14.時渡の儀式 〜 前世 5 〜
時渡の儀式が始まります。
ジークヴァルト side
やっと一時帰宅しエミリアが出迎えてくれる。少し会わない間にエミリアは少女から女性になり抱きしめると男の欲望が顔を出す。
『俺は紳士だ!騎士だ!婚姻まではエミリアの純白を守らねば!』
俺の邪な想いを知らないエミリアは満面の笑みを向けてくれる。
明日の夕刻の儀式までエミリアの屋敷で逢瀬を重ね至福のひと時を過ごす。
「エミリア…心配しないでくれ!もしエミリアが巫女に選ばれても騎士は絶対俺だ。俺以上にエミリアを愛する者はいないから」
エミリアは眉尻を下げ不安そうだが、俺の頬に口付け抱きついて来た。男の自分に負けそうになるが、学んだ騎士道を思い出し耐えた。
こうして1日を過ごし両親達とエミリアとクロノスの泉に赴く。
儀式会場には満15歳の男女が集まり儀式が始まるのを待っている。
儀式は身分の低い者、そう平民から行われる。平民の女性から枢機卿に名を呼ばれ、法王の祈りを受け泉に左手を浸す。左手甲に2本の痣が浮き出れば巫女となる。
侯爵家のエミリアは最後の方だ。子爵令嬢まで来たがまだ巫女は出ない。
皆大々的に言わないが今年は巫女が選ばれると思っている。辺境地の麦の不作は悪化の一途で、王都に入ること麦も減り備蓄に手を付ける勢いだ。
「エミリア?」
「だっ大丈夫よ」
繋ぐエミリアの手は冷たく小刻み震えている。目の前ではエミリアの親友レジーナ嬢が泉に手を浸している。ふとエリアス殿下が目に入る。青い顔をしてレジーナ嬢を見詰めている。殿下からはレジーナ嬢に心を受け取ってもらえたと手紙があった。愛する人が心配な気持ちは痛いほど分かる。
しかしレジーナ嬢は選ばれなかった。涙目のレジーナ嬢を殿下が駆け寄り抱きしめている。あのお二人はこの後婚約するだろう。
そんな事を考えていたらエミリアが呼ばれた。エミリアを抱きしめ頬に口付け送り出す。
エミリアは祈りを受け泉に手を…
「神クロノスは巫女をお決めになった!皆!巫女の証だ!エミリア・リーバス嬢に祝福を!」
「エミリア!」
「アルフ!」
法王がエミリアの左手を取り高々に上げ、その手の甲には確かに2本の痣が!
おば様はその場で卒倒しおじ様が支えながらエミリアの名を叫ぶ。
エミリアに駆け寄ろうとしたら、エミリアは神官たちに囲まれた神殿に連れて行かれた。
立ち尽くす俺に父上が肩を抱く。
法王は声高らかに
「巫女が選ばれ今晩月が真上に上がる時、クロノスは騎士を選ばれる。聖騎士もしくは神官が満15歳の男に付添い、騎士の選出に立ち会う。該当の男は自室もしくは指定の部屋に今から待機し、クロノスの啓示を待つように!」
呆然とする俺の前に神官が来て俺を馬車に乗せ自室に戻った。
騎士の選出が終わるまで部屋からも出れず、人との接触も出来ない。重い空気が部屋を満たして息苦しい。俺に監視役の神官は若く、肌寒い夜なのに何故か額に大粒の汗をかいている。きっと時渡の儀式が初めてで緊張しているのだろう。部屋の窓から月を眺める。もうすぐ月が真上に昇る。
『っつ!』さっきから左胸がむず痒い。なかなか登らない月を睨んでいたら、神官が
「巫女が選ばれ落ち着かれないでしょう。神殿は騎士候補に落ち着いて頂く為に、お茶を用意いたしました。おかけになり召し上がり下さい」
「そんな作法があるんだ…ありがとう頂くよ」
ソファーに座りお茶を二口ほど飲みカップをテーブルに置く。再度窓辺に行こうとしたら、目の前が歪み耳鳴りが酷く感覚がおかし…く…な…
俺はここで意識を手放した。
エミリア side
平穏に学園生活を送りとうとう時渡の儀式まで後2日となった。学園で毎日儀式の話題で持ちきりだ。
以前研究テーマにした”農作物と害虫”が深刻な状況になっているらしく、王都でも話題にらなっている。私達の同級生はみな明後日の儀式に参加する。皆んな口には出さないが今年は巫女が選ばれると確信している。
レジーナは殿下から心をいただき幸せの絶頂なのに、巫女の選出が現実味を帯び情緒不安定でよく涙目になっている。
私も不安でたまらない。アルフの手紙に私が巫女に選ばれたら、騎士はアルフだから心配無いと書いてくれ、その言葉を支えに日々過ごしている。
そして儀式参加の為に今日アルフは一時帰宅する。お迎えすると前にも増して体は大きくなり、精悍な男の顔をしたアルフに戸惑う。
見つめられるとお臍の奥がむずむずし、感じた事の無い感覚にどうしていいか分からなくなる。でもアルフの笑顔は昔と変わらずに安心する。こうして明日の儀式までアルフはうちの屋敷で過ごし2人の時間を過ごす。
翌日儀式の為にアルフと両親達とクロノスの泉に赴く。泉には既に儀式を受ける者たちがら集まり、皆んな不安そうな顔をして始まりを待っていた。
震える私をアルフは抱きしめてくれ、アルフの腕の中は幸福と安心しかなかった。
程なく儀式が始まり平民の女性から泉に手を付けていく。左手甲に2本の痣が浮き出た者が巫女となるそうだ。私は侯爵家だから最後の方で、先にレジーナが儀式を受ける。
自分も嫌だけど友人も選ばれたく無い。アルフの胸元を握り締めてレジーナを見守ると…
選ばれずに安堵し泣き出すレジーナをエリアス殿下が駆け寄り抱きしめている。
安心する一方でまだ選ばれない巫女がもしかして…不安で震えてきた。
名を呼ばれるとアルフが抱きしめ頬に口付け送り出してくれた。法王様から祈りを受けそっと泉に左手を浸すと…
『っつ!熱い!』
泉に浸した手が熱くむず痒い!手を見ると2本の痣が!驚く間も無く法王様に手を取られ、巫女が決まったと宣言された。
待機していた母様は倒れ父様が抱き留め私の名を叫び、アルフは走って来る。
アルフの元に行こうとしたら、神官達に囲まれて力尽くで神殿に連行された。
悲壮なアルフの顔が頭から離れない!
神殿に入るとクロノス神の像の前に連れて行かれ、巫女が決まったと宣言をうける。
「お願いします。婚約者に一目会わせて下さい!」
「出来ません。巫女は乙女でないといけない。もし時渡の前に問題が起き、乙女で無くなった場合は儀式が失敗に終わりマルラン王国は救われない」
この後何度も頼んだが聞き入れてもらえず、聖水で体を清められ、巫女の衣に着替えさせられ、神官と聖騎士監視の元に巫女の間に軟禁される。
今晩騎士が選出され明日の渡の儀式で騎士と会う事になると神官が説明してくれた。
「両親に挨拶もできないのですか⁈」
「いえそれは明日渡の儀式前に少し時間をお取りします。但しご両親のみで御兄弟であっても許されません」
絶望し言葉も出ない。信じているけど、もし騎士がアルフで無かったら、会えずに異世界に渡る(死ぬ)の⁉︎涙がとめど無く出てくる。
私はアルフの名を呟き続けた。そんな私を不憫に思ったのか聖騎士様が小さいメモとペンをくれ、親との別れ時に親にメモを託すといいと言ってくれた。
本当は駄目だが神官は見ないふりをしてくれた。騎士はアルフだと疑っていないが、念の為にアルフに想いをメモに書き、胸元に隠して夜が明けるのを待った。
いつの間にか眠っていた様で、神官に起こされ最後の食事をいただくが、ほとんど食べれなかった。
神殿の裏から聖騎士に護衛されながら、時渡の扉まで移動する。
扉前に父様と母様いる。2人共顔色が悪く一気に老け込んだ両親を見たら、また涙が出てきた。2人の前に来ると苦しいくらいに抱きしめられる。
「エミリア!私達のかわいい娘。王国の為に時渡をするのは自慢だが、正直大切な娘を失いたく無い!」
「父様!母様!2人の子供で幸せでした。お体大切にし、私の分まで長生きして下さい!」
「エミリア!何故私の可愛い娘が!!」
泣き崩れる母様を抱きしめる。メモを思い出しメモを父様の胸ポケットに入れた。驚いた父様に目配せしメモを父様に託した。
頷く父様に微笑む。
こうして両親とお別れをし両親は聖騎士に誘導され去っていった。
後は騎士が来て渡の扉を開けるだけだ。
少ししたら枢機卿が騎士着いたと知らせる。
アルフである様に願いながら振り向くと…
「なんで…」
「エミリア嬢。貴女の騎士に選ばれ僥倖だ!」
「何故!アルフじゃ無いの!何かの間違いだわ!法王様!再度確認下さい!」
すると法王様は間違いないと言い切る。
そう白い騎士服を纏い額に汗を滲ませ青白い顔をしたケイン様が法王様の横に居る。
「エミリア!この世界で貴女を一番深く愛していたのは私なんだよ!騎士に選ばれたのが証拠だ!アルフレッドよりね!
貴女には酷な話だがアルフレッドは騎士選出後に行方知れずだ。恐らく騎士に選ばれずに恥じたのだろう。安心して私が異世界に転生しても貴女だけ愛して離さないから…」
躙り寄るケイン様に言いようの無い恐怖を感じ、後退りすると手を握られ抱きしめられた。身を捩るが更に強く抱きしめられ、更に口付けられた!
恐怖と嫌悪で震えが止まらない。
「嫌!アルフ!助けてアルフ!」
必死にアフルの名を叫ぶと更に深くケイン様に口付けられ気が触れそうになる。
咳払いした法王様が早口で祈りを唱え、ケイン様に抱き上げられ、私の意志無視で扉に近づく。
無言で法王様が扉を開けるとケイン様が扉の中へ
「エミリア…この時を待っていた。もう貴女は次の世でも俺のものだ。ずっと離さないよ!」
「!」
扉が閉まり暗い空間に落ちていき、私はこと切れ転生する…らし…い
お読みいただきありがとうございます。
続きが気になりましたら、ブックマーク&評価をよろしくお願いします。
なんとか前世の話を書き終え、次話から現世に話が移ります。
この話はENDまで出来ていて早く書いてしまいたく、急ピッチで書きます。
他に書きたい話があり心はやってます。
相変わらず誤字脱字が多く、読み辛くてすみません。




