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29.波乱の予感

咲とジークの距離が少しずつ縮まりゆっくり進展していく中、新たな火種が…

2日目セミナーの前に古川さんとランチの約束をしている。約束の店に到着しスマホをチェックするが、まだ古川さんは来ていない様だ。店員さんの案内待ちをしていたら


「梶井さん!」

「お疲れ様です?」


振り向くと古川さんが居て…でも…


「お連れの方ですか?」

「へ?うわぁ!田口さんどうしたの⁈」


古川さんの後ろに女性が一緒にいて驚いていると、女性が親し気に古川さんにボディタッチしながら


「この後一緒にセミナーに参加するんだからランチ一緒してください」

「俺は先約があるって言ったよな!」

「冷たいな…アシを労わって下さいよ。えっと…確かオフィスONEとの懇親会でいらっしゃいましたよね?」


この女性は古川さんの同僚の様だ。彼女の態度から古川さんに好意がある事が分かる。めっちゃ敵視されていて、彼女はマウントを取るように私を睨め付けてくる。居心地悪いなぁ…でも大人の対応しなくちゃ


「はい。オフィスONEの梶井と申します。古川さんにはお世話になっております。あの失礼ですが…」

「田口さん。梶井さんは取引先の方なんだからまずは自分から名告らないと!」


古川さんに促され名刺交換をしたけど…気まずく食事どころでは無い。真美ちゃん関係の事を聞きたかったんだけど今日諦めよう。時計を見たらまだ時間はあるから別の場所でお一人様してこよう。


「古川さん。お連れの方がいらっしゃる様なので、私は別の機会に…田口さん失礼します」


お辞儀をして去ろうとしたら古川さんに手を取られた。びっくりして見たら古川さんもびっくりした表情で田口さんを見ている。

田口さんが私を掴む古川さんの腕に抱き付いていた。フリーズする3人。

店内で悪目立ちし汗が出て来た。古川さんの手を振りほどき「失礼します」とだけ伝え店を後にした。

時間が無いが少し離れたコーヒーショップで軽く食べ、セミナー開始時間ギリギリに会場入りし端の席に着席した。さっきの事を忘れたくてセミナーに集中する。途中の休憩時間も古川さんに会わない様に、すぐに化粧室に向かいまた時間をつぶし、開始ギリギリに会場入りした。

そしてあと少しでセミナーが終わるって時に古川さんからショートメールが届く。


『今日はすみませんでした。今夜お時間を頂きたい』


セミナー終了後に直ぐ帰りたいので返事を返す


『お疲れ様です。お気になさらないで下さい。今日は急ぎの仕事があり事務所に戻ります。暫くは残業になりますのでまたの機会に…』

『またお誘いします。お気をつけてお帰り下さい』


よし!セミナーも終わり急いで会場を後にした。会社に戻るとクライアントからのデータが届いていた。このデータは本来別の子が処理する予定だったが、真実ちゃんの退職により担当替えがあり私が引き継いだ。

担当だった子がギリギリまで仕事を伸ばす癖があり、期限が無い状況で引き継いだ為数日残業する事になった。

席に着くと社長から差し入れのコーヒーとおにぎりが置いてあった。仕方ない…今日明日と残業を覚悟してPCを立ち上げ早速仕事にかかる。


「梶井ちゃん!そろそろ上がりなよ!」

「はい。戸締りするので先に上げって下さい」

「最終バスくるよ!ハイハイ片付ける!」


気がつくと最終バスが来る15分前だ。本当はもうちょっとしたかったが社長に言われたら終わらすしかない。疲れた体を引きずり帰宅する。

帰りのバスでスマホをチェックするがジークさんからの連絡はない。『忙しくなるから連絡無理』って言ったからか…

最近は頻繁に連絡があったのに無いのは少し寂しい。”今日は残業して疲れてるから弱ってるんだ”と自分の不安な気持ちに理由付けし家路についた。

翌日も朝から忙しくあっという間に1日が過ぎ21時に帰宅すると愛華からメッセージが入る。


『明日、休みでしょ⁈夕方ウチに来ない?旦那も子供もいないから家飲みしよう!』

『OK!食事とどうするの?何か買っていこうか?』

『適当に用意しておくから、お酒よろしく。ちなみに飲酒するから泊まっていきな』


残業の疲れを愛華の能天気な話でも聞いてリフレッシュしよう。


・・・しかしこの時既に新たな火種が起きていたなんて思いもせず早めに就寝した。


翌朝いつも通り起床し午前中は家事をこなして買い物に行く。平日のため買いと愛華の所に持っていくお酒を買っていたら、子供連れの主婦が店内で立ち話をしているのが耳に入る。


「多々野駅前の『週末の王子』もう出没しないね。また拝みたかったわ」

「マー君ママに聞いたけど待ち人に会えたらしいわよ。その待ち人は普通のおばさんで、見てた人達は皆ガッカリしていたらしいよ」

「マジ?もしかして王子は熟女好き⁈ときめき返せって感じ!」


すっかり忘れていたけどそんな話あったなぁ。やっぱり世間一般の目にも不釣り合いに見えてるし自分でもそう思うもん。前世が無かったら私なん見向きもしないだろうなぁ…

思わずカバンからスマホを取り出し見るがメッセージは来ていない。

自分でもよく分からない感情を見て見ぬふりをして、レジに向かい買い物を終えて家に帰った。


夕方まで撮り溜めだテレビ録画を観ながら過ごして車で愛華の家に向かう。愛華の家は家から車で30分程で友人の中でも一番よく会う。旦那さんが起業していて裕福で、愛華は専業主婦をしている。


「いらっしゃい!早く飲もう!」

「来ていきなり⁈」


相変わらず能天気な愛華に苦笑しお邪魔する。ダイニングには美味しそうな料理が並びテンションが上がる。人に作ってもらった食事は美味しい。


乾杯し飲み始めたらやっぱり旦那さんの愚痴だ。旦那さんは大人しく真面目ないい旦那さをだけど、夫婦にしか分からない事もあるんだろう。一頻り愚痴り満足したのか愛華は食べ始め私にジークさんとの事を聞いてくる。


「ジークさんとは進んでいるの?」

「ゔーん。週一会うか会わないかかなぁ」

「ジークさん。頑張ってんじゃん。もう私は必要ないね」

「お高い食事に行けなくて残念?」

「ジークさんいい人だから奢ってくれるよ」


笑いながら豪快にお酒を飲む愛華。この後お互いの近況を話していたら愛華が急に


「咲さ…身辺で変わった事ない?」


一瞬古川さんと田口さんの顔がチラついたが、無いと答えると



「私の勘だけど誰かが咲の事調べてるよ」

「はぁ?」


意味が分からず愛華の顔を見ていたら、グラスのワインを一気飲みした愛華が静かに話し出す。


「私がヨガに通ってんじゃん。そこで最近仲良くなった人がいるんだけどね。その人が咲の情報を聞き出そうとしている節があって、途中から由美の話に変えた途端に会わなくなったの」

「ごめん意味が…」


この後詳しく話を聞く。

愛華は週3日で午前中にヨガに通っている。1ヶ月ほど前にレッスンを終えて帰ろうとしたら、スタジオ前に同じ歳くらいの綺麗な女性がいて声がかけられたそうだ。

その女性は愛華に話しかけヨガ教室について質問して来た。

人のいい愛華は色々教えてあげたそうだ。彼女は直ぐに入会を決め、お礼に愛華を紹介者として愛華は紹介者の特典を受けたそうだ。


それ以降レッスンが同じになる事が多くすぐ仲良くなる。彼女はスミレさんと言い旦那の仕事の都合で海外から短期で日本に来ていた。


「でさー彼女が”私ら位の歳になると学生の友達と会わなくなるよね”て言うから、”私はずっと仲良く頻繁に会うよ”て言ったの。そこから友達の話になり、彼女が自分の親友の話しをしだしたわけ」


その話の流れから私の話をしたそうだ。それから話の合間合間に私の話をふってくる様になり…


「怪しくなぃ?嫌な感じがして少ししてから咲の話はしない様にして、年賀状てしか連絡取ってない由美の話題しかしない様にしたの。そしたら徐々に距離を取られて全くレッスンが合う事がなくなり、昨日行ったら退会してたのよ!」

「たまたまじゃない?」


すると愛華はジークさんが怪しいと言いだした。正確にはジークさんの身内だと言う。


「だってジークさん世界的大企業の御曹司で独身だよ!親からしたら結婚し跡継ぎ望んでいるに決まってんじゃん!

ウチの旦那の小さい会社でも義母さんから跡継ぎって煩かったかのに、ジークさんの両親なら尚更だよ」


愛華はジークさんの身内が私の事を調べる為に愛華に近づいたと考えている様だ。

でも…


「でも!まだ付き合っても無いのに?」

「ジークさん咲にベタ惚れじゃん。ずっとこっちに居るし…もしかしたら…」

「何?こわいこわい!」


愛華はワインをグラスに注ぎながら


「咲はさーアラフィフじゃん。私もだけどギリ現役で子供なんて無理に近い。だから別れさせる為に画策してるんだよ!」

「いゃ!だから付き合って無いし」

「きっと本国では家柄の良い令嬢と縁談が進んでるんだよ。その内に親が決めた若くて美人な女性が会いに来てマウント取ってるか、昼ドラあるあるで母親がくるよ」


でた!”愛華のドラマ好き”。そんな展開は無いと思いながら、無いと断言できない自分がいる。


この後気分屋の愛華は最近ハマっているドラマの話をし出し、ジークさんの話題はここで終わりになった。


深夜まで酒盛りをしてシャワーを浴び客間で休む。布団に入りスマホを見たら知らない番号から着信が…誰だろう?

それよりジークさんからの連絡はまだ無い。忙しく会えなくてもメッセージくらいなら返せるのに…私から送った方がいいの?

でも…スマホと睨めっこしていたら眠落ちした。


翌朝、愛華が用意してくれた朝食を美味しくいただき帰宅する。帰り際に愛華が


「咲はさー周りに気を使い過ぎ。好きにしていいんだよ。凛ちゃんも心配要らないから、自分の為に時間つかいな」

「そうしてるつもりなんだけどねー」


こうして愛華にお礼を言い昼前に帰宅すると、玄関先でお隣の住田さんと会いご挨拶する。


「そうそうお会いしたら言いたい事があったのよ」

「?」


住田さんは私より一回り上の品のある女性で旦那さんもいい人だ。賢斗が亡くなってから心配してよく声をかけてくれる。


「ここ最近ね貴女の家の前に見た事もないない車が、貴女が留守の時や深夜に泊まっている事があるのよ。路上駐車かと思ったけど、帰宅時に旦那に確認してもらったら人が乗車してて、旦那に気づくと走り去って行ったそうよ。怖いから巡回中のお巡りさんに話しておいたけど気を付けてね。凛ちゃんも居ないし何か有ったらウチに逃げておいでね」

「ありがとうございます。なんでしょうね⁈ウチはセキュリティ入れてるから大丈夫だと思います」


その後少し立ち話をして帰宅した。

「まさかね…」

愛華の話が現実味を帯び身震いして来た。平穏な日常…平和主義の私の生活がまた遠のいて行く気がした。

お読みいただき、ありがとうございます。

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