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12. 咲 〜 前世 4 〜

アカデミー入学準備を進めるエミリア。ケインと同じで不安だったが…

「その話は本当なの?」

「えぇ!令嬢達の間で話題なっているし、ケイン様の従姉妹のアグネス様から聞いた話だから間違いないわ!」


マルクス様の婚約者のケイミー様が興奮気味に話をしている。


『ケイン様に婚約者⁈本当なら嬉しいけど…』


俄に信じられないが…もうすぐアカデミーに入学するから本当であって欲しい。何故なら高確率でケイン様と同じクラスになるからだ。一抹の不安を抱え入学準備を進めていく。


今は暫く離れるアルフと時間が有れば会っている。訓練所に入所すると年に数回しか会えない。だから次に会えるのは数ヶ月後だ。

寂しい…でも私の為に兄様の騎士を諦めエリアス殿下の騎士になるアルフ。

申し訳無い気持ちと愛を感じ多幸感に満ちている。


アルフが入所する前日に護衛を付けて2人だけで王都端の森に出かけた。母様に教わりながらマドレーヌを焼き持って行く。

2人きりの馬車の中で隣に座り手を繋ぐ。

アルフの手はすっかり剣士の手でごつごつし大きく温かくて握られると安心する。

見上げると目が合い微笑んでくれる。

このまま時が止まればいいのに…


森に着き散策しながら沢山話をする。アルフは男性には珍しくお喋りだ。でも私が話し下手だから丁度いい。

アルフが護衛に合図をすると、騎士は少し離れていった。疑問に思っていると…

アルフはポケットから髪飾りを取り出して髪に飾ってくれる。綺麗な淡いピンクの花の髪飾りで可愛らしいデザインだ。

お礼を言うとアルフは跪き私の手を取る。


「本当なら”時渡”の儀式が終わってからするべきだが、生まれた時から俺の心はエミリアにしか向かない。だから離れる前に気持ちを伝えたいんだ。儀式が終わったら俺の妻になって欲しい」


真剣なアルフを見て嬉しくて涙が出た。頷くとアルフは立ち上がり優しく私の頬を両手包み…触れるだけの優しい口付けをくれた。鼓動が激しくなり頭がくらくらする。強く抱きしめたアルフは再度口付ける。

こうしてアルフと将来を誓い、お互い別の道を歩き出した。



年が新しくなり私は王都にあるアカデミーに入学した。今年の新入生は全員で40名で2クラスに別れる。クラス分けは王族、公爵、侯爵、伯爵までが1-A。子爵、男爵、準男爵が1-Bの編成になっている。

そうなると嫌がおうにもケイン様と同じクラスになる。でもエリアス殿下、マルクス様、ケイミー様、レジーナが同じクラスになり心強い。

それに噂にケイン様の(仮)婚約者の隣国の侯爵令嬢リンネ様も同じクラスだ。

リンネ様は長身で大人っぽい雰囲気の美人で、美丈夫のケイン様とお似合い。二人並ぶと経典の挿絵のクロノス神と妻アリーシャの様だ。リンネ様はずっとケイン様と行動を共にし、ケイン様もアリーシャ様を溺愛しているように見える。

あれだけアルフが警戒していたのが拍子抜けだ。でもケイン様もいいお方を迎えられ幸せになるのはいい事だ。

殿下エリアスは入学するとレジーナとの距離を詰めていく。レジーナも満更でもない様だ。人様の恋愛は楽しいしドキドキを味わえる。私はアルフとの遠距離恋愛は順調で、アルフは10日に一度手紙をくれる。訓練で疲れている中、毎日便箋1枚を書いて10日に一度送ってくれる。同じく私も10日一度返事を書く。手紙はこそばゆい位愛を囁いてくれ、いつも部屋で1人悶えながら読んでいる。アルフの同じなのかなぁ?


ある日授業で研究発表をする事になり、グループ分けをし仲のいい方と離れてケイン様と一緒になってしまった。リンネ様も他のグループだ。5グループに分かれ男女2名で1グループで分かれ挨拶をする。


「エミリア嬢。私は浅はかで貴女に不快な想いをさせてしまった。今は新たに婚約者が決まり貴女に迷惑をかける事は無い。思う所があるとは思うが、学園では忘れてお互いいい学生生活を送ろうではないか⁈協力していい研究発表をしよう」

「はい。よろしくお願いします」


ケイン様は以前の様なねちっこい視線ではなく、爽やかな微笑みを向けてくれる。安心して研究に励めそうだ。

研究発表は1か月後で研究テーマを決めパネル作成とレポート作成色々やる事がある。外のグループメンバーはライズ様とサラサ様だ。お2人は伯爵家のお方で控え目で真面目なので気が合い安心する。

テーマは農作物と害虫だ。ここ数年辺境地の大麦の不作が続いているとライズ様が教えてくれ、これの原因を突き止め対策を提案する事になった。

するとサラサ様が不吉な事を言い出した。


「もしこの不作が拡大し解決しなければ私たちが受ける来年の“時渡”の儀式で巫女と騎士が選ばれるのでは⁈と私怖くて…」

「陛下や宰相様が対処して下さるわ。来年儀式なのね…確かに不安ですね」


すると話を聞いていたライズ様が

「知っているかぃ⁈巫女の騎士は巫女を深く愛している者が選ばれるそうだ。何故なら異世界に行き巫女を愛し護る為だと言われているんだ。自分は選ばれたく無いが、愛する女性と転生先で結ばれるなんてロマンティックと思わないかぃ⁈」


初めて聞いた話だった。もし私が選ばれたら騎士は絶対アルフだ。身内と親しい人と別れれるのは嫌だけど、アルフとならどこに行っても怖く無い。そんな事を考えていたらふと目の前のケイン様が視界に入る。


「!!」


一瞬凄い視線を送られたような気がした。しかし今は穏やかに微笑みライズ様とサラサ様の話を聞いている。


『きっ気のせい⁈』


この後は何事もなくグループ研究は進み無事発表しA評価を貰う事が出来た。

こうして穏やかな学生生活が過ぎ、数ヶ月が経ちアルフが休暇で帰ってくることになった。毎日楽しみで指折り日を数える。


アルフが帰って来る日に王都の広場にお迎えに向かう。訓練生を乗せた馬車が広場に着くのだ。広場には迎えの家族が待っている。今日は早く起きて湯浴みをしていつも以上に身支度に時間をかけた。少しでもアルフに可愛いと思って欲しくて…


「おぃ!来たぞ」


声のする方を見たら大きな馬車が3台広場に入って来た。少しでも早く会いたくて馬車に近づく。すると興奮したお迎えの母親だろうが女性に押されてバランスを崩した。


『嫌!折角綺麗にして来たのに倒れる!!』

「危ない!」

『あれ?痛くない』


どうやら誰かが抱き留めてくれたようだ。お礼を言おうと見上げると


「けっケイン様!!」

「エミリア嬢。危なかった。怪我はありませんか?」

「はい。大丈夫です。ありがとうございました。でも何故ここに?」

「従兄弟が訓練所に入所していまして、出迎える叔母に同行したのです」


視界に馬車から訓練生が下車し始めたのが見える。早くアルフを迎えに行かないと!


「ありがとうございました。私急ぎますので…離して…へ⁈」

一瞬抱きしめられた?

「エミリア!!」


この声はアルフだ。ケイン様の腕から離れて声のする方を向くと眉間の皺を深めたアルフが仁王立ちしている。直ぐにアルフに駆け寄ると強く抱きしめられた。


「アルフ違うの!押されて転倒しそうになった所を、偶々近くにいたケイン様が助けて下さったの」

「・・・お久しぶりでございます。婚約者を助けて頂きありがとうございます」

「いえ…女性をお助けするのは当然の事ですので…私はこの辺で」


ケイン様は人ごみに消えていった。

「怒ってる?」

アルフは少し合わない内に背が伸びて見上げないと視線が合わない。抱きしめる腕も胸元も逞しく恥ずかしくなってきた。


「エミリア?」

「アルフが急に大人になったみたいで…恥ずかしいの…」


柔らかく微笑み頬に口付けたアルフは腕を解き少し離れて…

「エミリアこそ美しくなって…早く正式に婚約し俺だけエミリアになって欲しい」


頬が熱くなっていくのを感じていたらおじ様とおば様が来て

「アルフ!婚約者に早く会いたいのは分かるが、親を忘れるな!」

「あ…父上、母上帰りました」

「まぁまぁ…無事帰って来たのだし屋敷の帰りましょう。貴方の好きなものを沢山用意させたわ。エミリアも一緒に行きましょう」


こうして一時帰宅したアルフと数日過ごす事となった。3日しか居れないアルフ。夢の様な日々を過ごす。数ヶ月しか離れていないのに青年から男になったアルフ。元々訓練所の入る為に鍛えていたけど、更に逞しくなり横に並んで歩くと別人みたいで戸惑う。


「美しくなったエミリアに会ったら帰りたく無くなったよ。エミリアも同じ気持ちだと嬉しいなぁ…」

「同じに決まっているわ!逞しくなったアレフは格好良くて…知らない人になったみたいで少し寂しいの。貴方の隣に立てる女性になりたい」

「エミリア!」


抱きしめられ口付けられる。愛を感じ胸がいっぱいになる。こうしてアルフの休暇の間愛を深め合いアルフは訓練所に戻り、私は学園生活に戻り日々追われる。


気にも留めていなかった研究テーマの”農作物と害虫”が深刻な状況になっていて、私達の未来を変えるとはこの時はまだ知らずにいた。

お読みいただきありがとうございます。

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