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15.困惑

前世を思い出し戸惑うえみ。ぐいぐいくるジークヴァルトだが…

ゆっくり意識が浮上してきた。『暖かい…』

まるでアルフの腕の中にいる…よぅ?


目を覚ますと綺麗な若葉色の瞳と目が合う。びっくりして離れようとしたら身動き出来ない!何この状況!


「目が覚めたかい。エミリア?」

「私はえみです」

「えっ⁈記憶は…戻らなかったの⁈」


至近距離のジークさんの表情が曇る。それより状況説明ぷりーず‼︎


「とりあえず離して状況説明して下さい」

「何故!その痣が貴女がエミリアだと告げているのに!」

「とりあえず離して!話はそれからです」


今は独身とはいえまだ気を許していない人に抱きしめられ、ベッドに横たわるとか無理!

それもこんな男前イケメンに!


「・・・」


唖然するジークさんの胸元を両手で押し、緩んだ腕から抜けてベッドから降りた。

ジークさんは体を起こすと、私を見て顔色を無くす。その表情はまるで迷子の幼い子の様だ。私が悪い訳じゃないけど…罪悪感…


「ちゃんと前世の記憶を見ました。しかし、今の私はエミリアでは無く、今日本で生活する”梶井 咲”でエミリアとは別人格です。そこを間違わないでいただきたい」

「なら私の事も」

「はい。前世の(仮)の婚約者アルフレッドの記憶を持つジークヴァルトさんです」


少し安心した様でベッドから降りて私の手を取り隣のリビングに移動しソファーに座った。隣に密着して座ったので立ち上がり向かえのソファーに移動する。密着とかできる関係はジークさんとはまだ無いから無理!私は人との距離感を大切にするタイプだ。ぐいぐい距離を詰められると逃げたくなる。ふと座った位置から窓が見え日が暮れ夜だと気付く。

いつの間にかタチバナさんが居てコーヒーを淹れてくれ、お礼を述べると微笑み退室していった。相変わらず真っ直ぐに私を見つめるジークさん。その眼差しは前世のエミリアを愛したアルフレッドだ。


「”時渡の儀式”の記憶は鮮明ですが?」

「えぇ…」

「ならば巫女を護る騎士がケインだったと…」

「だった様ですね」


“ばん‼︎”いきなりローテーブルを叩き立ち上がったジークさんに驚き仰反る!


「違う!ケインは法王の弱みを握り金を渡し、恰もクロノスの神託が下りた様に偽装し貴女エミリアの騎士になり貴女と渡の扉をくぐり転生したんだ!」

「…と言われても…」


私の反応が意外だったのか力が抜けた様にソファーに崩れ落ちた。気まずい雰囲気にとりあえず糖分チャージしようとコーヒーに砂糖を入れ飲みジークさんの様子を静観する。


「クロノスが選んだ騎士ならば、身近に転生し幼い頃から側に居る筈なのです。貴女とけんとと初めて会ったのはいつですか?」

「えっと…成人してから?」

「それはケインに似非騎士だからです」

「はぁ…」


正直なところ…『他人事』だ。

確かにエミリアは想う人と結ばれず、闇落ちしたストーカーに騙された上、国の為に生贄にされ悲惨な運命を辿った可哀想な女性だ。

でもそれは”エミリア”であってえみの話しでは無い。

私はえみとして生まれ46年自分の人生を歩んできたし、今生きているのは私だ。

ジークさんは何を求めているの?私にエミリアを求めるのは違う。


「ジークさんは私に何を求めているんですか?」

「私は愛する人と残りの人生を共にしたいんだ。彼奴ケインに人生を奪われ…」

「何度も言いますが私はえみでエミリアではない。キツい事を言いますがジークさんとは知り合ったばかりな上、まだ数回しかお会いしていない。知り合いで恋人ですらないのに愛し合うなんて…正直無理です」

「・・・亡くなったけんとを愛しているのですか⁈」

「賢斗が亡くなりまだ数年しか経っていません。人の心はそんなに簡単には…それに前世のケイン生まれ変わりが賢斗だと証明が出来ないのに夫を犯罪者の様に言うのは…」

「なら証拠と証人に会ってもらいましょう」

「へ?証人って法王様も転生してるの⁉︎」


ジークさんがスマホに触り少しすると、タチバナさんが入室して来た。


「どうぞご入室下さい」


タチバナさんが誰かを案内してきた様だ。身構え扉を注視すると…


「なんで⁉︎」

「咲さん久しぶりです」


なんと現れたのは賢斗の弟の稜君だった。稜君の顔色が悪い。只々困惑する私を後目にジークさんは稜君に着席を促し、お茶を出したダチバナさんは退室して行った。


重い空気に堪えきれず…


「稜君。元気そうで良かった。でもなんでここに来たの?」

「兄貴から手紙を預かっていて、咲さんに男が出来たら渡す様に言われていたんだ」

「私!彼氏なんでいないから!」

「へ?そのジークヴァルトさんが兄貴の秘密の事を知っていて、咲さんと近い内に再婚すると言われて…」

「はぁ⁈ジークさん嘘は駄目だよ!」

「全て嘘では無いよ。今日プロポーズしたろ」

「はぁ⁈」


頭を抱えていたら稜君は


「咲さんにお相手が出来た事に異論はないよ。親父もお袋も咲さんが幸せになるならって承諾していた。俺は寧ろ兄貴から逃げてくれと思う。実兄ながら恐ろしい男だよ。優秀で誰にも優しく自慢の兄貴だったのに…」


深いため息を吐いた稜君はカバンから封筒を2通出し、一通目は稜君宛で2通目は私宛だった。沈黙が続き稜君が私に稜宛手紙を渡した。ジークさんが視線で読む様に催促してくる。

『これ読まない方がいいヤツだよ…』

でも今私には読まない選択肢は無いようだ。


手紙を取り出し筆跡を見ると間違い無く賢斗の字だ。交際中も結婚してからも賢斗はよく私に手紙をくれた。賢斗の手紙と確認して読み出す。


『稜へ

お前に迷惑をかけるが頼みがある。この手紙を読んでいるなら、俺はもうこの世にいない筈だ。俺は前世で禁忌を犯した為、次世では寿命が半分になる罪を背負って生まれた。俄に信じ難い話だが、至って俺は真剣だから最後まで読んで欲しい。


俺は前世で前世でのエミリアを愛し異常なまでに執着して、虚偽を働き咲と一緒に転生した。一緒に転生したが離れてしまい今世でもエミリアを諦めきれずに捜し回り、成人したある日咲と出会った。運命を感じ強引に咲に迫り、押しに弱い咲は事実を知らずに俺を受け入れてくれた。

今想うと病的なまで執着して、探偵を雇い咲の周りの人を買収や脅迫し咲を手に入れた。

実兄が病んだ奴で軽蔑したか⁈

恐らく俺は長くて45歳までしか生きれないだろう。そして罪を犯した俺の魂はもう転生出来ず、魂は壊れ二度と咲に会えない。

稜への頼みは難しい事では無い。

わかば銀行の貸金庫に咲宛の手紙が入っている。咲が新たな伴侶と会い愛したなら咲に手紙を渡して欲しい。恐らく咲の前世の恋人が捜し当て迎えに来るはずだ。その時が来たら俺から咲を解放して欲しい。

信じられない話だから、咲に手紙を渡したら忘れてくれ。そして親父とお袋を頼む。

賢斗』


「・・・」

「兄貴の指示で読んですぐ燃やしたが、探偵の依頼書の控や咲さんの身辺報告なども貸金庫に入っていたよ。闇深くて恐怖しかないよ。先日ジークヴァルトさんが会いに来て、兄貴の手紙に書いてあった、咲さんの前世の恋人だとわかった。少ししか話してないが、真剣に咲さんを想っているのが分かったよ。

俺は兄貴の頼みを果たす事と咲さんが幸せになれば、取り立てて言う事は無い」

「稜君…」


稜君は立ち上がりジークさんに向かい頭を下げて


「俺は兄貴の話が本当か分からないが、兄貴が貴方にした仕打ちは許される事ではない。実弟として謝罪を…」

「頭を上げて下さい。貴方は偶々賢斗ケインの弟に生まれただけで無関係なんです。貴方が気に病むことではありません。反対に私の話を信じ協力下さった事に感謝致します。貴方の義姉は幸せにします」

「・・・」


なんか当事者抜きに話が進んでいる。私を置いて行かないでよ!もぉ!


稜君はスッキリした顔をして部屋を後にした。こっそり稜君について帰ろうとしたが、ジークさんに捕まりソファーに座らされた。

するとまたいつの間にかタチバナさんがいて、部屋の扉を開けるとホテルの従業員がワゴンで食事を運んで来た。

部屋に美味しそうな香りが充満し一気にお腹空いてくる。部屋の時計を見ると20時だ。

ジークさん促され食事をいただきながら話をする事になった。


「食事が終わったら賢斗さんの手紙を読んで下さい。きっと真実が書いてある筈です」

「読むタイミングは私が決めます。ジークさんが決める事ではない」


眉間に皺を寄せるジークさん。今肝心なところだ!押されていてはいけない!

自分を鼓舞してカバンから預かっていたUSBメモリーをテーブルに置いて


「本来これを渡し最後だと約束して会いに来ました。だから私は帰ります。手紙は家で読み、今後の事は自分で決めます。そこにジークさんが入るのは違う」

「…とりあえず食事を召し上がって下さい。貴女の為に用意したのです。食事が無駄になる」

「っつ!」


私は幼い頃に父を亡くしている。母が経済力が無く働き始め生活が安定するまでの間、一時期祖母に預けられた。祖母は田舎の人で”物や食べ物を粗末にするな!”が口癖で、食べ物を残すのに罪悪感を持つ様になった。だから目の前の食事が無駄になると言われ断れなくなり、仕方なく食事をしたら帰るに変更した。


安堵の表情のジークさんは甲斐甲斐しく私の食事の世話をする。そんなジークさんと前世の記憶のアルフレッドは重なった。

『前世の記憶ってファンタジーな事ってあるんだ』

と感心しながら食事をいただく。

悔しいが流石5星ホテルのルームサービス!

どの食事も美味しくお腹も心も満たされ、帰ろうと立ち上がると…

お読みいただきありがとうございます。

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