24.味方か敵か ※加筆あり
噂の『週末王子』がジークヴァルトだと判り困惑する咲。ジークヴァルトに遭遇せずに帰る手段を考えて…
『週末の王子』の正体はジークヴァルトさんだった。何で駅前で待っているの?それも週末に…
もしかして週末に出かける時に電車を利用すると思ったから?そう言えば最後に会った時に駅前の駐輪場に送ってもらった。
「そっか…家を知らないから彼が知っているのは私がこの駅周辺に住んでいて、移動手段がこの多々野駅から電車になる事と家から駅まで自転車を利用する事。着信拒否&メッセージブロックしたから、接点を持つにはここしかないんだ」
だからって週末の度に待ち伏せとか闇深くて怖い…
「どうやって帰ろう…」
家へは踏切を渡らないと帰れない。ロータリー側から帰るにはかなり遠回りになるし…
「勿体ないけどバスしかない!」
思い立って最寄りのバス停に向かうバスの乗車口を見るとまさに今出発する所だ!立ち上り走ろうとしたらドアが閉まり出発した。
「あちゃ~!土曜のこの時間は30分に1本だ」
次のバスまで30分待たないといけない。
溜息を吐きまたベンチに沈み込む。すると着信が入りスマホを見ると愛華からだ。久しぶりだ。彼女は義母さんが怪我をして義母さんが経営するお店の手伝いに行っていて暫く会っていなかった。
「はい」
「咲!久しぶり~やっと義母さんの手伝いから解放されて帰って来たよ。今家?」
「出ていて駅前」
「そっちに向かっているから待ってて。多分10分ほどで着くわ」
「了解!ロータリーの交番前のベンチにいるから」
愛華はほんの少しでも歩くのを嫌がり自転車か車で移動する。だから恐らく今日も車のはず。ならば愛華の車でウチに行けば駅の反対側に居るジークさんに会わずに帰れる。そして『週末の王子』をどうするか愛華に相談すればいい。帰れる算段が出来て少し心が軽くなる。
・・・10分後
「咲!お待たせ!」
「いい・・・よ・・・て何で!!」
「咲さん」
呼ばれ振り向くと愛華とジークさんが立っている。そして気が付くと人だかりが出来ていて注目を浴びている。
『週末の王子』の待ち人が判明し皆好奇な目で見ている。酸欠の金魚の様に口をパクパクさせ言葉が出ない。
「咲、駅の反対でジークさん拾ったから連れて来たよ」
「いや、勝手に拾って来ちゃダメだよ!」
「私が義母さんの所でこき使われている間に、何か複雑な状況になっていたみたいね。取りあえずあそこにジークさん放置は可哀想だよ。咲らしくない」
『超!気まずい…』
しかしジークさんは破顔し熱い眼差し送り、周りからは好奇な視線を送られ眩暈がして来た。
「あの…ここは目立つので取りあえず何処かに移動したいんですけど…」
するとロータリーに黒塗りの大型ワゴンが入って来て、白髪の紳士タチバナさんが降りて来た。
「ご無沙汰しております梶井様。お部屋をご用意しましたので、お車へどうぞ」
「ジークさん私協力したんだからランチ位おごってよね!」
「勿論です。どーぞ」
ジークさんが手を差し伸べて何の迷いも無く愛華は車に乗り込む。1秒でも早くこの好奇な視線から逃げたいけど車に乗りたくもない…究極の選択だ。
「あっ!愛華!車は?」
「へっ?今日は電車だよ」
「うそ!愛華は電車移動嫌がるからてっきり車だと」
「一昨日からエンジンから異音がするから修理に出しているの。で咲に義母さんの愚痴言いたくてアポなしで来たら駅前にジークさんが居て、てっきり咲と待ち合わせだと思ったら…。ジークさん悲壮な顔してたよ。あんた何ブロックしてんのよ」
「えっと…」
扉前で口籠ると車内の愛華が私の手を引っ張り車に乗せられ無常に車は発進した。
『逃げれない…なんでこうなったの?』
お節介な愛華睨む。愛華はジークさんに話しかけ楽しそうだ。
私は無言で窓の外をずっと見ている。30分ほど走り老舗ぽい料亭前に車が止まりタチバナさんが扉を開けてくれる。
意気揚々と愛華が私の手を掴み先に降りつられて私も降りる。料亭の入口には綺麗な桜色の着物をきた女将さんが立っていて、丁寧なご挨拶を頂き個室に案内される。正直場違いな服装の私たちは目立つ。気後れしながら料亭内を歩き個室に着き入ると、ドラマで見た政治家が会合するような個室だ。座ると料理が運ばれてくる。懐石料理で盛り付けも美しく目が嬉しい。
それよりジークさんの視線が熱くていたたまれない…もう帰りたい…すると鞄から着信音が…取り出し見たら古川さんからだ。
なんで今電話して来るかなぁ!タイミング悪い!
「出なよ」
「いいよ…後でかけ直すから」
「でもコールが長いから用事かもよ」
スマホを手に席を立ち部屋の外に行こうとしたが、愛華が「ここで出ろ!」と煩く仕方なく電話をとる。
『梶井さん。すみません!休みの日に』
「こんにちは。昨日はご馳走様でした。何かありましたか?」
『梶井さんと別れて後、店の店員が追いかけて来て、忘れ物を受け取ったんです。藤色の小さなポーチで梶井さんのものですよね⁈』
「はい、良かったと失くしたと思っていたんです」
『預かっていますので、月曜に前に行ったカフェでランチしませんか?』
「では、次はおごらせて下さい」
『いや女性に出さす訳には…』
「月曜の12時にお店でいいですか…うっ!」
『どうかされましたか?』
「…なんでもありません。では月曜に」
電話を切ると愛華は興味津々で、ジークさんは険しい顔で何か言いたげだ。
「えっと…」
「咲!今の声男だよね!」
「取引先の人で…」
「咲は賢斗さんの監視が無くなったらモテモテなんだから。羨ましいわ!」
「そんなんじゃないから」
ジークさんの視線が痛くて困っていたら、仲居さんが次の料理を運んで来て、本当は興味も無いのに料理の質問してジークさんの視線から逃げる。愛華が中心になり他愛もない会話が続き食事が終わりに差し掛かると愛華が
「咲。何でジークさんのメッセージをブロックしたの?」
「いや…そのジークさんの気持を受ける気が無いに、思わせぶりな態度は良くないと思って…」
「そうゆう事か!ジークさん咲はその気無いって」
「私達は知り合ったばかりだ。私にチャンスをいただきたい」
「・・・」
「咲はジークさん嫌なの?」
「いやではないけど…口説かれるのは困る」
「って。でもジークさんは咲が好きなんでしょう⁈」
「はい。中途半端な気持ちでは無いんです」
ジークさんも私も愛華がいるから前世絡みの話が出来ず話しが遠回してなかなか進まない。きっとジークさんは賢斗の手紙が気になっている筈だ。
でも内容は教える気は無い。あの手紙の内容は墓場まで持っていくつもりだ。
「咲は真面目過ぎるんだよ。先日凛ちゃんから連絡があって咲の事を心配していたよ。賢斗さんは死んでも咲を縛るかと思ったら、彼氏はOKらしいじゃん」
「凛が連絡したの!」
「うん。母思いのいい子じゃん!うちの子も見習って欲しいわ!咲…女性の平均寿命知ってる?80オーバーだよ。あと半分もあるのにぼっちって寂しいじゃん!ジークさんでもいいし、さっき電話あった人でもいいから彼氏つくりな。どうせ電話の男にもアプローチされてるんでしょ⁈」
愛華は鋭いから古川さんの事を勘付かれているし…昔から私が慎重過ぎるから後押ししてくれるのが愛華だった。楽天家だけどここ一番頼りになる。それにしても古川さんの話が出てからのジークさんの視線が痛い。
「でも…」
ジークさんは私の横に来て手を取り見つめながら
「私が早急すぎて貴女を追い詰めたようです。まずは友人からでいい、貴女との時間が欲しい!」
「えっと…」
『私は頑張った…でも…押しに弱いのは治らないの?』
結局、着信拒否とメッセージブロックを解除する事になり、目の前のジークさんは嬉しそうだ。落胆する私を見て愛華が
「ジークさん。アドバイスを一つあげる。咲は人づきあいで距離感を大切にするから間違うと今回の様に逃げるよ。昔に咲の旦那も同じ事をして咲に逃げられて、私に泣きついて来たことがあったの。そこで提案!咲はジークさんを警戒しているから暫くは私を入れて会ったら?その方が咲も安心するしさー」
「いや、愛華はジークさんと一緒ならいいお店で食事できるのが目的でしょう!」
「協力するんだからそれ位してくれるよね⁈ジークさん!」
「勿論です。愛華さんに感謝します」
「取りあえず今日は帰っていいですか?」
「では、お送りしましょう」
「大丈夫です。最寄りの駅で…」
「じゃあ!咲の家までよろしくお願いします。咲!今日は泊めてね」
「はぁ?」
この後何度も“駅まででいい”と言ったのに家まで送ってもらう事になってしまい、もう悩み考える事を止めた。
料亭を出ると例の黒塗ワゴンが止まっていて、愛華に車に押し込まれ乗車するとジークさんが
「タチバナ。咲さんの家までやってくれ」
「タチバナさん。咲の家の住所は…」
「存じておりますのでご安心下さい」
「はぁ⁈」
やっぱりジークさんは闇深い。知らない間に私の身の回りのことを調べて既に色々知っているみたい。知り合った頃の賢斗を彷彿させる。私に好意を持ってくれる人はこんな人ばかりなの⁈
『まさかね…』
一瞬古川さんの顔が浮かんだ。古川さんまで粘着質だったら多分私死ぬ。愛華は今日泊まる気満々だった様で、お泊りセットを準備している。
『あ・・・今晩は愛華の愚痴の嵐を覚悟しないと』
愛華はかなりストレスを溜めていたら様で、車内は愛華の独演会になり賑やかだ。
愛華に相槌を打ちながら穏やかなジークさん。何度か手を握られ…離す…また握るを繰り返し、最後は私が根負けし今は握られている。窓の外を見てこころの旅に出る事にした。
小1時間経ちやっと家に着く。
「送っていただいて、ありがとうございます」
「いえ、また連絡します」
「あ…はい。あの…お手柔らかに…」
「ジークさん!距離感!」
「はい。心得ました」
家の前で車を見送り家に入ると、愛華が私の好きな真丸堂の食パンを買って来てくれていた。
「明日の朝食はこれでサンドイッチよろしく!」
「はぁ…あんたは気楽でいいね」
「あ・の・ね!私がこの数日どんだけ気を使ったか分かる⁉︎義母さんの小言のレパートリーの多さに感心したわ!」
「はいはい…夜晩酌しながら聞くから」
こうして週末は愛華に振り回されて終わった。
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※加筆しました。その方が次話の構成がいいので…




