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27.癒えない傷

愛華に嵌められジークと食事に行く事になった咲。ジークに子供の頃のことを聞かれ…


「やっぱりエステのフルコースは最高だわ。日頃の疲れが取れるわ。っね!咲」

「うっうん。あれ本当に体験なの?」

「だってあれはジークさんのから貰ったの」

「はぁ⁈」


びっくりしてジークさんを見ると美しい微笑みを浮かべて、私の手を取り


「あのエステサロンは新規でウチのシステムを導入いただき、招待いただいたんです」

「あっありがとうございます」

「女性が美しくなるお役に立てれば嬉しい」

「はぁ…」


この後、恐らく愛華が行きたいと言った高級寿司店に向かった。寿司屋は入口からして別格で一般人の私を拒んでいる様に見える。ジークさんに手を取られた入店すると、個室が用意されていた。店員に食べれないネタを聞かれて”青魚”が無理と答えると、次に飲み物を聞かれる。お茶でいいと答えると遠慮のない愛華はちゃっかり冷酒を頼んでいた。


緊張して品書きを見たら全て時価で血の気が引いた。一応コースを頼んでいるらしく順番に料理が出される。愛華が中心に話が弾みジークさんも和かだ。

私は只管食べて偶に相槌を打つ。すると愛華が


「ジークさんは日本語流暢だけど、小さい頃から習っていたの?」

「いえ、30歳の時にシネマパークの仕事を機に日本に来る事が増え、日本に魅了され習い出したのです。丁度仕えてくれていたタチバナが日本人でしたね」

「ふーん」


ジークさんは意味ありげな視線を送ってくる。気付かないフリをしてお寿司をいただく。食事が終わった頃に料理長が来てジークさんにご挨拶する。どうやらジークさんは上得意さんの様だ。


「フォーグス様は接待でご利用いただいておりましたが、プライベートは初めてでございますね。美しいご婦人と又のお越しをお待ちしております」

「楽しく食事させていただきました。私の大切な女性ひとが気に入ればまた来ましょう」

「って咲!」


愛華を睨み”余計な事言うな!”と目で訴える。すると料理長が


「咲様は如何でしたか?ウチの寿司は」

「とても美味しかったです」


料理長は安心した様で、またジークさんを見てお辞儀して退室して行った。

するとジークさんがこの後の予定を聞いて来たから、家事を理由に帰ろうとしたら愛華が


「私は旦那と買い物あるから帰るわ」

「ならわた…」

「咲はご馳走になったお礼しないとね。お茶位はジークさんに付き合ってあげたら⁈」


そうして愛華はスマホで何かを調べてジークさんに見せている。表情を明るくしたジークさんは愛華に礼を述べいる。

こうして高級寿司店を出るとタチバナさんが待っていて、愛華に引っ張られて車に乗車する。


結局、愛華を駅まで送り私はお寿司分ジークさんのお相手をする事になった。車はどこに向かうんだろう?少し不安になってジークさんに聞くとスマホを見せてくれた。


「ここ!前から行きたいと思ってたカフェだ!」

「愛華さんが紹介してくれました。咲さんが水出しコーヒーがお好きだと教えてくれまして…少し遠いので移動に時間をいただきます」

「あっはい」


ジークさんは私に嫌われたく無いから、無体な事はしないだろう。あまり気負わず純粋に行きたかったカフェを楽しもうと思う。


ジークさんは私の手を握り何か言いたそうだ。

『そっか…愛華が居なくなったから、賢斗の手紙の内容を知りたいんだ…でも』


「咲さん。聞きたいことが…」

「夫の手紙の内容は!」

「いえ。それをお聞きするつもりはありません。悔しいが貴女と夫はちゃんと愛し合っていた様で、恐らく貴女は何があっても人に教える事はしないでしょう」

「・・・」


意外なジークさんの返答にまじまじと顔を見た。優しい瞳で見つめるジークさん。

居た堪れず…


「では何を聞きたいんですか?」

「貴女が6歳の時に起こった不幸な出来事です」

「6歳…」


そっか巫女の私がピンチになったから、渡りの扉が開いたって言っていた。6歳は幼ながら辛かった記憶がある。あまり思い出したくなくて、母にもあまり詳しく話さなかったし、親友や賢斗にも話した事ない。


でも何故だろう…今話してもいいと思えた。

静かに話し出すと手を握りなおすジークさん。


「私が6歳の誕生日を迎えた翌日。父は心臓発作で突然亡くなりました。母は専業主婦で父は転職して半年も経っていませんでした」


父は超有名な一流大学在学中に大学近くの書店で働く母と出会い付き合っていた。母の両親はネグレクトで酷い環境で育ち、高校卒業と同時に親と縁を切り一人暮らしをしている。2人は将来を誓い父が大学を卒業し、仕事が軌道に乗ったら結婚するつもりでしたが…


「私が出来て予定が狂い…」


父が4回生になってすぐに母が妊娠。父は迷わず母にプロポーズし結婚を決めました。しかし父の両親…と言うより父の母(祖母)に猛反対され、母は堕胎を迫られたそうです。

しかし父は両親の反対を押し切り婚姻届を提出。大学を辞めて就職しようとした。

しかし学歴と世間体を気にする祖母は援助するから、大学は卒業する様に言い卒業まで援助し、父は母の部屋に移り一緒に住み卒業前に私が生まれた。

丁度就活中の父は学生結婚した事で、就活が上手くいかなかったそうです。

同級生はみな一流企業に内定が決まる中、中々決まらない父は結局中小企業に就職しました。それに祖母は激怒!みごもの母に連日罵声を浴びせたそうだ。

祖母は私と母を憎み私が生まれても一度も会いに来た事なかったが、父は母と私を愛して育ててくれた。

あまり覚えていないけど、父がいた時は幸せだったと思う。

そんな父が28歳で突然死した。

母は頼る親も身内もなく、専業主婦でまだ若いし知識の無かった父は生命保険にもまともに入っていなくて、途端に経済的に苦しくなる。


母は働こうとしたが、将来を見据えて資格取得する事にした。しかし資格取得するには専門学校に通わなければならない。短期間で取得したい母は私を預け先を探した。

父の少ない保険金は母の学校費に消えるため、昼は学校夜はバイトになり私を養育出来ないからだ。

学校卒業までの2年泣く泣く施設に入所させようとしていたらしい。

すると父方の祖母が何処から聞いたのか母が学校に通う間、私を引き取ると申し出てきた。結婚当初から祖母に嫌われていた母は悩み断ろうとしたが、田舎から祖母直々に来て母を説得したそうだ。父の実家は田舎の大地主で祖父は町会議員をし、祖母は沢山の土地を貸して経済的に裕福だった。

渋る母に祖母は


「ウチの孫が施設とか考えられない。2年間しっかり養育するから安心して学校に通い、1日でも早く資格を取り迎えに来なさい。咲の養育費は心配いらないから、貴女は一人で何とかしなさい。これ以上渋るなら弁護士を入れ法的に咲を引き取れるようにするわよ」


知識もない母はこれ以上渋り私の親権を取られる事を恐れて私を祖母の元へ託した。

当時の私は祖父母を知らず幼稚園の友達がおじいちゃんおばあちゃんの話をするのが羨ましく、祖父母に会えて嬉しいとしか思って無かった。


こうして、小学校入学前に父の田舎に引っ越し地元の公立の小学校に入学した。

暮らしは…祖父母の家は田舎の大きな一軒家で隣には叔父夫婦の家があり、これまた大きく驚いたのを覚えている。私は母屋から離れたところに新しく離れが建てられそこで生活する事になった。

正直今思えは完全にネグレクトだった。世間体を気にする祖母は私の身に着けるものは全てブランド物を用意されて、食事も贅沢なものが出されていた。

しかし…食事はお手伝いさんが離れに持って来ていつも一人で食事をし、離れにはトイレ・お風呂があり祖父母と顔を会す事がなく6歳にして一人暮らしの様な生活だった。

部屋には本にTVやゲーム機とモノだけは充実し、遊びに来た友達に羨ましがられたがいつも孤独だった。

元は天真爛漫だった私はここでの生活で性格も変わり内向的で自己主張しない子になっていった。

初めは祖父母が出来たのが嬉しくて祖父母に寄って行ったが拒否される日々に心折れた。そして少しでも祖母に気に障ると…


「あんたはあの女と同じ悪い血が流れているから、そんな悪い子になったのよ!」


と怒鳴られ母を罵られた。

自分が怒られるより母を罵倒される事が辛くて部屋の隅でよく泣いたものだ。

母は月1回会いに来てくれたが祖母が家の敷居を跨がせなかったので、いつも使用人の車で駅前に送ってもらい母が帰るまでの半日母と過ごした。

母は必ず私の体をチェックし虐待されていないか確認し、ちゃんと食べて学校に行っているか聞いていた。

祖母は母に私の暮らしぶりを写真に撮り月1回手紙と一緒に送っていたそうだ。しかし写真も手紙も使用人さんが書いていたのを母は知っていて、手紙を信用していなかっのた。私の人生で一番辛い2年を過ごし母が栄養士の資格を取り迎えに来てくれた時は泣いて喜んだ。祖母は母が迎えに来る3日前に母屋の客間に私の荷物を移動させ離れは取り壊し恰も世話をしていた様に振舞った。幼いながら意地悪な人なんだと思い、もう祖母と思わなと心に誓ったのを覚えている。


思い出したら涙目になって来た。この歳になっても心の傷は癒えていないようだ。母も同じで今でもお酒に酔うと泣きながら


「咲ごめんね。おばあちゃんから守ってあげれなくて…」謝罪する。あの2年は母にも大きな傷を残したのだ。


そして私が中学の時に祖母、祖父と続けて亡くなった。私は”行かない”っと言ったが、母は”最後はちゃんとして終わろう”と親族ではなく一般で参列しお焼香だけ上げて帰ってきた。

葬儀が終わり数日後に叔父夫婦が弁護士を連れて訪ねてきた。父が亡くなった今私は相続人らしい。

叔父は難癖をつけ遺産放棄を迫る。2人の遺産はかなり有り、書類の私の相続額に驚いたのを覚えている。


正直要らなかったし欲しくも無かった。母は私が決めればいいと言ってくれ、断ろうとしたら弁護士が


「遺産は放棄してもこの預金だけは受け取って下さい。お祖父様が咲様名義で進学費用を積立されておられました。後お手紙も預かっております」


母と顔を見合わせてびっくりする。弁護士に促され手紙を読むと…


「咲ちゃん。ウチにいた間助けてあげれなくてすまなかった。おじいちゃんは婿養子で結婚した時からおばあちゃんに頭が上がらなかったんだ。佐川家は女家系で当主も妻がし、夫は子を儲ける手助けをするだけだ。息子しかいなかったから、女の子の咲ちゃんは可愛くて仕方なかったよ。しかし儂が可愛がるとばあさんの仕打ちが酷くなるのを恐れ、守ってあげれなかった。まだまだ親が恋しい歳なのに離れで1人なんて可哀想すぎる。

深夜に偶に様子を見に行き、頬の涙の跡を指でなぞり謝っていたんだよ。

この家を出てからは美佐枝さんと幸せに暮らせていると聞き安心していた。何もしてやれなかったから、せめて行きたいと学校に行ける様に貯金しておいた。このお金はじいちゃんが町会議員の給料で貯めたものだ。正樹(叔父)には手は出ささんから安心して受け取ってくれ。好きにならなくていいから、おじいちゃんがいた事は否定しないでくれ。

じいちゃんはいつも咲ちゃんの幸せを祈っているよ」


おじいちゃんは意地悪もしないけど、構ってもくれなかった。だから嫌われていると思っていた。言われれば誰もいない時に、頭を撫でてくれた事はあった。

ちゃんと愛されてたと思うと涙が出た。


貯金はおじいちゃんの気持ちとしていただき他の遺産は放棄した。

こうして佐川の家と完全に縁を切った。



『ドラマになりそうな幼少期だったなぁ』と昔の思い出に浸っていたら


急に温かくなり見上げるとジークさんに抱きしめられていた。


「すみません。辛い話をさせてしまった…」

「大丈夫です。この後幸せになりましたから」


そう母は栄養士となり市の施設で働き、次は管理栄養士なるために働きながら勉強していた。母と一緒に暮らしだしたのは3年生。料理はできないが洗濯を畳んだり食器洗いに買い物など出来る事は手伝った。そうして母は頑張り国家試験を一発合格し、晴れて管理栄養士になった。そして母は大学病院に転職し再婚相手の“いーさん”と知り合ったのだ。

中学に入ると経済的にも安定し塾や習い事も通わせてもらい年1回旅行も行った。活き活きと働く母を見て私も結婚しても働こうと思ったのはこの時かもしれない。

再婚相手のいーさんは前妻と死別しており息子さんが2人いた。母より3歳年上の内科医で私が高校入学といーさんの息子さんが2人共大学に入ったタイミングで2人は再婚した。そこからは幸せしかない。


「いーさんとも腹違いの兄とも関係は良好で今でも仲良しです。ね!今は幸せでしょ⁉︎」

「これからは私が幸せにしてあげたい」

「さっきも言いましたけど十分幸せですよ。あ…でも夫亡くした時点で幸せではないですよね⁈賢斗に叱られますね」


草葉の陰から賢斗が恨めしそうに見ているのを想像したら少し笑えた。

すると抱きしめる腕を緩めたジークさんさ真っ直ぐに私を見詰める。焦り出すとジークさんの綺麗なお顔が近づいて来た!仰け反るけど逃げ場がない!


「ジークさん。それ以上は…」


ジークさんの口元を手で覆った。手のひらに口づけされ焦っていると静かに車が止まった。どうやらカフェに着いたようだ。

『助かった…』胸をなでおろす。キスしそびれたジークさんは明らかに拗ねている。まだそこまでの関係性は出来ていません!


溜息一つ吐いたジークさんが私の手を引き車から降りると目的のカフェが目の前に…

写真で見たシックな外観にワクワクする。既にタチバナさんが席をキープしてくれていて、順番待ちの人の横を通り奥のテラス席に案内された。

このカフェのコーヒーは全て水出しコーヒーで評判がいい。そして私の好きなシフォンケーキも有名だ。私はチョコシフォンとアイスコーヒーを頼み店内のインテリアを見ていた。ふと周りを見ると近くの席の女性の視線がジークさんに集中している。彼氏がいる女性もジークさんに釘付けだ。


『本当にモデル以上に男前イケメンなんだよね…特に長髪が似合っていて絵本に出てくる王子みたい』


ジークさんを見ていて疑問が…


「何でジークさんは髪を伸ばしているんですか?ジークさんの国では男性の長髪は多いんですか?」

「いえ、祖国でも珍しくて目立っていますね」

「願掛け?」


“願掛け”の日本語が分からなかったジークさんはスマホで調べている。流暢な日本語が出来ても知らない言葉はあるんだとぼんやり見ていたら、やっと意味が分かった様で


「ある意味“がんかけ”かもしれません」

「?」


何を”願掛けしているのか興味が出て聞いてみる。


「私の容姿は前世のアルフレッドに似ていてアルフレッドは長髪でした。もし私が気付かなくてもアルフレッドに似ている容姿をしていたら、エミリアが気付いてくれるかもと思い、物心ついたころから伸ばしています。両親にはかなり心配されましたが今ではトレードマークになっていますよ」


確かにジークさんは前世にアルフレッドに似ている。私は…純日本人でエミリアの様に美しくない。


『自分で言って悲しくなって来た』

私の様子に気付いたジークさんは手を握り微笑んで


「優しい瞳はエミリアと同じです。貴女がどんな姿になっても私は分かりますよ」

「猫とかでもですか?」

「はい!」

「うっそだー!」

「私は貴女に嘘は言わない」


真剣な面持ちで恥ずかしい事を言うジークさんが面白くて警戒心が少し薄れた様な気がする。この後、気負わず楽しいお茶の時間を過ごし帰る事になった。


この日はほんの少し打ち解けた気がした。


お読みいただき、ありがとうございます。

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