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42.訪問者

心労からか熱を出した咲。会社を休み気持ちの整理を図ろうとしていたら

微熱で怠い体を引きずりベッドに沈み込む。

明日の食材もたっぷり買ってあり1日のんびりする事した。


「それより熱が下がらないなら病院には行かないと…」


昼にいっぱい寝たから眠れないと思ったが、やはり疲れているのかすぐ寝つく事ができた。この夜は夢も見ず熟睡。


翌朝…いつも通り目が覚めた。怠さはマシになり熱を計ると平熱まで下がっていた。

安堵しいつもよりのんびり家事をし遅目に新聞を取りに玄関先に出ると!


「咲さんおはようございます」

「!」


目の前に朝からキラキラの田沢さん。何で家を知っているの!固まりたじろぐ私に近付く田沢さん。ふと視線感じるとお隣の住田さんの奥さんが心配そうに見ている。その目は『助けようか?』と言っている。どうするのこの状況⁈


「咲!お待たせ!田沢さん先に着いたのね〜」

「愛華⁈」


朝一愛華までもがうちに来た。もう何が何だか分からない。でも愛華の登場に住田さんの奥さんは安心したようで、会釈し家に入って行った。すると愛華が近付き小声で


「悪目立ちするから家に入ろう」

「ゔぅん…」


何故か朝から愛華と田沢さんを家に招き入れる事になってしまった。

コーヒーを入れている間に愛華は普通に田沢さんと話をしている。摩訶不思議な状況に頭がついて行かない。コーヒーを入れお出しすると田沢さんが紙袋を手渡してくる。中を見たらサンドイッチとカップに入ったフルーツが入っていた。


「咲さん。愛華さん。朝食がまだでいたらどうぞ。もし召し上がっていらしたらお昼に召し上がって下さい」

「うわぁ!ありがとう!咲出して!私朝食まだなの!」

「えっと…うん。田沢さんは召し上がりますか?」

「はい。一緒にいただきます」


こうして頂いた料理をお皿に移し何故か3人は我が家で朝食を食べています。

全く状況が分からず田沢さんの経営するオーガニックレストランの美味しいはずのサンドイッチも味がしない。それより2人は平然と他愛のない会話を楽しみながら食事をしている。て言うか何故2人は私が休みだって知っているの?今日は月曜日で今は朝9時半。普通なら私は職場にいるんだよ。それに休みは昨晩急に決めて社長とチーフそれにジークさんしか知らないのに!

頭の中で色々考えていたら愛華と田沢さんは食事を終えた様でコーヒーを飲み座り直した。そして


「まず咲の疑問を一つずつ解消していこうね」

「うん。説明して。ずっとパニック状態なんだから」


いつもの様に屈託なく笑いながらまずは愛華が説明してくれる。

まず愛華が今日来たのはジークさんの依頼だった。私が仕事を急に休んだので心配だから様子を見に行って欲しいと昨晩連絡があったそうだ。


『体調が悪いって言って無いのに…倉本さんか!』


あの時のあの沈黙は私の様子に気付いていたんだ。恐るべし倉本さん。流石秘書だ。


「でね体調悪いなら病院連れて行こうと朝一家まで来たら玄関先に田沢さん居たからびっくりよ。確かお隣さんってお節介さんでしょう?あのままいたら警察とか通報しそうだったから声かけたの」


お気楽そうで結構思考深い愛華。いい友達を持ったとうるっ来ていたら愛華が


「で!なんで田沢さんが咲の自宅知っていて来てるの?怪しさ満載なんだけど。ジークさんから秘書の倉本さんの携帯番号聞いているから、ヤバそうな時は連絡するよ!近くで待機しているからすぐ突入してきてくれるから、変な事考えない方が身の為だからね」

「!!」


まさか倉本さんが待機しているなんて…確かに愛華が来た時からおかしいと思ったの。普段ウチに来る時は車で来るのに歩きだしこんな朝一から来た事なんて無い。愛華に凄まれ苦笑いする田沢さん。愛華が睨みを効かせて黙ったところで田沢さんのターンだ。


「やっぱり俺の判断は正しかった。俺ジークヴァルト氏と咲さんの仲を裂くハニートラップ要員つまり間男だったんですよ。自分で言うのも何ですが俺は男前イケメンで若く美容系の会社経営していてお金あるから遊び相手には持って来いでしょう⁈

だから楽勝で誘惑できると思っていたんですがね…」



やっぱり思いっきり思惑ありありじゃん!そうでも無いと私にアプローチする訳ない。田沢さんは悪びれることも無く話を続ける。


「いや!咲さんは手強かった。久しぶりに狩猟本能発揮し落としたいと思える女性に会いましたね」

「何言ってるんですか⁈気は確かですか?」

「前に言いましたけど俺はストライクゾーン広いんすよ。上限なしで今までの彼女の最高年齢は62歳でした。容姿もですが心が魅力的な女性は俺の感性に刺激をくれお金を払っても付き合いたい。

咲さんはとびぬけて美人でもなく大人しそうだから軽くモーションを掛けたら落ちると思って見縊っていたんです。落ちるどころか逃げられ、代わりにバス停のケバイOLに言い寄られるし、今までの俺には考えられずモテ男の自信を無くしましたよ」


誠実そうなイメージ田沢さんはたった今崩れ去りました。愛華がずっと田沢さんを睨んでいるのに気にもしていない田沢さんは話を続ける。


「初めはね仕事と割り切りお姉さんと火遊び出来ればいい位に思っていたけど、咲さんと話し視線を合わす内に、平凡だけど心地いい雰囲気に俺の感性が刺激され、マジ惚れたんですよ」

「いやそう言うのマジいいから」


愛華のイライラが加速して行くのが分かり焦る。愛華がキレると収拾が着かなくなる。


「咲さんがフリーなら…」


愛華が徐にスマホに手を伸ばした。倉本さんを呼ぶ気?


「愛華!駄目!」


愛華からスマホを取り上げようとしたら


「倉本さんじゃないよ!ジークさんに報告」

「ちょっと待った!ジークヴァルト氏に連絡は勘弁して下さい。もう咲さんを口説きたいけど口説かないから!約束を反故にされたら俺大損ですよ!」

「約束?」


田沢さんの発言が引っかかり問い詰めるとジークさんの婚約者候補のレティシャさんからジークさんと私の仲を裂いたら、欧州への出店の援助をしてもらう約束をしていたそうだ。愛華が田沢さんを疑いジークさんに調べてもらった事でレティシャさんと田沢さんの関係がバレる。ジークさんは縁談を壊す為に田沢さんにレティシャさんより好条件を提示し、レティシャさんの計画を暴露させレティシャさんとの話を潰した。


「ジークさんが提示した報酬は?」

「北米の大手ビュティーサロンとの業務提携と、ハリウッドスターの専属ヘアメイクの斡旋。いや~ジークヴァルト氏は絶対敵にしちゃダメな人だよ。俺ヤバかったっと後で肝を冷やしたよ。レティシャは学生時代の友人だが実権は父親が持っているから提示以上の旨味はなさそうだしね。それにレティシャはジークヴァルト氏に喧嘩売ったんだ。今頃レティシャの実家はとんでもない事になっていると思うよ」

「…」


愛華が私の肩を叩き哀れむ様な表情をして…そして


「咲…ご愁傷様。愚痴は聞くけどもうジークさんから逃げる選択肢は無くなったね」

「愛華!」


“♪♪~♪”


愛華のスマホが鳴る。ディスプレイを見て愛華は笑いながら


「あ!ジークさん⁈咲は元気だから安心して。ちなみに今ハニー君こと田沢さんが同席してるけど代わる?」

「ちょっ!愛華さんやめてくれ!」

「うん。悪さはしてないけどね…後は本人に聞いて…って切れた。多分田沢さんとこ…」 


間髪入れず田沢さんのスマホが鳴る。ディスプレイを見詰めて固まる田沢さん。聞かなくても分かるジークさんからだ。


「はいはい!早く出ないと余計に怪しまれるよ!」


愛華に促されしぶしぶ出る田沢さん。外回りの営業マンの様に話しながらペコペコ頭を下げている。どうやらお説教を受けている様だ。田沢さんはジークさんと英語で話をしているため、何を話しているか分からない。時々私の名前が出てくるのが怖い。そして一通り話終えて通話を終えた。


「咲さん。ジークヴァルト氏から伝言です。“夜落ち着いた頃に電話します”と…。後お2人にご迷惑おかけしましたので、エステとヘアメイクフルコースをご招待させていただきます。またご都合がついたら俺のスマホに連絡下さい」

「マジ!嬉しい!咲いつ行く?」

「いや…いいよ。そこまでしていただく義理は…」

「いや!受けて貰わないと俺ヤバいんすよ」


ジークさん田沢さんを脅し過ぎだよ…


『はぁ…こんな事になるなら今日出社すればよかった…』


やっと落ち着いて田沢さんも愛華も穏やかになり、他愛もない話に花が咲く。やっと一息ついたのにまた余計な事を田沢さんが言い出す。


「多分大丈夫だと思いますが、レティシャはプライドが高くしつこい性格です。このままで終わらない気がします。さっきジークヴァルト氏に注意しておきましたが気を付けてく下さいね」


止めてよ!丸く収まったと思ったのに!

暫くしたら愛華のスマホに心配した倉本さんから着信があった。大丈夫だと伝えお開きとなった。愛華は倉本さんに送ってもらい田沢さんも帰って行った。

朝一から集まりお昼前にやっと皆んな帰っていった。

ハニー君こと田沢さんの件は解決したが、どうやらもう暫く倉本さんの送迎は続くらしく倉本さんに明日も同じ時間に公園に迎え来ると言われた。

早く日常生活に戻りたいがジークさんが許してくれそうにない。

皆が帰り気が抜けてしまう。こんな事になるなら微熱位なら出社した方が良かったと後悔する。

体は休まったが何も考えていないのに夜にジークさんから電話が入ってしまう。自身まだ記憶が無くなった経緯が分からず困惑したままなのに、普通にジークさんと話せるだろうか…


お読みいただき、ありがとうございます。

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