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16.ジークヴァルト 〜 前世6 〜

時渡の儀式で騎士選出後のアルフレッドの回想です。ジークヴァルト目線で話が進みます。

さっきまで不機嫌だった彼女エミリアは美味しそうに食事している。食事する所作はとても綺麗だ。親御さんの躾が良かったのだろう。微笑ましく見ていると顔を赤らめそっぽを向く彼女エミリア。抱きしめたい衝動と闘う自分がいる。食事が終わると彼女エミリアは徐に立ち上がり荷物を持ち扉に歩いて行く。慌てて立ち上がり背後から抱きしめた。

彼女の柔らかい体と香りに鼓動が早くなり興奮する。小さい体で腕の中で抗うのが可愛くてたまらない!


「ジークさん。離して!帰ります」

「・・・」

「強引なのは嫌いです」

「…か?」

「へ?なんて?」

「家まで送らせて下さい」


この後”送る”、”いい!”の押し問答が続き、頑固な彼女は中々諦めてくれないが、送る名誉を勝ち取った。心の中でガッツポーズする。彼女の家は調査済みだが知られたく無いのか、それとも世間体を気にしたのか彼女エミリアは家では無く最寄り駅前の駐輪場を条件にした。構わない送る車内でまだ話していない真実を話せるから。


彼女エミリアをエスコートしホテルの駐車場まで移動する。日本人の彼女エミリアはエスコートに慣れておらず、恥ずかしいそうだ。そんな彼女も可愛くてたまらない。前世の騎士精神を思い出し必死に己の欲望と闘う。駐車場に着き車のドアを開けるとお礼を言う彼女エミリア。小さい仕草一つ一つが可愛く心の中で悶える。

出発し暫く沈黙が続く。彼女エミリアに身構えてほしく無くて落ち着いたトーンで話しだす。


「私が勝手に昔話をします。気が向いたら聞いて下さい」

「…」

「私は騎士選出の為、自室で規定通り待機し監視役の神官と月が真上に上がるのを待っていた。あと少しで月が上がり切る時に神官が入れたお茶を勧められ、警戒心の無かった俺は飲みそして意識を失った。気が付いたのはエミリアが渡の扉をくぐた日から5日経っていました」

「へ?」


エミリアさんは驚いた顔をして、私の顔を見て固まった。どうやら彼女えみはエミリアと同じで嘘がつけないようだ。思わず苦笑して彼女を見つめて話を続けた。


俺が目を覚まして一番に見たのはエリアス殿下と枢機卿だった。意味が分からない俺はエリアス殿下に


「殿下!エミリアは?」

「アルフ落ち着いて聞け…エミリア嬢は渡りの扉をくぐったよ…」

「はぁ?きっ騎士は誰なんだ!」

「クロノス神が選んだ騎士は貴方です」


顔色が悪い枢機卿が意味の分からない事を言う。俺が騎士なら何故エミリアだけ逝ってしまったんだ⁈只々困惑し固まる俺に殿下は


「してやられたよ。ケインが法王を抱き込み騎士と偽りエミリアと…」


気がつくと俺は目の前の枢機卿の喉元を掴んでいた。


「落ち着け!アルフ!枢機卿を放せ!」

「何故!ケインが!」

「っつ‼︎」


殿下と同席していた聖騎士に押さえられ、枢機卿から手を離した。枢機卿は喉を押さえ咳き込み跪いて掠れた声で話し出す。


「これは教会の失態です。前法王は神に奉仕する一方で影で女性を囲い、教会のお金に手を付けていました。情報を掴んだ我々は秘密裏に捜査していたのです」


どうやら前法王は近づく勇退時に着服がバレるのを恐れ金策の為に問題を抱えた貴族に近づいていた。その貴族にイグラス公爵家もあった。公爵はケインと(仮)婚約した隣国の侯爵令嬢リンネ嬢との破談を画策していた。

リンネ嬢の実家の侯爵家は国内の権力争いに敗れイグラス公爵の思惑は外れ、浪費癖のあるリンネ嬢との破談を望んだ。

そしてイグラス公爵は法王と繋がりを深めていた時に、エミリアが時渡の巫女に選ばれた。

イグラス公爵はケインに法王の手を借り、時渡の騎士になれる手段があるとケインに話した。まだエミリアを諦めていなかったケインはすぐにイグラス公爵の話に乗った。イグラス公爵はリンネ嬢との破談と、扱い辛いケインの両方を始末出来ると前法王に話を持ちかけた。


俺の監視役を法王に弱みを握られた神官に変更し、その神官に月が真上に上がる直前に睡眠薬入りのお茶を俺に飲ませて、意識を無くした俺をイグラス公爵領の廃墟に監禁する様に指示した。


俺の左胸に表れた騎士の痣を見たケインは俺を蹴り飛ばしたそうだ。そのせいで俺は肋骨にヒビが入り救出された時は左脇腹が鬱血し腫れたていた。

法王は自らケインに騎士の痣を確認したと証言すると言ったが、ケインは自ら火で炙った鉄の棒で左胸に2本の熱傷を付けた。


「そう言えば…渡の扉に現れたケイン様は額に汗をかき青白い顔をしていました」

「かなり酷い火傷を負っていたのさ。やはりケインは狂気に満ちていたんだ」

「…」


俺を救出してくれたのは先程首を絞めたクロス枢機卿と帯同していた聖騎士。彼は教会トップ2で次期法王と言われ前法王の不正を調査していた。

エミリアが渡の扉前で錯乱した時にクロス枢機卿もその場にいて、前法王の様子が怪しくケインの痣を確認しようとしたらしい。

すると巫女であるエミリアをケインは抱きしめ剰え2度も口付けた。前法王は止めるどころか、祈りを早め扉を開け渡を急かせたのだった。


「2度も口付けたのか…」

“バン!バリ!”

「アルフ!早く医師を呼べ!」


激昂した俺はベッド横に掛けてあった鏡を叩き割り手は血だらけになっていた。

慌てて入ってきたし医師に治療を受けながら絶望する。


「もう俺は生きている意味を失った…」

「アルフ…すまん!エミリア嬢を守れなかった…」


悲壮な声を上げる殿下に答える事は出来なかった。只々虚しさと喪失感に襲われて、痛む筈の傷すら感じない…

程なくして両親とエミリアの父上がやってきた。両親はただ安堵し何も言わなかった。


「アルフレッド…エミリアが最後の別れの時に私にこれを託した。君宛のメッセージだ」

「!」


おじさんの手には小さいメモがあり、見慣れたエミリアの文字が…震える手で受け取ると、エミリアのかわいい文字で


『アルフレッド…もし離れ離れになって他の殿方と時渡しても、他の殿方の妻になっても私の心にアルフレッド以外は入らせない。私の心はアルフだけのものだから…永遠とわの愛をアルフに』


「うっ…わぁ‼︎」


俺は狂った様に泣き叫び、一生分の涙をこの日に流した。




「そんな事が…私は渡の扉をくぐるまであっという間で、まわりを気遣う余裕が無くて何も知らなくて…」

「エミリアに罪は無いよ。こっちに転生し苦労だのだろう⁈」

「へ?なんで?」

「エミリアとケインが時渡をし終えたのに、俺が渡ってきているのを疑問に感じないかぃ⁈」

「まさか!私が犠牲になったのに、マルランは救われなくて次の年も巫女が⁈」

「違うよ。エミリアが渡って暫くしたら、数百年一度しか飛来しない野鳥が遥か遠い北の国から辺境地に飛来し害虫を食べ駆除し麦の収穫が戻ったから心配無いよ」

「良かった…?でも何でアルフレッドは転生したの」

「私は今40歳だ貴女と何歳差になる?」

「6歳?」

「貴女に6歳の時に何か無かったい⁈」

「6歳…父が亡くたったわ」


そう俺はエミリアが時渡してから6年後に時渡の扉を単独でくぐりこの地球に転生した。

彼女えみは先程と違い俺に興味を持ち真っ直ぐな瞳で俺を見る。彼女エミリアを愛しく思いながら前世の話を続けた。




俺は廃人の様になり教会敷地奥にある小屋に住み世捨て人になった。気力も無くただ食べ寝る日々を送り、両親や周りの者も見守るだけで何も言わなかった。

救出から10日程経ったある日。小屋に聖騎士と一緒にクロス枢機卿がやって来た。


「アルフレッド殿体調はいかがですか?」

「遺憾ですがまだ生きています」

「・・・。貴方に報告と提案があります」

「…」


もうどうでも良い俺は返事もせずに、クロス枢機卿が話す言葉を耳にしていた。


「不正を働いた前法王は捕まり審議待ちです。恐らく自害する事になるでしょう。そしてイグラス公爵家は取り潰しの上、公爵は陛下から自害を命じられ、子息と婦人は最低限の私財を持ち国外追放となりました。教会の存続のため前法王もイグラス公爵も対面上は病死となり、イグラス公爵家は陛下に謀反を計画した虚偽の罪にして取り潰しとしました」

「俺には関係ない話しだ」


エミリアが居ない今はどうなろうと何も感じないし興味も無い。早くこの世から去りたいだけだ…


「そして貴方はイグラス公爵の陰謀に巻き込まれて亡くなった事になりました」

「あっははは!丁度いいなぁ!自害する理由が出来たぞ!」

「…」


この時俺は正気を失いつつあった。剣が近くに有れば間違いなく自害していただろう。


「もし…エミリア嬢の元へ行ける方法があったとしたらどうしますか⁈」

「!」


見向きもしなかったクロス枢機卿を見据えた。枢機卿は真剣な面持ちをしていて、嘘や慰めを言っている様には見えなかった。


「そ…んな術があるのか?」

「確実に行けますとは言えません。”行ける可能性がある”と言っておきます」


立ち上がりクロス枢機卿の肩を掴んで

「教えてくれ!何でもする。なんならこの命差し出しても言い!」

「条件があります。まず人らしく生活し体力をつけ、前の様に紳士になって下さい。今の貴方は正気では無い。正常な心身で正しい判断が出来ると私が認めたならお教えしましょう」

「分かった!何でもするさ!エミリアの所に行ける可能性があるなら!ティーク!夕飯からしっかりした食べ物にしてくれ。それと石鹸と小刀を髭を剃り髪を整える!いやその前に湯浴みもするから準備を頼む!」


口元を緩ませクロス枢機卿が


「やっと貴方の瞳に光が戻りましたね。また10日後に様子を見に来ましょう。暫く動いて無いのです。無理せず徐々に戻していって下さい」

「ありがとうございます。後、今までの非礼を陳謝いたします」


クロス枢機卿に跪き深々と謝罪をした。枢機卿は抱きしめてくれ


「時と愛の神クロノスの名の元に貴方を許しましょう。では10日後に…ティーク。他の者達にもアルフレッド殿のお手伝いをする様に伝えなさい」

「畏まりました」


こうして10日後に再度訪問する枢機卿に認めてもらう為にまずは10日ぶりに湯浴みをする所から始めた。


お読みいただきありがとうございます。

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