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36. 距離感

“バス停の男前”に会ったのは偶然だよね。上手く言えないけど不安を感じ…

朝からキラキラの男前イケメンが挨拶してきた。そんな気軽に挨拶する間柄も無いはず。いつもの時間にバス停で会う人々はかれこれ年単位の付き合いだからわかるが

『あ…距離感ないタイプだ。苦手だなぁ…』


「今日は早いですね」

「仕事の都合で…」

「俺もなんですよ」

「はぁ…」


私の他に綺麗な30代くらいの女性がバス待ちしていて男性をガン見している。彼は30代前半位で韓流スターのような塩顔。肌なんてその辺の女性より綺麗で正直横に並びたく無いわ。


「俺。田沢純太と言います。お姉さんは?」

「あ…」


名乗った!やめてよその回避出来ない聞き方!めっちゃ返事待ちしているし


「梶井です」

「お名前は?」


ダメだ!私の苦手な押しの強いタイプだ。もうバスが来る時間なのに遅れているようで、案内板を見るとまだ2つ前の停留所。答え待ちの田沢さんはガン見してくる。


『咲さんは押しに弱いから心配なんです』


ジークさんの言葉を思い出した。頑張って踏み留まらないと!


「すみません。名を名乗るほどの関係性はまだ無いと思いますので、控えさせていただきます」

「あっすみません。俺ツレに距離感おかしいとよく注意されるんですよ。じゃ!そのうち教えてくれますか?」


口を開け呆気に取られる。普通はここまで言うとそそくさと引くのに反対に更に一歩来られた。


『こんなおばあちゃんにアプローチして何か思惑でもあるの?』


警戒していると目の前の彼はニコニコしながら斜め掛けしているサコッシュから名刺を取り出して渡して来た。


「俺美容系の会社を経営してて、轟町駅前で美容室とエステ店をやってます。梶井さん見てて勿体無いなぁ…て。素がいいからもっと綺麗にして差し上げたいなぁ〜って思ってね、声をかけるタイミングをはかっていたんですよ」

「…」

「あっ怪しいとか思ってません?勧誘とかじゃ無いっすよ!」

「いや十分怪しいです」


オーバーアクション気味に弁解を始める彼曰く、初対面から気になっていて声をかけたかったそうだ。しかし例のOLが話しかけて来て話せなかったと。


『美容系なら尚更若いOLに営業した方いいんじゃない?』


“くす”

何故か口元を隠し笑う彼。眉を顰めて見ていたら


「貴方は素直な方ですね。思っている事か顔に出るようだ。いつも会うOLの彼女は(美容に関しては)十分ご自分を分かっていらっしゃり、寧ろ引算をされた方がいいくらいですよ。だから俺の手助けはいらない訳で」


美容系と聞きバス待ちしているもう1人の女性が彼に話しかけて来てくれ、逃げるチャンスとばかりにスマホでメールチェックし出して話の輪から離脱した。

彼女は頬を染め彼にお店の場所や話を聞き気を引こうとしている。

心の中で彼女にお礼を言い、やっと来たバスに乗り込みイヤホンをして目を閉じた。


朝から疲れたが出社してからは順調に仕事も進み定時に帰る。しかし夕方会社の電話に古川さんから連絡が入りチーフが気を利かせてかわしてくれる。それを中島さんか見ていたから嫌な予感がし、遠回りだがバスをやめて電車で帰宅し危険を回避した。

駅まで徒歩10分のんびり歩いて行くと例の彼が経営する美容室が見えてきた。おしゃれな外観に『へぇ〜』と思いながら店を横目に通過して駅を目指す。


電車に乗っているとジークさんからメッセージが入る。今電車だと返事すると夜電話していいか聞いて来たので、21時以降にお願いしますと返事をした。


やっと19時半に帰宅し洗濯を取り込みお風呂の給湯器ボタンを押して夕食の準備をし、ゆっくり録画していたドラマを見ながら食べ始める。食後コーヒーを飲みながら本を読んでいたらジークさんから着信が


「はい」

『咲さんこんばんは。一週間お疲れ様でした。身の回りで変わった事ありませんか⁈』


一瞬バス停で名刺をもらった田沢さんが頭をよぎったが、ジークさんに話すと面倒な事になりそうだから…


「平々凡々でしたよ」

『なら良かった。少しでも困り事があったらいつでも言ってください』

「はい。ありがとうございます」


心配させないようにジークさんはお母様との話はせず、私の心配ばかりしてくる。

私は忙しさを言い訳にまだ今後の事を何も考えてなくて反省。明日愛華に会ったら相談してみよう。

こうして他愛もない話をしてジークさんの電話を終え、就寝準備をして早めに休んだ。

翌朝目覚めると愛華からメッセージが…



『ランチの店変えよう!11時に迎えに行くから用意してて!新しい店のクーポンをもらったからさ〜』


新しいもの好きな愛華が見つけてくるお店はレベル高いのよね〜。期待しつつ出かけるまでに洗濯と掃除をしてしまう。家事も終え身支度をしようとしたら愛華からまたメッセージ。


『言い忘れてた。小洒落たお店たがらきれいめの服でね!』


「きれいめか…」


悩んだ末にこの前凛と出かけた時に買った深緑のシャツワンピを着る事にした。

髪も久しぶりにハーフアップにし、いつもはしないマスカラとアイラインも入れてみる。

姿見鏡を見ながら久しぶりに化けたと自分で感心していると、愛華からもう直ぐ着くと連絡が入る。戸締りをして玄関を出たら丁度愛華が来た。


「お疲れ〜。今日の店どこ?」

「最近郊外にオープンしたオーガニックレストランだよ。デザートサービス券を手に入れたのよ。これは行くべきでしょ」

「なるほどね…」


こうしてデザートサービスに釣られ新しいレストランに向かう事に。レストランは家から車で小1時間。閑静な住宅地にできていた。

道中は愛華の愚痴を聞きあっという間レストランに着いた。駐車場は広いが満車に近くなんとか停めれレストランに入ると混んでいて15組待ち。


「あちゃ!もう少し早く出ればよかった!」

「どうする?私は別の店でも…」

「いや!絶対デザートサービス受ける。喋っていたら直ぐだよ」

「OK!」


こうして待合室のソファーで愛華と話をしていたら


「梶井さん?」


初めて来た店で名を呼ばれてびっくりして声のした方を見ると…


「田沢さん?」

「やっぱりだ!俺ら縁がありますね!今日は食事ですか?」


何故か目の前にはスーツ姿の田沢さん。バス停で会う時はラフな格好なのに今日は三揃えスーツで別人の様だ。そして笑顔でこっちに向かってくる。すると愛華か私の肩を叩き


「咲!知り合い?」

「朝のバスが一緒なの」

「へぇ〜」


途端に愛華が楽しそうな顔する。もぅ嫌な予感しかしない。愛華の目は『後でじっくり聞くわ』と言っている。


目の前に来た田沢さんを他の客がガン見しこそこそ話をし、頬を染め熱のこもった視線を送っている。


「お食事ですか?」

「はい。友人に連れて来てもらいまして」

「光栄だなぁ!ご予約は?」


していないと言うと田沢さんはスタッフを呼び何か指示している。すると私に手を差し伸べた田沢さんが


「良かった。今日は個室が空いているようです。ご案内しましょう」

「いえ。順番を待ちますし、そこまでしていただく間柄では…うっわぁ!」


愛華に背中を押され立ち上がってしました。すかさず田沢さんに手を取られ個室に連行。

順番待ちの他の客の冷たい視線を感じながらドナドナ状態の私。


入った個室は庭に面した大きい掃き出し窓がある明るい部屋で、インテリアもナチュラル系で統一され好みの部屋だ。田沢さんに椅子を引いてもらい着席すると何故か田沢も座る。


「あの田沢さんなぜここに?」

「この前渡した名刺に書いてあったんですが…このレストランも俺が経営してるんですよ」

「そうなんですね」


名刺なんて通勤用カバンのポケットに入れたまま見ても無いから知るわけもない。

田沢さん曰く”美容は体の中からも”をコンセプトにオープンしたお店で、オーガニック食材を使った料理が自慢らしい。するとよそ行きのなで声で愛華が


「咲!お知り合いなら紹介してよ」

「梶井さんは咲さんと仰るですね!可愛い名だ」

『あっちゃ〜!思わぬ所から名がバレた』


溜息をついて愛華を見ると好奇心の塊である。仕方なく説明しようとしたら田沢さんが立ち上がり愛華の元へ行き、内ポケットから名刺を取り出し渡して説明をした。


「そうなんですね。咲は今モテ期だから言い寄られてるだと勘違いしましたよ」

「あのね!そんな訳…」


すると田沢さん食い気味に


「そうですね…否定はしません。咲さんとはお近付きになりたいですね」

「はぁ?」「きゃぁ!マジで!」


新たな火種が起こりジークさんとの事を悩んでいる場合ではなくなってしまった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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