26.エステ
愛華の機転で?ジークとまた繋がりを持つ事になった咲。穏やかな独身生活は更に遠退き…
「はぁ…全く疲れが取れなかった…」
月曜日。最寄りのバス停で溜息と吐き遠い目をしていた。週末は色々あり過ぎた。
ぼーと待っていると月曜は遅れて来るバスが珍しく定刻通り来た。乗車すると空いている?バスのルート上に高校が2校あり多々野駅から乗ってくる学生であふれているのに今日は少ない。するとおばさん2人が私の後ろに座り話し出す
「今日は高校試験休みみたいね」
「だから空いているのね。静かでいいわ!」
後ろで話すおばさんに心で頷きながらゆったりとしたバスで出社する。
いつも始業時間30分前に着くようにしていて、いつも私がセキュリティを解除して事務所の窓を開けて空気の入れ替えをする。
そしていつも私の後にチーフが出社する。
「おはよう!」
「おはようございます。週末はお疲れ様でした」
「梶井さん体調は大丈夫?有給たっぷりあるから休んでいいよ」
「ありがとうございます」
朝一セットしたコーヒーが出来ていてチーフの分も入れ渡すとポツリと
「梶井さんから担当を引継いだけど古川さん仕事出来るわね。話が早くてとても仕事し易いわ。流石あの歳で企画責任者を任されているだけあるわ」
「そうなんですよ。彼は頭がいいからこちらの負担も少なくて…」
「私情を挟まなければよかったのにね」
「あははは…」
「それにしても沢野商事との提携は上手くいっているわね。社長も喜んでいたわ。それに…カップルも沢山出来たみたいだし」
「そうなんですか?」
「相変わらず色恋沙汰には疎いわね。松川さんなんて開発部のエースと付き合いだしたらしいわよ」
知らない間にプライベートでも提携している様だ。そう言えば真美ちゃん機嫌いいもんなぁ…
「松川さんね…少し心配なのよ」
「?」
どうやら真美ちゃんはうちの大口のクライアントの情報を担当に聞く事が多いと、他のスタッフからチーフに連絡が来ている。真実ちゃんが気にしている水田産業って確か近々新商品の発表を控えてるって聞いたど…
「真美ちゃんのお相手って確…開発担当?」
「そうなのよ…」
「流石に恋人に聞かれたからって、クライアントの情報を教える様な事しないでしょ⁈」
「だといいけど…彼女は浅慮なところがあるから心配なのよ」
チーフの指摘があってるだけに何とも言えなかった。少しすると他のスタッフが出社しだして話はここで終わった。しかし、この時の話が現実になるなんてこの時は思っても無かった。
それから数日後真実ちゃん体調不良の為にお休みした。特段変わった事もなく過ごしていたが…。週末定時に仕事を上がりバス停でバス待ちしていたら
「梶井さん…」
呼ばれてびっくりして振り向くと青い顔をして窶れた真実ちゃんがいた。
「びっくりした!体調はいいの?」
「梶井さん…相談したい事があって…今からいいですか?」
「長くならないならいいけど…」
こうして少し不安に感じながら個室が取れた居酒屋に向かった。
様子のおかしい真実ちゃんに戸惑っていると
、急に泣き出す真実ちゃん。
「真実ちゃん!どっどうした?ちゃんと聞くから!ゆっくり話してみて!」
「私もうダメです!会社辞めます!」
「はぁ?」
泣きじゃくる真実ちゃんを宥めてやっと話を聞けるまでに少しかかった。
「話せそう?」
「はい」
まず酎ハイを一口飲み落ち着いて来た真実ちゃんはゆっくり話し出す。
「よく思い止まったね。偉いよ…」
「私バカだけどやっていい事と悪い事は分かります。でも龍君の事は本当に大好きで…彼の為になりたいのと、嫌われたく無くて」
「彼氏に伝えた話は他に無い?」
「はい」
「私が聞く限りはダメだけど、ギリ重要な情報では無いわ。だから彼は焦って脅す様な事言ったね。確かチーフがまだ会社に居るから来てもらって話をしましょう」
チーフと聞きまた泣きそうななる真実ちゃん。また宥めキチンと解決しようと説得する。
「梶井さんに呼ばれてびっくりしたわ。社長に報告し対応するわ。業務提携が順調なのに情報を盗む様な事はしないと思うの。その彼の単独犯だと思うわ。思い止まったとは言え、お咎め無しとはいかないわよ松川さん」
「はい…わかってます」
溜息を吐いたチーフは社長に連絡し会社で松川さんから話を聞く事になった。この後私にできる事はなく先に帰る事にした。
事件の内容はこうだ。
真実ちゃんと仲良くなった開発部の彼は、ライバル企業の新商品の情報が欲しくて、真実ちゃんに探りを入れていたようた。初めはどの部門が企画しているか位が、その内どんな商品や発売日まで聞き出し、最後はデータを持ち出せないかと迫ったらしい。
彼はそのデータを参考にしヘッドハンティングを受けている外資企業で新商品を提案して一旗あげたいと真実ちゃんに言ったそうだ。
真実ちゃんは水田産業のデータをUSBメモリーにコピーしたが、怖くなり渡さず会社を休んで悩んだらしい。彼が転職予定の会社は外資企業で給料がよく、上手く行ったら結婚しようと言われていた。
結局良心の呵責に悩み私に相談して来た訳だ。
「よかった…思い止まってくれて」
足取り重くバス停に着くとなんとか最終のバスに乗る事が出来た。
家に着き最低限の家事をこなしソファーに沈み込む。ふとスマホを見るとメッセージが入っている。開くとジークさんからだ。
『お仕事お疲れ様です。明日ミュージカルを観に行きませんか?興味なければ何処でもいいんです。貴女に会う機会を与えて下さい』
溜息を吐いて返事を送り
『ごめんなさい。今週は忙しくて週末はゆっくりしたいんです。また別の機会に…』
きっぱり断ると、また直ぐにメッセージが届いて
『残念です。またの機会に…』
「あれ?案外簡単に引き下がったなぁ…愛華のアドバイスが効いてるのかな?」
断れて満足してソファーに寝転がりのんびりしていたら、また“ピッロ~ン”メッセージが入る。見ると愛華だった。
『明日空けといて!エステのお試し券2枚貰ったの。行こ!』
「おぉ!疲れているから嬉しい!!たまにはいい事するじゃん愛華!」
速攻で行くと愛華に返事するとエステの後に行きたいお店あるから付き合ってとお願いされる。エステ券貰うしそれ位付き合うさ!
エステなんて久しぶりだ。賢斗がいた時は誕生日にエステのコースを予約してくれ施術してもらっていた。
疲れてるけど明日のために早く風呂に入り寝る事にした。
翌朝、最低限の家事をして軽く昼食を食べる。待ち合わせはエステ店の最寄駅だから電車で向かう。身支度をして駅に前に着くと、すごい見られてる気がする?気のせい?
すると遠巻きに見ていたJK(女子高生)が
「ほらあのおばさんだよ!『週末の王子』の待ち人」
「マジで!うちのママとかわらないじゃ。マジ興醒め!」
忘れてた先週ここで注目を浴びていたのを!
足早に駅に向かい、暫く電車を使うのを控えようと思った。
待ち合わせ時間は13時。改札を出たら先に愛華が来ていて手を振っている。
「お待たせ!」
「相変わらず時間通りだね咲。さぁ!タダでリフレッシュしに行こう」
何よりお得に弱い愛華はご機嫌だ。
お試し券って聞いたのに、フルコースの様に全身をマッサージしてもらい身体が喜んでいる。施術が終わりピッカピッカになった愛華とラウンジでお茶をいただきながら、この後愛華が行きたい場所を聞く。
「場所はよく知らないけど、新鮮なネタが有名なお寿司屋さん」
「はぁ?そんな高級店行ける訳ないじゃん」
大丈夫しか言わない愛華に危険を感じ、やっぱり先に帰ると告げると、半ば強引に引っ張って行かれ…
『やっぱりか…うまい話には裏があるだ…』
エステ店を出るとジークさんとタチバナさんがいた。もぅ愛華はジークさんの手先認識を持たなければと思った。
いい顔の愛華にイラつきながらジークさんのハグを受ける。
あー私の独身生活がどんどん遠のいていく…
また心の旅に出そうだ。
お読みいただき、ありがとうございます。
26話削除すみませんでした。時系列を直し少し内容を変えてました。
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