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2.経過

ジークヴァルトからの着信に嫌な予感しかしない咲。

手元のスマホはまだ鳴り続けている。正直切ってくれる事を願い画面を見ていたら、横から愛華が通話を押した!


「ちょっ!」

『もしもし…咲さん?ジークヴァルトです』


思わず愛華を睨むとキラキラした目で見てくる。腹が立つなぁ!


「はい。梶井です。先程はご迷惑をお掛けしました」

『傷は痛みませんか?痛み止めをお持ちしましょうか?』

「いえ、大丈夫です。先ほども申し上げましたが、完治しましたら連絡しますので」

『もうご自宅ですか?』

「いえ、友人と買い物中です」

『失礼しました。愛華さんにもよろしくお伝え下さい。ではまた明日』

「はい。えっ?明日?」


今ジークさん明日って言ったぞ。聞き間違いか?

隣にいる愛華が鼻の穴を膨らませ興奮している。

もしかしてとんでもない人に絡まれている?

買い物する気がなくなりお茶をする事になった。


珈琲専門店で美味しい水出しアイス珈琲を飲み暫し現実逃避していたら、目の前でスマホに齧り付いている愛華。いきなり愛華が私の手を掴み震えている。どうしたのか聞いたがスマホ画面から目を離さない。


「咲!ジークさん凄いセレブだよ!」


興奮気味の愛華の説明をスマホ画面を見ながら受けた。


ジークヴァルト・フォーグス 40歳 独身

インスティル・カンパニーのCEO

(世界的に有名なセキュリティソフト開発を始め、半導体メーカーとしても有名な会社)

インカール王国の公爵家の血筋で直系のフォーグス家の長男。


「・・・」

「もービックリだよ!見て見て!会社のHPにジークさんの写真もあってちゃんと本人だよ!咲!凄いの釣ったね!」

「スマホ替えようかなぁ…」

「駄目だよ!こんなセレブと知り合いになんて中々なれるもんじゃないよ!」


もぅ…美味しかったアイス珈琲の味は感じなくなった。この後まだまだ話したい愛華を半ば振り切り帰宅する。洗濯を取込みお風呂を給湯ボタンを押しソファーに寝転がる。


ソファーで寝転がった時に左手が当たり鈍い痛みが走る。左手を見ながらジークさんが左手をやたらに気にしていた事を思い出す。


「私の左手に何があるの?」


『覚えていませんか?』


あれはどういう意味だろう⁈今日初めて会った人だよね⁈亡くなった賢斗関係?

もぅ!キャパオーバーだよ。考えるのをやめてベッドに潜り込んで無理やり寝た。


日曜の朝。昨日早く寝たから早く起きた。ゆっくり珈琲を飲みながら朝のニュースを見てる。

今日は午前中家の掃除と買い物をして、昼からはまだ読めていない本を読む。

一人いつも通りのんびりな日常。軽く昼を食べてソファーに座り本を読んでいるとスマホが鳴る。

恐る恐るみると義弟だ。


「稜君。久しぶり。お義父さんやお義母さんは変わりない?」

『皆んな元気だよ。咲さんはどぉ?』

「凛がこの春から大学に進学し入寮したから今は一人暮。気ままに過ごしてるわ」

『周りで変わった事ない?』


何故か一瞬ジークさんの顔が浮かんだ。


「平々凡々と暮らしてるよ」

『いい寄る男とか現れたら知らせてね。助けるから!兄貴は亡くなったけど咲さんはずっと義姉さんだから頼ってね』

「ありがとう。困った時はよろしく」


この後世間話を少しして電話を切った。義父母は半年に一度くらいで連絡がある。さっき連絡くれたのは賢斗(亡くなった夫)の2つ下の弟が稜君だ。普段全く連絡ないしこっちもしない。しかし何故か分からないがいきなり連絡してくる時がある。それも必ず私に男が出来てないかの確認だ。


賢斗は嫉妬深く少し束縛が強かった。しかしそれは男の知人を嫌う程度で、日常生活においての束縛は無かった。大手商社勤めで経済的にも余裕があり賢斗は専業主婦を望んだ。

しかし私は家で大人しく専業主婦する性分ではなく働きたかった。私は見た目普通で美人でもブスと言わる程でも無くアベレージガールだった。こんな私にアプローチして来る人なんていないと思うけど、女性だけの職場という条件付きで働く事を許可してくれた。今もその職場で働いている。


賢斗は生前

『俺が先に亡くなったら,彼氏はいいけど再婚はしないでくれ』

が口癖だった。その言葉を稜君は知っていて偶に思い出して連絡して来る。まるで探りを入れている感じ。正直、賢斗が亡くなっても束縛は続いている気がする。


何故かジークさんの事は話さなかった。だって怪我が治れば縁は無くなる。変に話して勘ぐられた方が面倒だと判断した。

ぼんやり考えていたらまた着信。今度はジークさん。溜息を吐き電話に出て挨拶と怪我の経過を話していると、インターホンが鳴りモニターを見ると宅配だ。来客だと嘘を吐きジークさんの電話を切った。

『はぁ〜』折角休みなのに休んだ気がしない。

明日になれば日常に戻りいつも通り。

そう願いながら就寝した。


・・・翌日から日常にはならなかった。

月曜休み明け疲れて帰りナイトルーティ中着信が入る。ディスプレーにはジークヴァルトさんの名が…

電話に出る勇気がわかず暫く光る画面を眺めていた。切れる気配はない。ため息を吐き意を決してでる。


「梶井です」

『咲さん。こんばんは。お忙しかったですか?申し訳ない』

「いえ。着信に気付かなくてすみません」

『お加減いかがですか?』

「順調です。あの…昨日も申し上げましたが、治りましたら連絡します。お忙しいでしょう?私から連絡しますから」


遠回しに”連絡するな”と言ってみたが伝わっただろか…この後5分程世間話をして電話を切った。

左手の傷口を見る。表面は塞がった様に見えるけど、力が加わったらまた開きそうだ。自分の左手を見てみると痣が濃くなった気がする。怪我をしたから?


そう…私は生まれつき左手に2本火傷の様な痣がある。てっきり小さい頃に火傷をした跡だと思っていて、中学生の時に親に聞いたら生まれつき有ったと言われた。小児科医には成長過程で薄くなると言われたがそのまま。大人になったらレーザー治療すればいいと言われ皮膚科に行けば、一時的に消しても恐らくまた出て来ると言われた。

何をしても消えない痣。一生のお付き合いの痣だ。


『気にしていたのはこれ?』分からないまま1日を終えた。


結果から言えば毎日”経過確認”電話は入っています。完治したと左手の写真を送っても、かけないでと言っても掛かってくる。

携帯番号を替えようと決心した夜連絡が入る


「はい。梶井です」

『咲さん。こんばんは。明日は土曜ですがお仕事はお休みですか?』

「はい。あの親切にしていただいて言いづらいのですが…」

『明日、この前のホテルまで来れますか?明日で最後です。会って最後のお詫びをしたい』

「本当に最後ですか?」

『はい。本当です』


言った言わないになるから実は今日の通話は録音してある。


「では最後なら伺います。時間は…」


こうして厄介な関係に終止符を打つためにジークさんに会うことにした。

お読みいただきありがとうございます。

次話は不定期です。気長にお待ちいただけたら幸いです。

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