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41.不思議ちゃん

咲の幼少期の話です。

「パパごめんね」

「何か悪い事でもしたのか?」

「咲はエミリアちゃんの好きなアルフ君のお嫁さんになるから、パパのお嫁さんは無理だよ」


ちゃぶ台でねずみ色のクレヨンで一生懸命絵を書く幼い私と本を読んでいる父、そして父の横でみかんを食べている母。どうやら昔の夢を見ているようだ。

絵はアルフレッドとエミリアを書いている。そして父と母にいかにエミリアがアルフレッドの事を好きかを幼児ながらに熱弁している。微笑ましく見ている父と困った顔をしている母が印象的だ。


「咲は大人になったらアルフ君を捜すのか?」

「うん。じゃないとエミリアちゃんが幸せになれないもん」

「咲は好な人はいないのか?」

「いるよ。パパとママ」


またお絵描きに夢中になる幼い私。母は父に幼稚園の先生から言われた話をしている。幼い私はお絵描きとエミリアの話をするのに夢中で、母の話は聞いていない様だ。


「担任の先生が他の子にもエミリアとアルフの話ばかりするらしく、他の子とコミニケションが取れていないと危惧している様で、面談の時期では無いのに幼稚園に呼出されたわ。市の育児相談にも行ったけど幼少期の一時的な物でそれ以外の日常会話が出来ていれば、小学校校入ったくらいから少なくなると思うから様子を見て下さいって。心配なら専門の病院を紹介すると言われたけど…」


話を聞いた父は笑いながら心配ないと言い、想像力豊かで将来作家や芸術関係の才能があるのかもしれないと親ばか全開だ。


『お父さんごめん。前世の記憶があるだけで平凡です』


思わず夢の中の父に謝罪する。母は表情を曇らせて


「でも、同じ園のママさんに聞いたけど”咲ちゃん変”言われて幼稚園で時々仲間外れにされたりしているらしいの」

「その話は先生に伝えの?」

「明後日の面談の時に言うつもり」


母は相当悩んでいる様で涙目だ。幼稚園は楽しい思いでしかないが、本人が気付いていないだけで本当はまわりから浮いていたのかもしれない。でも何故記憶が消えてしまったのだろう?何かきっかけや衝撃的な出来事があったのだろうか?

ぼんやりそんな事を思っていたら、今度は幼稚園で絵を書いている私がいる


『この絵はおえかき帳の絵でこの名札は年長さんだ』


幼稚園児にしては絵は上手な気がする⁈楽しいそうに書いている自分を見てるのはこそばゆい。

すると隣の女の子が話しかけて来た


「咲ちゃんまた知らない人の絵を書いてる。今日は大好きな人の顔を書くんだよ!」

「うん。だからエミリアちゃんが大好きなアルフ君を書くの」

「咲ちゃんはエミリアじゃないでしょ!」

「咲とエミリアは一緒なの」

「先生!咲ちゃんまた変な事言ってる!」


まわりこの子達が揶揄する中、我関せずでおえかきをしている私。今の私では考えられない位ハートが強い。

すると一人の男の子が


「お姉ちゃんが言ってた。咲みたいな子は“不思議ちゃん”って言うんだぜ!」


すると男子達が私を「不思議ちゃん」と呼びだし教室はカオスな状態に。若い担任の先生が治めようとするが益々騒がしくなり、とうとう巡回していた園長先生が入って来て先生3人がかりで子供を落ち着かせる。

自分の幼少期を夢で見るなんて不思議な気分だ。確かこの“不思議ちゃん事件”があってから暫くして卒園を控えていた時期に父が亡くなる。そこは見たくないなぁ…辛すぎる…

そう思っていたら次は景色が変わり田舎の祖母の家だ。

能面の様に冷たく怖い顔の祖母。祖父、叔父さん家族や使用人の顔がのっぺらぼうで顔が分からない。きっと放置され記憶にないんだろう。

幼稚園の時と違い表情のない私。過去の事なのに小学生の自分を見ていると胸が苦しい。苦しい記憶しかない祖母の元で過ごした2年。思い出したくも無いし見たくもない。必死に目覚めようともがくが…目覚めず目の前に祖母が発した罵詈雑言を小さい体で受け止めている私が居る。

手を伸ばし耳を塞いであげたいが、夢の中では助けてあげれない。

祖母が離れから出ていくと部屋の端で何かを抱きしめて泣いている。一頻泣いてそのまま横になり泣き疲れてしまった様だ。腕から抱きしめていたものが落ちる。それを見ると私が書いたアルフレッドの似顔絵だった。この頃はまだ記憶がある様だ。部屋の感じから小学1年生で、意味が分からずいつかは祖母が優しくなってくれると期待を持っていた時期だ。



“♪♪♪”


メッセージの着信音で目が覚めた。

体がだるく目が痛い。起き上がると腰が痛い!昨晩ソファーで寝てしまったんだ。

寝汗と泣いていたようで色んな意味でベチャベチャになっている。

立ち上りダイニングテーブルを見たら昨日の晩酌の残骸が…

溜息を吐いて片付けをしシャワーを浴びている間に洗濯をする。


浴室の鏡を見ると目が腫れている。長らく見ていなかった祖母の夢。辛く苦しい記憶。

恐らく自己防衛の為に前世の記憶を封印したのだろう。頑なに前世の記憶を持っていたら恐らく祖母に精神科に連れて行かれていたと思う。昔の事を思い出すと靄がかかった様に思い出せない。

でもいきなり無かったかの様に忘れれるものなの?


「はぁ…こんな顔じゃ今日は出れないなぁ…」


それに出る気分でもないし…お風呂から上がりノートPCを出してきてネットスーパーで食料品を注文し、家に籠る事ことにした。

食欲がないのでコーヒーだけ入れ何も考えずにテレビを見て過ごす。ニュースや情報番組が流れているが、全く頭に入らずただ見ていたら、ある言葉にハッとする。


『古城市巻野町に大型アウトレットモール建築が決まり注目されています』


「巻野町⁉︎」


その町には祖母の家があった。田舎だが高速のICから近く車なら便利。大型アウトレットモールなんて出来たら凄い経済効果だろうなぁ…


「こんなタイミングであの祖母の家の情報を聞くなんてね…なんか嫌な予感しかしないわ」


チャンネルを変えて気分を変えることにした。しかしこんな嫌な予感は大抵当たるもので、辛い記憶を思い出すトリガーになるなんてこの時は知らずにいた。



お昼過ぎにジークさんからメッセージが入る。どうやら田沢さん関連の問題は解決したがもう少し送迎は続けて欲しいとの事。そして声が聞きたいと…


『すみません。昼から母が来るので今日は無理です』


と嘘を吐く。今日は誰とも話をしたくない。

電話では誤魔化せないがメールなら大丈夫だろう。すぐ返事が来て


『残念ですがお母様とのお時間の邪魔は出来ないので…咲さんが私と同じように声を聞きたいと思ってくれるのを待っています』


ジークさんの真っ直ぐな想いに居心地悪くなってしまう。ジークさんは嫌いではなく好きだ。でも愛かは分からない…

昨晩は夢見が悪く寝不足でまた眠くなってくる。ネットスーパーの配達まで頑張って起きて荷物を受け取ってからベッドに潜り込み目を閉じた。


「ゔぅ…怠い…」

体を起こしスマホを手に取ったら21時だった。異常に体が怠く額に手を当ててみる。


「熱っぽいかも…」


リビングに行き熱を測ると微熱が出ている。風邪をひいても熱を出さないから偶に熱を出すと弱い。とりあえず薬を飲むのに何か食べないと!

冷凍庫から冷凍うどんと粉末の出汁でうどんを作り無理やり食べ解熱剤を飲み部屋に戻る。


「熱が下がらなかったら休まないとな…いや。仕事も閑散期で暇だしテンション駄々下がりだから休もう!」


普段休まないから誰も何も言わないだろう。決めたらすぐ行動!メールで社長とチーフに休み連絡をし後は…


「倉本さんに送迎の断りの連絡…でも…」


倉本さんに体調不良で仕事を休むって連絡したら確実にジークさんに連絡が行き人を寄こしそうだ。慎重に断る理由を時間をかけて考える。普段休まない私は休み理由のレパートリーは少なく時間がかかった。 

そして…


“ぶるるる…”

『はい。倉本でございます』

「お世話になっております。梶井です。今お電話大丈夫でしょうか?」

『大丈夫でございます。何かございましたか?』

「急で申し訳ないのですが、明日は有休消化で仕事を休みますので送迎は大丈夫です」

『…』


いきなり倉本さんが黙り込んで焦る。何か気付いたのだろうか⁈焦り追加で言い訳をしょうとしたら


『畏まりました。ジークヴァルト様からもう暫く送迎が続く事は聞いてらっしゃいますか?』

「はい」

『火曜日またお休みの時はお手数ですがご連絡下さい』

「火曜は出社しますから!」


倉本さんを誤魔化せたのか分からないが、とりあえず明日はゆっくり体を休めよう。

最低限の事をし終えベッドに潜り込むとメッセージが入る。メッセージはジークさんからで倉本さんに連絡してまだ数分しか経ってない。恐るべしジークさん!

メッセージを開く勇気が湧かずスマホと睨めっこする事数分。意を決して開くと…


『倉本から明日お休みになったと聞きました。ですので明日電話します!私は咲さん不足だ』


あ…明日は断れない。明日までに心の整理はつくのだろうか⁈





お読みいただき、ありがとうございます。


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