46.謝罪
叔父の家に着くなり謝罪され意味が分からず…
伸一君に支えられ頭を深々下げる佐和子さん。母も私も困惑している。
「あの…意味が分からないんですが」
「佐和子さん腰が悪いのにやめて!」
意味が分からないので、とりあえず何についての謝罪なのか聞く事にした。
「ごめんなさいね。思いが先走ってしまって。とりあえず食事から始めましょうか」
そう言った佐和子さんが杖をつきながら食卓へ案内してくれる。
食卓には美味しそうな料理が並び頂く事になった。食事中はお互いの近況報告をし、年頃の子供を持つ親の愚痴となった。伸一君の家族は今日は出かけているらしくお会い出来なかった。
食事が終わり伸一君と片付けをしコーヒーを入れた時点で今日の本題が始まる。
伸一君は奥の部屋から箱を持ってきた。
箱からは古びた長方形の缶が出てきた。
“ドキッ!”何故か缶を見た瞬間動悸がした。
「えっと…これは?」
「佐川の本宅と所有していた土地一帯が、アウトレットモールの再開発予定地なのは知っていますか?」
「ええ、ニュースで知りました。叔父さんがよく手放しましたね」
「…」
佐和子さんも伸一君も顔を歪め話し出した。
どうやら叔父さんは余命宣告されており入院中。昔からは考えられないくらい弱っていて、家の事は伸一君に全て一任したそうだ。
佐和子さんも伸一君も祖母や叔父さんを嫌悪しており、いいチャンスとばかりに所有する不動産を全て売却し、離れた今の土地に商業ビルと賃貸マンションを建て移り住んだそうだ。
「本家の母家解体時に庭にあった白木蓮を檀家だった寺の住職が、切るのは可哀想だと言い、寺に欲しいと言われ移植する事なったんだ。そして掘りおこしたらこの缶が出てきて中を開けたら…」
伸一君はそう言い缶を開けた。母と中を覗き込むと、見覚えのあるノート数冊と紙が数枚出てきた。ノートは私が小さい頃に流行っていたアニメのキャラクターノートだ。そして紙にはエミリアとアルフレッドの似顔絵が。
佐和子さんは泣きながら
「何か分からず缶を開けて中を見たら、咲ちゃんがウチにいた時に書いたものだと分かったの。ごめんなさい。咲ちゃんに渡した方がいいのか分からずノートを読んだら…」
佐和子は嗚咽を漏らし喋れなくなり、伸一君が代わりに話し出す。
「ノートは咲さんの日記だったよ。…俺はまだ幼稚園で何も知らなくて、母さんは知っていたがばぁさんと親父が怖くて何も出来なかったらしい。離れに隔離されネグレクトだった事は大人になり母さんから聞いてはいたが、これほど酷かったとは…今の時代なら虐待で警察に捕まっているよ」
「!」
横を見ると顔面蒼白の母が震えている。母も佐和子さんも倒れそうな状態に、お手伝いさんに2人を別室で休ませてもらう事にした。
伸一君と2人なり話を続ける。そして”欠席10日”の真相が明らかに。
「咲さんが2年生のG.W明け。学校を長期欠席しただろう?あの時インフルエンザって事になっていたが、実はばぁさんが虐待しひどい怪我を追い、発覚を恐れたばぁさんが医者の大叔父に手伝ってもらい隠蔽したんだよ」
「虐待?」
「咲さん覚えてないのか?」
「何故休んだか全く覚えいなくて…」
佐和子さんと伸一君もこの日記を読むまで知らなかったのだ。なぜなら2人は理由も聞かされず祖母と叔父に佐和子さんの実家に2週間帰されていたそうだ。
「母さんは実家から帰るとあからさまに雰囲気が変わった咲さんと、祖母の様子が違うと感じたそうだ。そしてそれ以降祖母は咲さんを避け前の様に叩いたり暴言を言わなくなり、反対に安心したらしい」
「はぁ…」
暴言は何時もだったが叩かれた記憶はあまり無いから何も返事できない。
「親父は終わった事だから処分しろって言ったけど、処分するとしても伯母さんと咲さんに了承を得るべきだし、それに母さんが2人に謝罪がしたくてお呼びしたんだよ。本当なら俺らが伺うべきなんだが、母さんが腰が悪く長距離移動出来なくて申し訳ない」
「いえ…」
目の前にある日記に真実が。知りたかった真実。でも正直怖い。
恐る恐る震える手で日記を手にする。表紙は当時好きだったフラワープリンセスのイラストの自由帳。意を決して開こうとしたら…
“バン!”
「伸一さん!お客様が!来て下さい!」
お手伝いさんが慌てた駆け込んできた。伸一君と私はお手伝いさんについて行くと、客間で過呼吸になり蹲る母を佐和子さんが名を呼びながら母を介抱している。
「母さん何があったの!」
「あの日記を気にしていた美佐枝さんに書いてあった事を話していたら、急に苦しみ出して!」
母は祖母の家で話になると体調をよく崩す。いーさんが内科医でこんな時は対処してくれるんだけど…
「救急車を!」
「やめて…めいわ…く…少し…した…ら…」
私はすぐにいーさんに連絡し事情を説明。いーさんは鼻口元を数秒ハンカチで押さえるのを数回繰り返すように言い、近くの知り合いの医師に連絡してくれる。
いーさんに言われた通り処置をしていたら、いーさんから折り返しの電話が
「そこ古城市で開業している後輩がいる。今電話して受け入れをお願いしたから。調べたらそこから車で20分ほどだからそこに行きなさい。住所はメールで送ったから」
「ありがとう。病院に着いて落ち着いたら連絡するわ」
母は少し落ち着いたが念のため伸一君の車で病院に向かう。車内で母を抱えて「大丈夫」だと声をかけ続ける。
病院に着くと連絡してあったので直ぐに診察してもらい点滴を受ける事になった。
先生から話を聞きいーさんに電話する為に外へ。
外には伸一君がいて佐和子さんに電話をしていた。その横でいーさんに連絡すると、診察してくれた後輩から病状は聞いたみたいだった。
「この調子で長距離移動は負担がかかるから泊まった方がいい。従兄弟の家で精神的負担があったようだから、そこに泊まるのはやめて。ビジネスホテル手配し部屋が取れたら連絡するよ」
「色々ありがとう。また連絡するわ」
電話を終え処置室へ行き母の様子を見る。薬が効いて眠っている。看護士さんに聞けば後1時間ほどは薬が効いて目覚めないらしい。この間に宿泊の用意を買いに行くか…
待合室で待つ伸一君にビジネスホテルで1泊するち言い、宿泊準備の買い出しに行くと伝え伸一君には一度帰ってもらった。
そしてスマホで調べると少し歩いたところに、大型のショッピングモールがあった。
直ぐにショッピングモールに行き、泊る用意と翌日の着替えを買い病院に戻る。処置室に戻ると母はまだ眠っていた。するといーさんからビジネスホテルが予約が出来たと連絡が入る。
ここでやっと一息ついた。まさかな展開に自分の事を考える暇がない。佐和子さんから話を聞き母が卒倒したのだ。私もかなり気合いを入れて日記を読まないとヤバいかも…
「咲…」
「あっ目が覚めた。どう?気持ち悪かったり痛いとこ無い?」
「大丈夫。母さん貴女に迷惑ばかり…」
「はいはい!また過呼吸なるよ。母さんに何かあると、いーさんと凛が泣いちゃうんだからね!」
「うん…」
「いーさんが日帰りすると母さんの負担になるから泊まりなさいって。ホテルも手配してれたよ。いい旦那様だね」
「うん…でも泊まり用意が…」
「買ってきてあります」
買い物袋を見た母は苦笑いして
「やっぱり泊まりの用意しとけば良かったね」
「だね」
やっと穏やかになった母の顔を見て安心する。看護士さんに母をお願いし、伸一君へ電話をする為に外へ。
「あっ!伸一君?治療終わってもう大丈夫だから。母の負担が無いようにやっぱりこっちで1泊するわ。ゔ…ん有難いけどまた発作が起こるといけないから、ビジネホテルを予約したわ。そこでお願いが…」
そう。もう佐和子さんの家には行かない方がいい。でも車は伸一君の家だ。
伸一君にお願いとは車とあの日記をここまで持ってきてもらう事。
伸一君は快諾してくれお手伝いさんと一緒に車を病院まで持って来てくれるらしい。
待つ事1時間。連絡が来て母を病院の待合室に待たせて車を受け取りに駐車場へ。
「ありがとう。佐和子さんは大丈夫?」
「あぁ…最後まで咲さんに迷惑かけたと落ち込んでいたよ。落ち着いてからでいい。電話でいいので母の謝罪を受けて欲しい」
「佐和子さんか謝る事では無いけど…佐和子さんの気が済むなら…」
「ありがとう。例の缶は伯母さんの目に付かない様に、トランクに入れてあるから。見送り出来ないから明日気をつけて帰ってね。で…これ…」
「?」
渡された封筒には結構なお金が。伸一君が宿泊代だと渡してきたが断る。押し問答したが、気を使われすぎると反対に負担になるとはっきり言い断った。
そして別れ際にお互い親をしっかりみてあげようと言い合いここで別れた。
そして自分の車を病院入口につけ母を乗せ、ナビにホテル情報を入れてホテルへ向けて発車した。
ビジネスホテルにチェックインしたのはもう夕飯の時間。荷物を置いてホテルの近くの中華のお店に入り食事をする。
メニューを見てお高くてびっくり。母が慌てて自分が出すと言うので、いーさんからお小遣い貰ってるから大丈夫だと伝える。食事をしていたら母が
「母さんね。咲のパパが大好きで再婚なんて考えなかった。でも咲が大きくなり手が離れたらやっぱり寂しいかもって思いだしてね。そんな時にいーさんが側にいてくれて、また幸せな時間がきたの」
「おっと元気になっなら惚気?」
「そうじゃなくて!咲も私と同じで夫に先立たれ1人じゃない。もう直ぐ凛も成人するし、自分の事に目を向けてもいいと思うよ」
「それって…」
「歳をとると寂しさが倍増するから、再婚しなくていいから、心の拠り所になる人はつくった方がいい」
思わぬタイミングでの母からの助言に驚く。そしてジークさんの顔が脳裏にうかんだ。
「やっぱり惚気じゃん⁉︎」
と笑って誤魔化した。そして母を見ているとそれも良いかもと少し思えた。
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