21.これから
賢斗の手紙を読み全てを知った咲。心の整理に時間がかかりそうだが…
暫く放心し賢斗の手紙を見つめていた。気がつくと部屋は真っ暗で日が落ちていた。我にかえり手紙を自室のチェストに直し、そして洗濯物を取り込み凛のベッドシーツをセットし早めにお風呂に入る。
『はぁ…』溜息を吐きながら湯に浸かる。疲れが湯に溶けて…いかない!
「あぁぁ…明日も休み取って良かった。明日出勤したらミス連発間違いないわ」
そう有給がたくさん残っていて社長から消化するように言われ、ジークさんと会う約束もあったから月曜を休んでいた。明日も休みだと思うと気が楽になる。ふと左手の甲が目に付く。心なしか“痣”が濃くなったきがする。消える訳無いのに指でこすってみる。
「私の人生は前世に縛られているんだ。これからも?…それは嫌だなぁ」
日本人の平均寿命まで生きたとしたらまだ半分ある。ここからは前世に縛られず思うまま好きにしたい。そうするにはやっぱりジークさんとは会わない方がいい。あの人は私の中のエミリアを見ていて決して私を見ている訳では無い。それに…ちゃんと賢斗に対する愛情も再確認した今、他の人と恋愛なんて考えられない。
「よし!早く風呂から出てジークさんの連絡先を消してSNSをブロックしよう!」
急いで上がり部屋着に着替えてリビングに行き直ぐにスマホを手にする。
「?」
着信とメッセージが何通か入っている。
一番に目に付いたのが母からだ。母は最近スマホをデビューしショートメッセージが出来るまでになった。
『明日。昼にりんとおいで。お昼よういしておくわ』
凛が母に連絡をしたようだ。母は私が高校の時に再婚し、3駅離れたところに住んでいる。凜は祖母が大好きで頻繁に連絡をしているようだ。
母の再婚相手の事も“いーちゃん”と呼び仲がいい。恐らく凛は高校位からは会いに行く目的はお小遣い目当てが4割くらいになっている気がする。
『了解!12時くらいに行くわ』と返信し、次をチェックすると凛からで帰り遅くなる連絡。早く帰るように返事をして玄関外のライトを着けセキュリティーを解除しておく。
最後は…『あ…ジークさんだ』
手が止まる。開けるのが怖い…どうしよう…
でも放置はよくないよね…仕方なくメッセージを開けると
『咲さん。昨日は失礼しました。やっと貴女が思い出してくれ歓喜し想いが抑えられなかった。別れた後にタチバナから注意を受け反省した次第です。
またお時間を頂きたい。暫く日本におりますので咲さんの都合に合わせます。我々には時間が必要だ。少しでいい私にお時間を下さい』
このまま既読スルーしブロックしても問題ないかなぁ⁈スマホを見つめて固まる。
キャパオーバーで頭がくらくらしてきた。もぅいいや!今日は取りあえず休もう。布団に潜り込み目を閉じる。中々寝付けず時計を見ると12時すぎ。凛が帰った様でリビングから物音がする。凛の帰宅に安心したらやっと眠気が来てこのままの勢いで眠る。
翌朝いつも通り目覚めいつもの朝食より品数を多く用意する。洗濯機をまわしコーヒーを用意していると凛が起きて来た。飲みに行った割に早起きだ。
「昨日あーちゃん(お祖母ちゃん)から連絡あった?」
「やっぱり連絡したのね。帰る前にお昼ご飯食べにおいでって」
「やったー!あーちゃんにお好み焼きがいいってリクエストしといたの」
ゆったり凛と朝食を食べていると凛が近所のショッピングモールに行きたいとおねだり。私と違い凛は甘え上手でまた服をねだる気だ⁉︎そして甘い私も買っちゃうんだよね…
この後洗濯を干し終え出掛ける時間まで凛と話をする。どうやら新しく入ったバイト先で気に入られたらしく、大学を出たらそのまま就職しないかと打診されているそうだ。確かどこかの出版社で編集者のアシスタントしてるって言ってた。本が好きな凛だから向いてるかもしれない。娘が順調に成長し青春を謳歌しているのを聞くのは嬉し楽しい。
話しているとあっという間に時間になり車でショッピングモールに向かう。
ショッピングモールで実家に持っていくお茶菓子を買い、後は凛に振り回されやっぱり服を買わされた。凛は満足したようでやっと実家に向かう。
実家に着くとお好み焼きの匂いが玄関先まで漂って来て凛が目を輝かせる。リビングに入るといーさん(父)とあーちゃん(母)が仲良くお好み焼きを焼いている。
「あーちゃん、いーちゃん来たよ!」
「凛ちゃんいらっしゃい。ご所望のお好み焼き焼けているぞ」
いーさんは母の再婚した相手だ。凛が小さい頃“おじいちゃん”と言い辛く呼びやすいように、“いーちゃん”と呼ぶようになり大きくなった今でもそう呼んでいる。母の“あーちゃん”も同じ理由だ。
いーさんは私の事も凛の事も娘と孫として大切にしてくれる。母とも仲が良く昔流れていた食器洗剤のCMのような仲良し夫婦だ。今でも買い物行くときは手を繋ぎラブラブだ。
食事が始まり凛を中心に話し楽しい会話が続く。食事が終わり私がお茶とお菓子を用意していたら、凛が徐に母にスマホを見せて…
「あーちゃん見て!」
「へぇ…外国の俳優さん?」
「男前でしょうお母さんに求婚している人」
「凛!」
「あらあら、咲はモテるのね!」
「咲ちゃん!見た目がいい男はナンパな奴が多いからやめておきな」
するとすかさず凛が突っ込む。
「いーちゃん。パパの時は反対しなかったの?パパも男前だったけど」
「いゃ…その…賢斗君は紹介される前から知っていてだなぁ…」
そうなのだ。いーさんが厳しいのを調べて知っていた賢斗は、私がいーさんに紹介する前にいーさんの行きつけの喫茶店に通い仲良くなっていた。流石賢斗。私と付き合う為に根回しをしていたのだ。
「冷静に聞くとパパって一歩間違うとストーカーだよね…」
「あははは…」(乾いた笑い)
ずっと腕組みしてスマホを見ている母。母がジークさんに惚れたの?いーさんがやきもち妬くぞ!
「あーちゃん。あまり見てるといーちゃんやきもち妬くよ!」
「この人なんか見覚えあってね…どこで見たのかしら⁈」
「外人さんは見分け付きにくいからなぁ…美佐枝ちゃん。そろそろ(写真見るの)やめてね」
いーさんがやきもち妬いた所でこの話題は終わりとなった。そして程なくして凛が帰る時間となる。凛は母といーさんからお小遣いをもらいご機嫌だ。二人にお礼を言い実家を後にし、車で最寄駅に凛を送っていると凛が…
「お母さん。パパの事も私の事も気にせずに好きにしてね。お母さんは自分の事を後回しにするところがあるから。私も子供じゃないんだから、これからはお母さんは自分為に時間使ってね。あの写真の人と付き合ってもいいし、独身生活謳歌するのも有りだよ!」
「ありがとう。ぼちぼちするわ」
こうして凛を送った帰りにスーパーに寄り、梅酒とつまみを買って家に帰り久しぶりに晩酌をする事にした。
梅酒のロックを片手にスマホと睨めっこしている。そうジークさんのメッセージをどうするか考え中。
変に返して期待させたくないから、必要最低限の短い文を送り、直ぐに着信拒否とメッセージをブロックした。
1ヶ月前にジークさんと知り合ってから私の独身生活は乱され、心が騒つく日々が続いている。前みたいに自分のペースでのんびり過したい。
だからジークさんとは会わない!と心に決めたら気が楽になり酔ってそのまま眠りについた。
しかし着信拒否とメッセージブロックした事が後で大変な騒動を引き起こすなんて、この時の私は知らず気持ちよく寝たのでした。
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