43. 微熱再び
ハニー君こと田沢さんの問題が解決?して身の回りは落ち着く?
何もやる気が起きずにぼんやり動画サイトで動物の動画をみて癒されている。今見ているのはウサギと夕陽山動物園のライオンの動画だ。
ウサギはネザーランドドワーフの小麦色のライス君の動画で毎日チェックしていて、ライオンは数日前に目にとまり見ている。
ライオンは番になったばかりで雄ライオンが一生懸命に雌ライオンの気を引こうと奮闘している。雌のツンデレと雄の必死さが面白くて見ている。
凜が小さい頃に動物を飼う話が出たが凜が猫以外は嫌だと言い、賢斗に猫アレルギーがあった為飼うのを諦めた。
私はウサギが好きだからウサギを飼いたかったが、共働きだし凜は嫌がり賢斗はウサギに嫉妬するからと反対。
1人になった今なら飼う事が出来るが働いていてほぼ一日誰も居ない家では可哀想で飼う決心がつかない。老後に飼う事を夢見て今日もライス君の動画で癒されている。
喉が渇きキッチンに行くと外はもう日が暮れている。結局1日休んだのに何もしなかった…
何度目かになる『出勤すればよかった』を呟き洗濯物を取込み、玄関まわりの戸締りを確認し夕食の準備を始める。
今日は何もする気が無いからレトルトのカレーとカットサラダを用意し簡単に済ませる。
夜8時そろそろジークさんから連絡が入りそう…
“♪♪~♪”やっぱり
「はい」
『こんばんは。今大丈夫ですか?』
「はい。送迎の手配等色々ありがとうございました」
『いえ、貴女を巻き込んで大変申し訳ない』
「そうですね…もう勘弁して欲しいかなぁ…」
『・・・』
珍しく黙り込むジークさん。その沈黙に嫌な予感がして来た。でも何て言えばいいか分からず私も沈黙してしまう。
少しの沈黙の後ジークさんは溜息を吐いて話を続ける
『母は今回のレティシャ嬢の一件で私の縁談は諦めてくれたのですが…』
「ですが?」
『今度は貴女に会わせろとうるさく困っています。私としては貴女の心を得てからと思っているのですが、歳を理由に早く会わせろと諦めてくれません』
「・・・」
『あ!咲さんが私より年上という意味では無くて、母が自分が元気な内に会いたいそうです』
思わず絶句した私に焦りだすジークさん。まだ自分の気持も分からない上に、記憶を無くした経緯もまだ分かっていないのにジークさんのお母さんとかあり得ない!
心の中で『これは逃げるしかないかも…』そう思ったとき
『咲さん。母は死んでも何とかします。逃げないで!』
私の心の声が聞こえたのか必死なジークさん。ハニートラップを仕掛けられた上に体調まで崩し会社を休む事になったのに、これ以上巻き込まれたくない。
それに母親登場ってラスボスですやん!
『私は必ず周りの人間を納得させ咲さんを安心して迎えたい』
「ジークさんの気持は嬉しいのですが、私どうしていいのか分からなくなってるんです。暫くそっとして欲しい」
『私は今直ぐに貴女を抱きしめたい。そして隣で同じ時間を過ごしたいんだ!』
「ごめんなさい。今私の心は完全に迷子です」
ジークさんの必死さが伝わるが、私の戸惑いはジークさんに伝わっていない。今は何を話しても2人の心は平行線だ。
自分自身モヤモヤしていて本当まだ話す気は無かった。でもジークさんに私の気持ちが伝わらず話す事にした。
深呼吸しジークさんに会うまで前世の記憶は無かったと思っていたが、実は祖母に引き取られるまで前世の記憶があった事をジークさんに話した。
『それは本当ですか!』
「はい。先日母がら話を聞いたんです。そして小さい頃に私が描いたアルフレッドの絵を母が保管していて、その絵も見ましたから」
『何故記憶を無くしてしまったのでしょう⁈』
「分かりません。その頃の事を思い出そうとすると、霧掛かった様になり思い出せないんです。この分からない気持ちはそこから来ている気がして…」
『咲さん一人で悩まないでくれ。私は貴女の支えになりたい。だから一日も早く母と話を着け貴女の…』
「ダメですよ」
直ぐにでも飛行機に飛び乗りそうなジークさんを止めて、しっかりお母様と話し合うようにお願いする。
「私もしっかり自分と向き合って答えを出します。だからジークさんも…」
『分かりました。その代わり手強い母と話し合う為に力が欲しい。だから毎日電話していいですか?咲さんの声は糧になる』
「えっと…はい」
『愛してる。エミリアではなく咲さん貴女を!』
おかしい…また微熱が出てきたようだ。顔も体も熱い!
ジークさんは恋愛漫画の男主人公のような歯が浮くような台詞を連発し、どんどん私の体温を上げていく。
「ジークさん…もう(甘いセリフは)お腹いっぱいだし恥ずかしい!」
『私の想いはこんな陳腐な言葉で言い表せない。日本に帰ったら覚悟して下さい。もっと愛しますから』
「お手柔らかにお願いします」
1時間近く国際電話をして通話料が怖くなりジークさんに半分払うと言うと、その分デートして下さいとお願いされる。
来日後次のデート代は絶対私が払う約束をし、お財布を置いてこないとデートしない伝える。すると笑いながらデートする為ならなんでもすると言うジークさん。
私が奢れるのは庶民的なデートしか無理。デート代を捻出する為に暫く自炊し節約しようと思った。
やっと電話を切りお茶を飲み一息吐く。時計を見ると9時半だ。明日は仕事だから片付けて早めに寝る事にした。
ベッドに入るが中々寝付けず寝返りを繰り返している。そして朝の愛華とハニー君(田沢さん)との会話を思い出していた。
「咲さんって特殊趣味なんですか?」
「?」
「いや!だってジークヴァルト氏も俺もハイスペックじゃないですか!普通の女性ならアプローチされたら嫌なわけ無い。なのに全く眼中にないから」
「ハニー君。振られたからって咲に八つ当たりしないの!」
すると不貞腐れた表情の田沢さんが愛華に食ってかかる。
「愛華さん。そのハニー君はやめて貰えますか!」
「いや!変更予定なし。君はおじぃになっても”ハニー君”だ。おじぃになったら”ハニーさん”に変更してあげよう!」
「うわぁ…マジ勘弁…」
やっと笑いが起きて場が和んだ。そして表情を引き締めた愛華が
「密かに私も疑問だったの。賢斗さんと結婚したからブス専なわけ無いよね。ハニー君は置いといてジークさんって世の中の女性99.9%嫌いな人いないじゃん。あんなにいい男に言い寄られて拒否するのって、何か理由があんじゃないの?私が見る限り生理的に嫌いな訳でも無さそうだし、寧ろ気が合っていて咲はジークさんに好意がある様に見えるよ」
「ゔ…ん…なんでだろう。確かに嫌いでは無いと…」
「咲さんの旦那ってそんなに男前だっだんですか?」
「写メあるから見る?但し落ち込むなよハニー君。かなりのイケメンだから」
そう言い愛華はスマホに残っている賢斗の写メをハニー君に見せている。見て驚くハニー君に何故か誇らしげな愛華。
「旦那さん一般人ですか?男の俺から見てもイケメンっすよ!たった今咲さんのブス専疑惑は晴れましたね」
「いやいやそんな疑惑存在すらしなかったから」
するとハニー君は賢斗の写真と自分のスマホで検索したジークさんの写真を見ながら
「咲さんとジークヴァルト氏とは実は血が繋がってたり、前世で親の仇だったとか特殊な縁があったりして」
「ハニー君は漫画の見過ぎだよ」
「前世…」
「なに?リアリストの咲がファンタジーに興味示した。珍しいね」
2人に指摘されハッとした。確かにジークさんは嫌いでは無く寧ろ一緒に過ごすのは心地いい。人見知りの私にしたら珍しい。
でも前世の話しになったり、迫られると心にブレーキがかかり、何故か逃げたくなってしまう。まるで呪いや暗示、制約を受けているかのようだ。
朝の会話を思い出していたら時間経っている。スマホを手に取り時間を確認したら10時半だ。おかしい…今日は疲れているから眠れるはずなのに寝付けないよ…
諦めてまたぼんやり考え事をする。
「やっぱり祖母の家での2年の間に何かあったんだ。でも私自身が覚えていないし、母は離れて暮らしていて知るわけ無い。解決の糸口すらないよ。どうしたものか…」
封印し見ないようにしていたあの2年に向き合わないといけないようだ。
ゔ…ん…とりあえず次の休みまで無難に過ごして母の元へ行き、避けてきた祖母で過ごした2年間の痕跡を探そう。
と決心はしたが既に胃が痛い。
ジークさんも頑張っているから私も…
その後ジークさんはお母様との話しに長い日数を要する事なる。
そして翌日から毎晩9時ぴったりにジークさんから連絡が来て、どんどんデートの回数が増えていく。そして毎晩甘い囁きを受けて毎晩微熱に悩まされる事となった。
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