から石を出してきた。


「預かった時に何故これをお前が選んだのか理解できなかったが、今レディの写真を見て全て繋がっていたよ」

「あぁ…不思議な縁だよ」


出してきた石は十数年前に仕事の関係で知り合った宝石商に見せてもらったブラックダイヤモンドの原石だ。上物でかなりの値がした。この原石を見た時に衝撃を受け即決したのだ。そしていつか出逢うエミリアに送るエンゲージリングにしようと、ジュエリーデザイナーのフランシスに預けていた。

その時エミリアが黒い瞳の女性に生まれ変わっているなんて知り得なかったのにこの石を選んでいた訳だ。やはり無意識に前世の縁を感じ取っていたのだと感じる。


「ふっ…」

「何だ?」

「本物のエミリアなんだなぁ…お前がそんな男の顔するのを初めて見たよ」

「あぁ…直ぐにでも抱き寄せて彼女の全てが欲しい」


フランシスは私の肩を叩き


「最高のリングを作るよ。だから惚気覚悟でレディの話を聞いてやるから話せよ。イメージしながらデザインするから」

「時間はいいのか?彼女の話なら何時間でも出来るが」

「はぁ重症だなぁ。日付が変わるまでにしてくれよ」


こうして座り直し咲さんとの出逢いから話を始めた。


気がつくと日が暮れていて店員のマギー嬢が

閉店準備を始めていた。まだまだ話し足りない俺を察して店を閉めて、2階のフランシスの自室に案内してくれる。

そしてデリバリーで頼んだピザを食べながら話を続けていた。徐にフランシスが


「スマホ鳴りっぱなしだが、出なくていいのか?」

「母からだ。出ても”早く帰って来い”しか言わないから放って置けばいい」

「お前の母親煩いもんな」

「あぁ…うんざりだ」


こうしてピザを食べ終わる頃にフランシスのデザイン画と私の話は一通り終わった。


「いゃ〜お前の前世の話は小説になりそうだと昔から思っていたが、探し出した前世の恋人の人生も壮絶だなぁ!この話は映画になるぞ」

「そんなん事はどうでもいい。描けたのか?」

「お前が話したレディからイメージして描いてみた。どうだ」


フランシスがデザイン画を見せてくれる。宝石もリングも小ぶりの可愛らしいデザイン。華奢な彼女によく似合う。

2枚目には石のカット図が書かれていた。

石のカットはハート&キューピットにしてもらう。


デザイン画をじっくり見て基本はフランシスのデザインで若干の要望を伝え直してもらう。流石人気デザイナーだ。数回の修正で完璧なデザインになった。


「明日から取りかかりどのくらいで出来る?」

「2、3週間くらいだ。最高のリングにする。期待してくれ」

「ありがとう。いくら掛かっても構わない」

「毎度あり!」


この後仕事の話を少ししてフランシスの店を後にした。

フランシスの店から本宅まで車で1時間。本宅に着くと日が変わろうとしていた。

玄関を開けると仁王立ちの母が


「中年不良息子!遅い!」

「母上。今帰りました。もう遅いので話は明日伺ます。お体にさわりますから母上もお早くお休みを…」


挨拶だけして自室の方へ向かう。背後で母が吠えているが気にしない。時計を見ると咲さんに連絡出来そうだ。ダメ元で連絡して休む前に咲さんの声を聞けた。体は長距離移動で疲れたが咲さんの声を聞き直ぐ眠りに着くことが出来た。


さぁ!明日から母と対峙バトルが始まる。早く終わらせて咲さんの元に帰りたい…

お読みいただき、ありがとうございます。

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