30.不審車
周囲の変化を感じつついつも通りの咲。
あれからジークの連絡は無く…
「ふっわぁ…」
両手を上げ伸びをする。今朝は珍しくバス停に誰もいない。月曜は怠い…昨日は午前中に愛華の所から帰りそれからずっとダラダラしたせいで余計に疲れた。
「昨日も連絡無かったなぁ…忙しいのかなぁ⁈」
毎日あったジークさんからのメッセージが無いと案外寂しい。
私が忙しいと言ったし恐らくジークさんも忙しいのだろう…
今日で仕事が片付き定時に帰れるだろうから、私から送ってみようかなぁ…
そんな事を考えながら出社した。取り敢えず目の前の仕事を片付けるのが先だ。集中し夕方には終わった。
「梶井ちゃんお疲れ。今日は定時に上がりなよ」
「はい」
こうして久しぶりに”キンコンダッシュ”しバスに乗る。
バスの中で気が抜け”ぼー”と窓の外を見ていたら…
「古川さん?」
信号で止まったバスの中から外を見ていたら古川さんがいた。で…あの田口さんが古川さんの腕に抱きつき密着して歩いている。
そして…『!』2人が曲がった先はラブボ街。
今朝メッセージが来て退社後に夕食を誘われていたが、疲れてるからと断った所だった。
『なんだ…あの2人付き合ってんじゃん』
紛らわしいお誘いしないで欲しい。やっぱり若い子がいいのだろう。田口さんは20代後半でスタイルも良く美人だった。
『おばちゃんが何期待してんだか…』
ちょっとでも好意を向けられ悪い気がしていなかった自分に気づき恥ずかしくなった。
「はぁ…今日は早く寝よう…」
最寄りバス停に着きトボトボと家に向かうと黒塗りの外車が家の前に停まっている。一瞬ジークさんかと思ったけど違う気が…
車の扉が開いたら
「咲さん!」
お隣の住田さんが2階ベランダから呼ぶと、車の扉が閉まり走り去った。
目が点になり呆然としていたら、住田さんが家から飛び出てきた。
「10分程前からあの車停まってて、警察に連絡しようか迷っていたら、貴女が帰ってきたタイミングで誰か出てきそだったから叫んじゃったわ!あー怖い!」
「なんなんでしょうね…私慎ましく生きていて、誰にも迷惑かけて無いと思うんですけど…」
あまりにも住田さんが心配するので、荷物を取り戸締りをして、今晩はビジネスホテルに泊まる事にした。
ホテルまでタクシーを使い、ホテルの1階に入っているコンビニで夕食を買いチェックインした。早めにシャワー浴び食事をしながらメール等をチェックする。
「やっぱりジークさんからは来てないなぁ…でも…代わりに古川さんから来てる」
田口さんと”仲良く”してるのに私にメール⁈
『体育会系の硬派だと思っていたのに…案外中年チャラ男なのかも…』
今は担当も外れたからブロックしちゃえ!
「えぃ!」
これで平穏な生活が…いゃ…さっきの車の件があった。おにぎりに齧り付きジークさんからの今までのメッセージを見て溜息を吐き
『ジークさんに会ってから色々起こりすぎ!小説かよ!』
もやもやして待ってるのが嫌になりジークさんに私からメッセージを送る事にした。
『こんばんは。仕事が落ち着きましたので連絡しました』
「もう少し打った方がいいかなぁ…でもあまり色々打っても…」
悩んだ挙句最低限の内容で送った。
スマホを置いてインスタントの味噌汁を飲んでいたら“ぴろ~ん”
ジークさんか?いつも返信は早いが今日は特に早い
『咲さん何かありましたか?お留守の様ですが…』
『えっ!もしかしてウチに来てるんですか⁈』
『はい。今前に居ますが不在の様で…』
『事情があり今ビジネスホテルに居ます』
“♪♪♪~”「うそ!」
ジークさんから着信だ!慌てて取ると
『どこのホテルですか?今から行きます』
おにぎりを手に1人慌ててしどろもどろになってしまう。今来られても!シャワー浴びてスッピンだし、おもいっきりリラックスしてたのに!
「無理です!」
『何故です!ホテルに泊まるなんて何かトラブルですよね!心配でなりません!』
「いや!大丈夫ですから!」
何度大丈夫だと言っても諦めてくれない!
「就寝準備も終わりスッピンだし来られても困ります」
『尚更会いたい!教えて下さらないなら、タチバナと部下達にこの辺一帯のホテルを虱潰しに探させます』
“ストーカーか!”思わず心中で突っ込んだ。
はぁ…疲れた…負けた…
「東栄インです。でもロビーで会ったら帰って下さい!約束してくれるなら会います」
『分かりました。神に誓います』
「あと!私スッピンだから驚かないでくださいね。美人じゃ無い自覚はありますが、驚かれると地味に傷付くので」
『反対に素の貴女を見たい。どんな貴女も愛す自信があり…』
「そう言うのいいですから、早く来て下さい」
サクッと会って終わりにしたい!電話を切り時間を見る。今は20時前。家から車で10分程だ。また化粧はしたく無いから、マスクと眼鏡を掛け一応着替えた。
食べかけの夕食を食べ終わった頃に着信が入る。どうやらジークさんはホテルに着いてロビーにいる様だ。
『はぁ…気が重い…』
スマホと部屋のガキだけ持ちロビーに向かう。ロビーに着くと少し窶れた?ジークさんとタチバナさんが待っていた。
私に気付いたジークさんが駆け寄り許可無く抱き着いた。
「ちょっ!ジークさん!」
「良かった…心配しましたよ。お顔を見せて下さい」
「だ・か・ら!スッピンなんだから嫌ですって!」
顔をジークさんの胸に埋めスッピンを隠す46歳アラフィフの私。
ジークさんは優しく私の頬を両手で包み上げた。温かみのある若葉色の瞳と目が合う。
「かわいい…」
「っくありません!お世話はいいので帰って下さ!いー!」
少し屈んだジークさんは私を抱きかかえロビー入口に歩き出した。
「ちょ!帰るって神に約束したのに!」
「一人で帰るとは言っていません」
「詐欺!」
ジークさんの腕から逃れようと藻搔いたら、ホテルの部屋のガキが落ちた。拾ってくれたタチバナさんにお礼を言おうとしたら、タチバナさんは微笑み鍵を部下らしき人に渡した。
「!」
外にはいつもの車が停まっていて乗せられ、出発してしまった。あっという間にジークさんに拉致られた。あり得ない…
車内ではジークさんがずっと手を握っている。どこに拉致られるの?愛華に助けを呼んだ方がいい?
「何処に連れて行く気ですか?」
「咲さんにはもっといい部屋でお休みいただきます。それに話があります」
「話?」
この後何度聞いても話してくれず、一流ホテルにスッピン&マスクでチェックインする事になってしまった。
最上階のスィートルームに連れていかれ、ソファーに座るとタチバナさんが紅茶を入れてくれた。
そして部屋に誰だ来たと思ったらさっきの部下達が私の荷物を持って来た。
勝手に荷物をまとめてチェックアウトして来た様だ。
『よかった…脱いだ下着類を鞄に直しておいて…』
一時避難に一流ホテルのスィートルームなんて、庶民の私は場違い過ぎて居心地悪い。
ジークさんが人払いをし、だだっ広い部屋に2人になった。紳士で私に惚れてるジークさんが無体な事しないと思うけど一応警戒する。
すると私の緊張が伝わった様で、隣では無く向かいに座るジークさん。
「話ってなんですか?」
「愛華さんから連絡をもらい咲さんの周辺がおかしいと。そして先程お隣のご婦人にお伺いしたら、ここ数日咲さんの自宅前に不審車が停まっている事があり今日も居たと」
「はい。だから念のために今日だけホテルに泊まろうと…」
すると”ぴろ〜ん”と着信がしジークさんがスマホをチェックする。すると険しい顔をしていきなり頭を下げたので、仰け反りびっくりしていると…
「ここ数日連絡出来なかったのは、今実弟が来日しているからなのです。恐らく母が私が帰らないのと、どうやら咲さんの存在を知り実弟を送って来たのだと思います」
「…」
愛華の推測通りだった。その内絶世の美女か品の良い母親の来襲パターンか…
「今タチバナから連絡が有り、先程の不審車は実弟では無く父の部下である事が分かりました。予想外で私も困惑しています」
「はぁ?」
ここに来て父親が登場?もーそっとしておいて!私はおひとり様を堪能したいの‼︎
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