33.疲労困憊
「誤解だ!」と言う古川にもうどうでもいいと思うようになって来た咲
遠い目をして目の前に座る古川さんと向き合い弁解を聞く事になった。
ここ数日の疲れで猛烈に甘い物が欲しくて、柄にも無くチョコサンデーを頼んでしまった。古川さんは目を細め見つめて来る。
「ご覧の通り疲れているので早く帰りたいんです。話があるのなら…」
「…俺…ブロックされる理由が…もしかして田口が関係してますか?」
一瞬田口さんとラブ街に消えていった事を言いかけたけどやめて無難な返答にした。
「担当が変わり関わる必要がないからです。それ以上でも以下もありません」
「いや!違う。だってセミナーまでは話し位はしてくれた。やはり彼女が見たのはやはり梶井さんだったんだ…」
運ばれたチョコサンデーを黙々と食べる。
冷たさと甘さが疲れたら体に染みる…
「考えてみたら古川さんが好意を向けてくれるのは悪い気はしませんが受ける気が無いんです。好意を受ける気が無いのに思わせ振りな態度は性悪だと気付いたんです。だから会わない方がいいと思いブロックしたんです。私の事は忘れて下さい」
「納得いきません!」
「古川さん!声が大きい!」
他のお客さんが注目している。恥ずかしいよ…
古川さんはコーヒーを一気飲みし、パフェ用の長いスプーンを持つ私の手を取った。
『やめて〜アイス垂れる!』
心の中でアイスを気にしていると、真っ直ぐ見据えた古川さんは何か考えていて…
「ブロックされた日…田口と新規の取引先を回っていました。彼女の勘違いで次の約束が時間ギリギリで仕方なしに近道のラブホ街を通りました。田口は確かに俺に気があるようで、やたらにボディタッチをしてきます。
あの日も腕に絡んできましたが、約束の時間を気にしていて無視したんです」
だとしても疲労困憊の私には今はどうでもいい。それより…
「あの離して貰えます?アイスが溶けちゃいます」
古川さんはスルーし手を離してくれず、一方的に話を続けます。
「大通りからラブホ街に曲がる時に、田口が笑ったんです。意味が分からなかったが先を急ぐ私は気にもしなかった。そして翌日貴女がブロックしている事に気付き焦っていたんです」
「とりあえず!手を離して下さい。アイスを食べたいんです!」
「すみません…」
この後、ブロックされショックを受けていた古川さんに田口さんが、ラブホ街の路地を曲がる時に信号待ちしていたバスに私が乗っていたと笑いながら言いったそうだ。
「もう私には関係ない話なので…報告されても…」
「いえ、関係あります!俺の今の本命は貴女ですから」
“ヒュー!”少し離れた席でJKのグループが身を乗り出しこっちを見ていて、古川さんの告白に歓喜を上げる。
頬に熱を持ち猛烈に恥ずかしくなって来た。
「やめて下さい。恥ずかしい…」
「旦那さんの事忘れなくていい。遊び相手でもいいし寂しさを紛らわす相手でもいい貴方との縁を切りたくない」
「・・・」
すっかりアイスが溶けてチョコシェイクになってしまったチョコサンデーを食べる気になれずスプーンを置いた。
「ごめんなさい。私そんな不誠実な事は出来ません。まだ、仕事仲間ならお付き合いできますが恋愛が入ると無理です」
「もしかして…先日の外国人がもうすでに貴女の心を…」
「無いですから!古くからの知り合いなだけで、恋愛関係ではないんですよ」
「でも、好意を向けられているんですよね!あの男の目を見ればわかる!」
アイスも殆ど食べれ無かったせいか、糖分が足りず頭が回らない…取りあえず帰りたい…
「古川さん。私の答えは一つです。仕事仲間で恋愛感情抜きなら友人としてお付き合いします。それ以外は無理です」
「未来は誰にも分からない。可能性はゼロでは無いですよね⁉︎」
「言いたい事は言ったので今日は帰ります。本当に疲れてるんです」
「送りま…」
「必要ないです。本当に帰りたい…」
お財布から千円札をテーブルに置いて荷物を持って店を出た。バス道を歩いていたら古川さんが走って追いかけて来る。
「俺の想いを押し付けてしまいました。やっぱりこれでサヨナラは嫌なんです。当面口説かないので友人として連絡を取ってくれませんか?」
「今は思考能力が低下してるので返事できません」
「落ちついてからでいいので、ブロックを解除して欲しい」
「考えておきます…気を付けて帰って下さいね」
踵を返して家路を急いだ。バスは行ったばかりだからバス停3つ分歩く。心身共にダメージが大きい。普段の運動不足を実感しながらなんとか家の付近に帰って来た。角を曲がると家が見える…
『やっと我が家だ…』
“今日は何もしない何も考えない!ゆっくりベッドで寝るぞ!”と心に決め家に入った。
翌朝。自分のベッドで熟睡し少し体力が回復し出勤準備をする。
洗濯物を干しお掃除ロボをセットし少し早めに家を出た。変わらない朝に安心して出社する。
うーん!いつも通り一番乗りだ。コーヒーができる頃にチーフが出社してきた。
「今日はいつもの梶井さんね。何か安心するわ」
「はい。平穏・平凡っていいですね」
「?」
しみじみ何も無い日常が幸せだと感じ仕事を始める。今日は仕事ものんびりモードで雑談しながら仕事をし1日を終えて退社時間になった。
夕方から書庫の整理をしていてスマホをデスクに置きっぱなしで、メッセージが入っているのに気付いた時はオフィスが入っているビルのエントランスだった。
知らない番号からショートメッセージが入っている。
「迷惑メール?」
しかし何故か胸騒ぎがしてメッセージを確認する。
『いきなりで申し訳ございません。ジークヴァルトの弟のランディです。貴女と是非話す機会を頂きたい。父からジークを今週までに一度本国に連れ帰るようにわ言われております。知っての通りジークは意志が固い。恐らく私の説得では聞かないでしょう。是非貴女から一時帰国を促して欲しいのです。
それに貴女に興味もあります。明日の夕方会社へお迎えに参りますので、よろしくお願いいたします』
「はぁ?」
完全にジークさん家のお家事情に巻き込まれている。取りあえず会社に来られるとマズイ!三田さんをはじめ噂話好きが揃っている。
会わない選択肢は与えてくれそうにない。正直私もそろそろジークさんから解放されたい…と思う。多分…
悩んでいたらバスが来た。乗車しスマホと睨めっこし取りあえず返事を打つ。
『梶井です。会社に来られるのは困ります。どこかお店でお願いします』
するとすぐに事が来た。
『でしたら明日18時半に貴女の会社近くの雅ホテルのロビーでお待ちしております』
“了承した”と返事をして溜息を吐く。
ジークさんと少し距離を取った方がいいのかもしれない。そんな事を考えていたらジークさんからメッセージが入る。
週末食事のお誘いだ。返事を返さないと家まで来そうだから“予定がまだ分からない”と返事を打ち返す。
今日も早く寝た方がよさそうだ。
翌日はランディさんと会う事に気が重く憂鬱に1日を過ごす。ホテルで会食だからいつもよりキレイ目な格好で出社すると、お気楽な後輩達は私の服装を見て”デートだ!”と呑気に冷やかして来る。
したくも無いがデートの方がマシかも…と遠い目をしてしまった。
夕方に最近私を気遣ってくれるチーフが
「梶井さん。この資料を司法書士の橋本先生の所に届けてくれる?っでそのまま直帰してくれていいわ」
「分かりました」
夜ランディさんと会う約束があったから丁度いい。橋本先生の事務所に着くといつもお菓子とコーヒーを入れてくれる橋本先生。
還暦を過ぎてらっしゃるが若く見えイケおじだ。お菓子を頂きながら先生とお話をするのがお約束なっている。
今日の茶菓子はイチゴ大福と緑茶が出た。先生はグルメだから出してくれるお菓子はレベルが高い。
「梶井さん…最近綺麗になったねー」
「ありがとうございまーす」
「あっ今のは本当なのに!」
「先生口が上手いから話半分で聞いてますから」
そう。先生はモテ男で女性をよく褒める。初めて来た時はびっくりしたけど、10年近い付き合いだから慣れっこだ。
「社交辞令じゃなく本当に綺麗になったよ。旦那さんが亡くなって暫く心配したんだよ。倒れそうなくらい窶れていたからね。さてはいい人でもできたのかなぁ?」
「そんな人…」
一瞬”ジ”ではじまる人が頭をよぎった。
首を振り否定すると先生は
「梶井さんは魅力的ですよ。私が10若かったら口説いてます。なんでしょうね…旦那さんに気を遣ってるかなぁ⁈
梶井さんは真面目すぎるんでしょうね⁈もっと素直に赴くままでいいと思いますよ。人生は一度きりですからね〜」
「はぁ…」
「人生の先輩からのアドバイスですよ」
橋本先生とのんびりした時間を過ごし先生の事務所を後にした。約束の時間まで1時間あり、ふと目に入ったフットマッサージにはいった。
時短コースを受け脹脛から下の浮腫みが無くなりスッキリした。そして約束時間5分前にホテルに着いた。
ロビーに入ると一際目立つランディさん。女性の視線を集めている。
「ハィ!エミ!」
私に気付いたランディさん颯爽と私の前に来てハグする。
「えっと…」
「ランディ様はお時間いただき感謝されておられます」
「ん?」
ランディさんの後ろに日本人?男性がいる。
どうやら彼が通訳のようだ。同じ年くらい?かなぁ…
「初めまして梶井さま。ランディ様の第3秘書の倉本でございます。本日は通訳をさせていただきます」
「よっよろしくお願いします」
挨拶が終わると流石兄弟だ。流れるようなエスコートでフレンチレストランに案内され個室に入った。
飲み物を聞かれノンアルコールに頼む。飲み物が運ばれ一応乾杯するらしい。
ちなみにランディさん何に乾杯するの?
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