31.変な子
最近身の回りで起こっている不審者はジークさんの身内?もしかして私はお家騒動に巻き込まれるのか⁈
「あの…もしかして私ジークさんの実家から敵視されています?」
「いえ敵視と言うより寧ろ“やっと”っという感じでしょうか。いや…母は少し敵視しているやもしれません」
「私まだお付き合いもしていないし、今後も受ける気は何ですよ。正直巻き込まないで欲しい」
そう言うとあからさまに落胆し悲しそうな顔をして見つめて来る。そっそんな綺麗なお顔を向けられても流されませんからね!
溜息を吐いてジークさんは書類を見ながら私に最近身の回りで起きている不審人物について説明してくれる。
愛華に接近した女性はジークさんの会社の社員で(ジークさんの)お母様から依頼を受けて愛華に接近し、私の為人を調べていたようだ。
『愛華お調子者だからなぁ…変な話しをしてなければいいけど…やっぱりしてるなあいつ!』
頭の中で愛華の頭をはたく。
「母は後継ぎを望んでいて良家の女性との見合いのセッチングが趣味になっています。父や弟は私に関しても諦めモードですので、相手を見つけ安堵していると思います」
「いや!ですからジークさんとお付き合いして無いし、する気もありませんから!」
「そこはいいんです。生涯かけて口説きますし、口説き落とす自信がありますから」
「はぁ?」
熱を帯びた視線を送り隣に移動してきたジークさん。
『近い!近い!』
男性にこんなに間近に来られてどうしていいか分からない。離れて座るとまた詰められを繰り返し、気が付くとソファーの端まで来て逃げ場がない。
『駄目だ…席を移動しよう』
私が立つと同時にジークさんも立上り抱きしめられた。
以前にシックスパックを拝んでいて細マッチョなのは知っていたが、抱きしめられ改めて凄い筋肉で驚いた。賢斗も細マッチョに拘りジム通いをして鍛えていた。そしてやたらに私をお姫様抱っこをしたがった。今思えば前世の記憶から来てるんだろうな…
「私の腕の中で他の男の事を思うなんて。貴女は何て罪な女性なんだ。今は私だけを感じて欲しい」
「いや!感じませんから!離して下さい!」
ダメもとで拒否してみたがやはり離してくれない。
困りながらもジークさんの抱擁は温かく、ここ数日の仕事疲れもあり眠くなってきた。
「事情は分かりました。ここ数日仕事が忙しく疲れているので早く休みたい。不審者も判明し問題無いので家に帰り休みます。ここの部屋代をお支払いするのでチェックアウト…」
「今日はここで休んでください」
「私に一人にこんな立派な部屋は勿体ない」
「私も今日はここに泊まります」
「はぁ?」
いま何て言ったこの人?驚きジークさんの顔をまじまじと見ていたら、許可なくジークさんは頬にキスをした!
「真っ赤なお顔をされて愛らしい…一緒に眠りたいですが、まだ受け入れてもらえないようなので別室で休みます。それならいいですよね?」
「付き合ってもない男女が同じ部屋に泊まるなんてOKな訳ないじゃないですか!帰ります」
「今晩は帰さない!」
そんな恋愛ドラマに出てきそうな甘い言葉言われても!帰る!
ここからジークさんとの押し問答が始まり、お互いに折れず気が付くと小一時間経っていた。疲れ切り根負けしこのまま豪華絢爛なスィートルームに泊まる事になった。寝室は3室あり各部屋内側から鍵が掛けれるので、所謂夜這いとかはないだろう。それにもうお風呂も済んでいるから後は寝るだけだ。ジークさんとおかしな雰囲気にならない様に、早めに寝室に入り施錠すれば大丈夫だろう。
手荷物を持ち寝室に行こうとしたら後ろから抱き付かれた。
「ジークさん!やめて!」
「貴女に嫌がる事はしません。ただいつもの様に貴女と語らいたいだけです」
「疲れたので休みます」
「1時間でいい時間をください」
時計を見たら21時半だ。真剣な眼差しにまたもや根負けし少し付き合う事にした。
「口説かないと約束してくれるなら…」
「はい誓います」
嬉しそうに微笑み解放してくれた。また抱き付かれないように寝室に行き、荷物を置いてリビング?のソファーに座りお茶をいただきながらジークさんの話し相手をする。すると徐に家族の話をし出すジークさん。
「私は恐らく生まれた時から前世の記憶があり、話せるようになると訳の分からない前世の話ばかりし、両親が心配し何人もの精神科医の元にに連れて行かれました」
「!」
ジークさんは昔話をする。
ジークさんは物心付いたころからずっと私を探していたそうだ。
しかし周りからは妄想癖があると思われ変な子扱いを受け、実母からは疎まれる様になり乳母をつけられて離れで過ごす様になった。
そして程なく弟を妊娠した実母はジークさんを養子に出そうとしたそうだ。
「まだ小さい私に乳母は自分で身を守れるまで前世の話を封印する様に言ったのです。そして己の力で想い人を捜せるようになるまで、前世の話は乳母にだけ話す様に約束させられました」
乳母はマリアさんと言い病気で子供を授かれず、ジークさんを我が子の様に愛してくれたそうだ。
「そして私は空手とテニスを習い始めスポーツに没頭し、弟が生まれる頃には前世の話をしなくなり子供らしく振る舞いました」
「由緒正しいお家柄で苦労なんてないと思っていました」
「貴女に比べれば大した事ではありません」
それから跡継ぎとして厳しく育てられたそうだ。そして大学を出て解禁とばかりに前世の想い人を捜すと宣言し、親が持ってくる縁談を全て断った。
「母も歴史ある貴族の家柄でウチに釣り合う女性との結婚を望んでいます。初めは父も良家のお嬢さんとの結婚を望みましたが10年前にやっと諦めた様です」
「10年前?」
するとジークさんは立ち上り寝室に行き、直ぐに戻ってきた。ノート型パソコンを手にしている。
そして私の横に座りパソコン立ち上げ操作すると…
『あれ?古い映像だなぁ…それにこの声…』
画面には顔を隠したカップルが映っていて…
「この声は賢斗!…えっ!私?」
「覚えてらっしゃいますか?10年前にローカル局の街頭インタビューで貴女が取材を受けていた事を」
画面には10年前にローカル局の街頭インタビューを受けた時の映像が映っていた。
確か夕方の情報番組で結婚指輪について聞かれたんだ。私は(受けるのは)嫌だって言ったのに、賢斗がノリノリで受けてしまった。
後日放送されママ共からメールが沢山届いた記憶がある。確か結婚記念日で凛は母に預かってもらい、賢斗と映画を観に行った帰りだった。
「なぜこんな映像が?」
「私が貴女が日本に転生していたと知った映像です」
するとジークさんは映像を一時停止し、画面を指差した。ジークさんの指すところを見ると…
「!」
「一瞬でしたが貴女と賢斗氏が結婚指輪をカメラに向かって見せた時に、巫女の痣が映ったんです」
思い出した!確か取材内容は地味姻が増え、婚約指輪や結婚指輪をしないカップルが増えてるって話だった。結婚指輪について色々聞かれ賢斗が全て答えていた。
そして最後に2人並んで指輪を見せて下さいと言われ手の甲を映されたんだ。
でも何故ジークさんが知っているの?不思議に思い質問すると、嬉しそうに話し出した。
「本当に偶然でした。この映像は1分程で偶然が重なり私の目に留まったです。あの時は感動し泣きました。前世で信仰していたクロノス神に感謝したくらいです」
私の手を取り頬を染めこの映像を見た時の事を語り出したジークさん。
「あれは30歳になり父から大きな取引を初めて任さられ日本に滞在していた時の事です」
日本にシネマランドの建設が決まり、セキュリティシステム導入の交渉で日本に滞在していた。放映された日はシネマランドの責任者との会食予定だったそうだ。
18時からの予定が先方の都合で19時に変更になり一旦部屋に戻る。資料を見ていたら新たに仕える様になったタチバナさんが、夕方のローカルテレビの情報番組でシネマランド建設のニュースが流れると知らせてきた。
先方との会食時に話題に出来るかもしれないとタチバナさんがテレビをつけた。
この時はまだ日本語は全く話す事が出来ないジークさんは、タチバナさんに通訳してもらっていた。
そしてシネマランドの情報の前に例のインタビューが流れた訳だ。
「貴女の手が映ったのは一瞬だったのに、直ぐに分かりました。シネマランドの情報はすっかり頭から無くなり、タチバナに今見た情報番組の映像を取寄せさせましたよ」
この時はタチバナさんはジークさんが前世の話をするのは知っていたが、詳細は知らなかった様でジークさんの行動に戸惑ったそうだ。
「仕事柄世界各国に行き会う女性の左手を見て貴女を捜していました。まさか私が転生した国とこんなに離れたところに居るなんて思ってもなかった」
その映像を入手し撮影場所を調べて、日本に来る時は必ず訪れ私を捜した様だ。
本当に偶然が重なり私が日本に転生した事を知ったんだ。
「あの日取引先が予定を変更しなかったり、タチバナがテレビの情報を調べていなかったら、未だ私は貴女を世界中飛び回り捜していたでしょう」
そう言いながらパソコンに映る私の左手を愛おしいそうに見つめるジークさん。
「と言うことは…10年前から日本で捜していたんですか?」
「はい。あれからタチバナを専属にし貴女に会えた時に自分の言葉で愛を囁ける様に日本語も習得しました。生半可な想いではないんです。諦めて私を受け入れてほしい」
ジークさんの瞳がどんどん熱を帯び出し、そろそろ逃げないとヤバそうだ。
“口説かない”って約束も難癖つけて破りそうだしなぁ…
こうしてまたジークさんから驚きの話をされ、またどうしていいか分からない。また気持ちが騒つきだした。
明らかに私の反応を見ているジークさん。
視線を泳がしふと時計が目に付いた。もう22時半で約束した1時間が経った。逃る口実を見つけて
「約束した時間になったので失礼します」
「分かりました。付き合って下さりありがとうござい。最後に一つだけ…」
「なんですか?」
「おやすみの挨拶にハグと頬に口付けていいですか?」
また押し問答するのは疲れるから了承した。
優しくハグして頬に口付けるジークさん。
「早く貴女に口付けたい…」
「えっと…口説かない約束ですよ」
溜息を吐きジークさんはやっと解放してくれた。こうしてジークさんにおやすみを言い、寝室に入り施錠し直ぐにベッドに潜り、何か考えてしまう前に無理やり眠りについた。
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