13.ジークヴァルト 〜 前世 4 〜
訓練所に入所したアルフの生活は…
「アルフレッド・マデラインだ。2年間よろしくな!」
「イーサン・バルデンだ。こちらこそ頼む」
訓練所に入所初日同室になるイーサンに挨拶しまずは荷解きをする。
今年の入所者は20名。寮は2人一部屋で退所するまで変わらない。イーサンは伯爵家の三男で退所後は聖騎士に入隊したいそうだ。
聖騎士とは教会に属する騎士団で法王や枢機卿の護衛の任に着く。敬虔な信者が希望する者が多く、イーサンは叔父が聖騎士で叔父に憧れ聖騎士を目指しているそうだ。
ある程度荷物を整理でたら夕食の時間になり食堂にイーサンと向かう。
食堂では新人歓迎も兼ねて豪華な料理が並ぶ。食事を始めると一際体が大きい教官が来て
「入所した未来の騎士達よ!よく来た。君達はマルラン王国を護る為、ここで騎士道と騎士に必要な体技や知識を学ぶ。正直キツいぞ!しかしそれに耐えれなければ騎士にはなれん。今日は豪華な食事を堪能し、明日からの地獄に備えておけ。恐らく明日から5日程は疲労と体の痛みで、まともに食えないだろうからしっかり今食っておけ」
「・・・」
それまで楽しげに食べていた訓練生は黙り込んだ。俺は当然だと思いあまり動揺しなかった。殿下を護るのに並の体力や精神では無理だ。それに愛する人も護れない。
急に大人しくなる他の訓練生を横目に、俺はしっかり食事をする。
すると何人か俺と同じ者が居て、席を移動し話してみる。やはり話をすると各々目標がある様だ。同室のイーサンも強い意志の元入所している。同じ志の者がいるのは心強い。
初日から数名と交流をもていいスタートを切れた。
早めに食事終わらせて部屋に戻り、エミリアに手紙を書く。訓練所に向かう馬車の中で自分で決まりを作る。
まず一つは訓練1日も休まない。少しでも早く騎士になる為だ。
二つ目はどんなに訓練が辛くても毎日1枚エミリアに手紙を書く。これは俺の心の支えにもなる筈だ。
『毎日送ると迷惑か⁈…毎日書くが送るのは10日毎にしよう』
三つ目は首席を目指す。殿下の騎士になり、ケインと張り合いにはそれくらいしなければ、エミリアを護れる地位は得れない。昨日会ったばかりなのにもうエミリアが恋しい。脳裏にエミリアの笑顔が浮かび、あの柔らかい唇の感触を思い出して体が反応する。体の火照りを治めようと一心不乱に手紙を書いていたら、イーサンが声をかけて来た。
「アルフレッドはいい人でもいるのかぃ?」
「あぁ…(仮)の婚約者がいて儀式が終わったら正式に婚約するんだ」
「いいなぁ…俺の家は儀式が終わる迄は婚約は駄目だと言って認めてくれないんだ。愛する人がいて、”時渡”の儀式が終われば求婚するんだ!」
どうやらイーサンにもいい人がいる様で、この日は遅くまで想う人の話で盛り上がった。
翌日から教官の言った通り過酷だった。俺は訓練所に入る事を早くに決め、鍛えていたから筋肉痛程度で済んでいる。
しかし他の訓練生は動けない者もいた。教官の曰く初めの1ヶ月は体力と体を作る為に、只管筋トレと走り込みが中心となる。
ヘトヘトになり自室に戻るとベッドにダイブし1秒でも早く寝たい!しかしどんなに疲れていてもエミリアに手紙を書く。今日は指腕立てをし指に力が入らない。字が乱れるとエミリアに心配をかけてしまうから、何度も書き直した。
「アルフは凄いなぁ。いつかその溺愛する婚約者に会わせてくれよ」
「あぁ…いいとも。但しかわいいから惚れるなよ」
「俺にもかわいい人がいるんだ!浮気な事はしないさ!」
イーサンは笑い湯浴みをしに部屋を出て行った。1人になり先程受け取ったエミリアの手紙を読む。開封するとエミリアの香水の匂いに心も体も歓喜に震える。手紙を取り読むと俺の体を心配をし、早く会いたいと書いてある。
「俺もだよ…エミリア…」
エミリアの柔らかい唇を思い出しながら、エミリアの手紙に口付ける。そして続きを読む。やはりケインと同じクラスになり、研究課題のグループが同じになったと…
嫌な予感がしたが手紙にはケインから謝罪を受け、他の男子生徒と同じ様に接し普通に学園生活を送れていると書かれている。
俄に信じがたいが殿下やマルクスからの手紙にも同じ様な報告を受けている。
『新たに縁組した婚約者はそんなに魅力的なのか⁈』
疑問ではあるがそのままその婚約者と結ばれてくれと祈った。
入所から1ヶ月経ちやっと木刀を扱える様になり、体力作りだけの訓練から騎士らしい訓練に変わる。訓練にも生活にも慣れて来た頃に嫌な噂をシリルから聞く。シリルの家は代々辺境伯の騎士を務める家で、幼い頃から騎士になることが決まっていたそうだ。
「家からの手紙に不吉な事が書いてあったんだ」
「何かあったのか?」
「実は…」
辺境地は麦の生産量が王国一で”マルランの穀物庫”と言われている。その麦が不作になり問題になっているそうだ。
「不作の原因は隣国から来る害虫が原因らしい」
隣国で大量発生したタズという穀物の葉を餌にする虫が、隣国では餌が足りずマルランまで渡って来て辺境地の麦に群がっているそうだ。伯爵家の騎士団が駆除にあたってるいるが、繁殖力も強くなかなか駆除出来ない。
話を聞いていたイーサンが
「国が揺らぐ問題が起こったら、来年の儀式で数百年ぶりに巫女が選ばれるじゃ無いのか?嫌だぞ!俺は儀式後に彼女に求婚するのに!」
「まだ分からないだろ!」
するとシリルが
「父上の手紙では王都に駆除の人員を要請する動きがあると書かれていた。そうなると俺らが駆り出される」
「何故だ⁉︎」
「王都や王宮の騎士を出すと守りが手薄になる。それに駆除は騎士でなくてもよく、力と体力が有ればいいんだ」
「「「「・・・」」」」
その場にいた者は黙り込んだ。すると焦ったシリルが
「3日後の一時帰宅時に様子を見てくるよ」
「帰ったら教えてくれ…」
不安要素はあるが俺は一時帰宅に心が早る。
数ヶ月ぶりにエミリアに会える。先日訓練所に来た行商からエミリアに似合いそうな髪飾りを買った。彼女の綺麗な亜麻色髪に映える筈だ。エミリアを想いながら指折り日を数え過ごした。
やっと一時帰宅の当日。今王都に向かう馬車の中だ。入所から俺は体が一回り大きくなり背も伸びた。エミリアはどんな美しいレディになっただろう⁈もう興奮が治らない!
エミリアと再会を妄想していたら王都に広場に着いた。馬車を降りると出迎えの人が沢山いる。その中からエミリアを必死に探す。
「エミリア!」
やっと見つけ人混みをかき分け近づくと誰かといる。
「っつ!」
あれはケインだ!何故奴と一緒にいるんだ!
怒りが込み上げた瞬間!ケインがエミリアを抱きしめた!我慢ならず叫ぶ
「エミリア!」
エミリアは驚いた顔してケインから離れ俺の腕に飛び込んできた。おかしい…怒り狂いそうだったのに、エミリアをこの腕に抱きしめ芳しいエミリアの香りをかいだ瞬間…怒りは消えていった。
エミリアは転倒しかけたところをケインが助けてくれたのだと説明する。本当は殴ってやりたいと思ったが、眉尻を下げ悄気るエミリアを見て冷静なり、一息おきケインに婚約者を助けてもらった礼を述べる。すると意外にも礼儀正しく応対し奴は去って行った。
思う所はあるが今は腕の中エミリアに夢中で、奴の事はどうでも良くなった。
この後帰るギリギリまでエミリアと過ごし、訓練を耐えるためにエミリアをフル充電し訓練所に戻った。
また訓練の日々が始まり剣術訓練が始まり打撲痕が絶えない。こんな状態を見たらエミリアは泣きそうになるなぁ…またエミリアを想い会いたくなる。すっかりエミリア中毒な自分に苦笑する。
休暇から戻ったシリルから聞いた話だが、辺境地の状況は芳しく無いらしい。恐らく近い内に俺ら訓練生は派遣されそうだ。訓練生はみな休暇中に辺境地の状況を聞いた様で、派遣される事より来年の”時渡”の儀式を心配している。
皆年頃で慕う女性がおり儀式後に求婚予定にしている。時渡の巫女と騎士は身分関係なく選ばれる為選ばれる可能性がある。
するとイーサンがこんな話をし出した。
「アルフ知っているか?」
「何がだ?」
「時渡の騎士は巫女を一番愛している男が選ばれるそうだ。死にたく無いし親兄弟と別れるのは嫌だが、愛する女性と異世界で結ばれるなら悪くは無い」
イーサンはそう言うと慕う女性を思い出している様だ。俺も怖くない!エミリアとなら何処でも構わないし、何処に行ってもエミリアを護るの自信がある。
今は只々早く一人前になりエミリアを迎えに行く事だけを考え日々訓練に身を置く。
次の一時帰宅は時渡の儀式の時期だ。
儀式が終われば正式にエミリアの婚約者になれる。今日も手紙にエミリアへの愛を綴り1日を終えた。
お読みいただきありがとうございます。
続きが気になりましたら、ブックマーク登録&評価をよろしくお願いします。
次話で前世の話は終わり、現世の話に戻ります。前世の記憶が戻った咲がジークヴァルトとどう向き合うのかお楽しみに!




