32.誤解?
結局ジークさんと泊まる羽目になった咲。これ以上心乱されたく無くて…
“♫〜♪”
スマホにセットしたアラームで目が覚めた。
6時だ…一旦家に帰ってから出社するから7時までにはここを出たい。
起き上がりベッドをある程度綺麗にして、椅子に座りスマホでこの部屋の室料を調べる。
「マジか!覚悟はしていたが…やっぱりお高い!」
カバンから財布を出して所持金をチェックするが、何度見ても3万弱しかない。
ジークさんも泊まったから半分としても10万は出さないと…
愛華なら『ジークさんお金持ちだから出してもらったらいいんじゃない?』って言いそうだ。でも借りはつくりなくない。
手帳を1枚破りジークさんにメッセージを残す。
“昨日はありがとうございました。今日は持あわせがないので後日部屋代はお支払いします。今日は仕事がありますので失礼します”
っと。早く帰って家の空気を入れ替え、シャワーを浴びて出社準備しないと。
荷物を持ちゆっくり寝室の扉を開け居間の様子を窺う。誰もいない様だ…音が出ない様に扉を閉めて、ジークさんが休んでいる寝室を窺うが大丈夫そうだ。
テーブルにメモを置いて部屋の扉を開けたら目の前が黒に染まる。見上げると優しく微笑むタチバナさんがそこに居た。
「おはようございます。梶井様」
「あっはい。おはようございます」
駄目だ!会話していたらジークさんが起きて来る。お礼だけ言いタチバナさんの横をすり抜けエレベーターホールに向かった。
あっさりタチバナさんが帰してくれた事に一抹の不安を感じつつエレベーターを待つ。
最上階だから来るのが遅い!やっと来て扉が開いた!
「おはようございます」
「あ?おはようございます。えっ?」
エレベーターにスポーツ着に額に汗したジークさんが乗っている。思わずスマホを見たら6時32分だ。
流れる様な所作で手を取られ部屋に連れ戻される。タチバナさんが止めなかった理由が今やっと理解できた。
部屋の扉を開けるといい笑顔でタチバナさんが迎えてくれる。やばい!なんとか帰らないと!
「ジークさん。お世話になりました。今日は仕事かあるのでこれで失礼します。お礼と室料は後日に」
「タチバナ。咲さんは朝食を召し上がったか?」
「いえまだでございます」
「ならば…」
「ご用意してございます」
再度帰ろうしたらソファーに座らされ、目の前にお茶が出てきた。”勿体ない”精神の私は断れずいただく事に。
「あの…ジークさん。仕事があるので帰ります」
「朝食がまだでしょ?召し上がって下さい。そして職場にお送りしますよ」
いいと言ったのに聞いてくれず、気がつくといい匂いがしてきた。どうやらもう朝食が用意されたようだ。
『もー!用意されたら嫌って言えないじゃん!』
落胆し仕方なくごちそうになる事にした。ジークさんがシャワーを浴びている間に、タチバナさんが話し相手になってくれる。
タチバナさんは独身で私のひと回り上で、日本で生まれ親の仕事の都合で欧州を転々とし育ったそうだ。なんと3ヶ国語話せるだって。話の端々にジークさんを慕っているのが分かる。
「梶井様の事情はお有りでしょうが、ジークヴァルト様の梶井様に向けるお心は本物でございます。この10年日本に通い仕事がない時は、あのインタビューが撮影されたあの駅前で、貴女を捜して続けていました。出来れば受け取っていただきたい」
「…えっと…」
「タチバナ!お前が口出しする事ではない!」
振り返るとジークさんが立っていてグレーの三つ揃えスーツ姿はモデルの様にカッコよくて思わず見惚れてしまった。三つ揃えがポイント!普通のリクルートスーツでは駄目!
やっぱり肩幅のある男性がスーツを着ると見栄えが良い。賢斗も私が三つ揃えのスーツが好きなのを知ってからは三つ揃えしか着なかったなぁ…
「咲さん。私は嫉妬深いんですよ。私と居る時に他の男を心に入れないで頂きた」
「はぁ…」
ジークさんは鋭く私が考えている事が分かるようだ。
「あの…朝食はいただきますが会社に送ってもらうのは遠慮します。だって朝から送ってもらったら、もろ朝帰りってバレて会社の者に変な噂を立てられますから」
「気にしませんし、寧ろ噂になって外堀を埋めたいです」
「いいですよ!ジークさんの事嫌いになりますけど」
お道化た表情をし両手を上げて冗談だと言うジークさん。貴方の言動は冗談に聞こえないから怖いんですって!
そしてダイニングに美味しそうな食事が並びジークさんと朝食をいただく。
流石一流ホテルの朝食だ。美味しすぎる!
感動していたらジークさんのスマホが鳴る。
「失礼します」
そう言い席を立ち寝室に向かうジークさん。少しすると初めて聞くジークさんの怒鳴り声。日本語では無く英語でもない感じから身内?会社の人?
ふとタチバナさんが視界に入ると険しい顔をしてスマホを操作しだした。
すると…部屋の扉がノックされ誰か来たようだ。ジークさんもタチバナさんも応対が無理そうだから私が出た方がいいの?扉前に行き
「はい。何か?」
「ジークヴァルト?」
「会社の方ですか?」
「YES!」
仕事ならお通しした方がいいのかなぁ?
ドアノブに手をかけたら…
「梶井様!駄目です!」
「へ?」
遅し!開けちゃった…
扉が開くと扉の前にアッシュグレーのくせ毛に若葉色の綺麗な瞳の長身の超絶美形が目の前にいる。
「ハィ!エミ?」
「はい?キャ!」
いきなり抱き付かれた。全く初めましてなのに知っている匂いがする。
「うげっ!」
後ろから引っ張られ変な声が出た!見上げると鬼の形相のジークさんに抱きかかえられ、ジークさんの大胸筋で視界がゼロだ。ジークさんとこの謎のイケメンか外国語で言い合っている。
『何なの?まずは私に状況説明すべきなんじゃないの!』
やっと言い合いが納まりジークさんのホールドが緩んだ。隙間からやっと視界が戻ってきて…
「うそ!ヤバい!ジークさん離して!遅刻するから!!」
時計を見たらもう8時になっている。このホテルから会社まで徒歩10分ほどで着くけどまだ身支度が出来ていない。
ジークさんの腕の中で暴れてやっと解放され、手荷物を持って洗面所に駆け込み歯磨きと化粧をして出社準備をした。居間に戻り荷物を持ちまだ謎のイケメンと何か話しているジークさんに会社に行くと言い残し部屋を飛び出た。
後を追って来たタチバナさんが送ると言ったが、”送ったら二度とジークさんに会わないがいいのか!!”と凄み、やっと来たエレベーターに飛び乗り会社に急いだ。
「はぁ…疲れた…。何とかいつも通りに会社に着いた」
いつもは一番乗りだが今日はチーフの方が早くて
「珍しいね!雨降るんじゃないの?」
「降るかもしれませんね…」
「何かあった?梶井さんがそんな顔するのは珍しいね。困ったら頼ってよ」
「ありがとうございます」
チーフが入れてくれたコーヒーを飲みデスクに座りホッとする。そして恐る恐るスマホをチェックすると恐ろしいほどジークさんからメッセージが入っている。
恐らくあのイケメンの説明だろう。でも聞かなくても大凡の見当は付いている。ジークさんの弟さんだ。髪の色は違うが瞳の色が同じで同じ匂いがした。
母親に頼まれ私を調べに来た弟さん。ほんの一瞬だったが敵意は感じなかった。
『よー分からん!』
そんな事考えていたら始業時間が来た。仕事に没頭して忘れようとフルスロットルでPCに向かい仕事を片付けて行く。
「梶井ちゃん!」
「あっ社長」
「珍しいね。今日は弁当じゃないのね」
「はい…」
「私も今日一日内勤だからお昼一緒しない⁈」
「はい。ご一緒させてください」
エレベーターホールで社長のケイコさんに声をかけられランチを一緒にする事になった。社長行きつけのカフェに行きパスタセットを頼み他愛もない雑談をする。
社長は裏表がなく竹を割ったような性格で話していると気持ちいい。社長の最近の悩みが息子さんの進学の様で、昨年凜が経験した大学受験について色々聞かれ受験の話をしていたらランチが終わった。
ランチ代を払おうとしたら「受験のアドバイスのお礼よ」とおごってもらった。本当にかっこいい女性だ。
少しずつ日常に戻り仕事も順調に進んでいる。今日は定時に上がれそうだ。
“プルルルル…”
「はい。オフィスONEの梶井でございます」
「沢野商事の古川です。お世話になっております」
「お世話になっております。チーフの中西ですね。席を外しておりますので…」
「いえ…梶井さんにお話がありまして…今日の帰りにお時間いただけますでしょうか」
「仕事の話ならこの電話でお願いします」
「私はどうやら貴女に誤解をされている様なので、弁解させていただきたいのです」
「プライベートのお話は私にはありませんよ」
「電話もメッセージもブロックされています。きっと何か誤解されている」
「今、中西が戻りましたのでお待ちください」
もう古川さんとは縁が切れたので話す事はありません!サクッとチーフに代わってやりました。また心が乱されるのが嫌でまたフルスロットルでPCに向かう。
気が付くと周りがざわついて来た。時計を見たら定時だ。書類を片付けてデータを保存しPCを終了させ帰り支度をする。
昼の古川さんが気になったが会社前にもバス停にもいないから取り越し苦労だったと安堵し、すぐ来たバスに乗り1日ぶりの家に帰る。
“次は仲川町2丁目です。楠木医院へはこちらが便利です”
バスが停まり乗客が乗って来てく…るぅ?
「古川さん!」
「やっと会えた!」
会社の最寄りのバス停の隣のバス停から古川さんが乗って来た!
珍しくバスは空いていて隠れる所も無くしめっちゃ目が合った。満面の笑みで私の横に座る古川さん。
「良かった…。中島さんが梶井さんが定時に帰ったと連絡くれまして。慌ててバス停まで走って間に合った次第です」
知らぬ間に身内の中島さんが間者になっていた。恐るべし古川さん。
「お時間を頂きたい」
「お仕事の話しなら聞きますが」
「マジ誤解なんですよ!弁解させて欲しい!」
バスの乗客が私たちの会話を耳を大きくして聞いている。も!勘弁して欲しい。降りるバス停まで後3つ。
歩いても大した距離ではないので降りる事にした。何も言わなくても古川さんもついてくる。仕方なくバス停の近くのファミレスに入る。
何故、私に関わる男性はこんなに粘着質なのだろうか…
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