1.出会い
没1で娘も手元を離れ気ままなシングルライフを送る
梶井 咲46歳
ある出来事から波乱に満ちていく…
何故こんな事になっているの?意味が分からない。
目の前に跪きでっかい宝石のリングを差し出し熱を帯びた視線を送ってくる男性。ちなみにこの男性に会うのは3回目で名前しか知らない。
土曜正午。5星ホテルのエントランス。人がわんさかいるこの場に公開処刑…もといプロポーズする中年男女。目立たない訳ない!遠巻きに見ている人が楽しそうにコソコソ話したり、スマホでムービーを撮る人もいる。
どうやったらこの場を治められるのかフル回転で考える。目立たたず無難に生きてきた私にはこの状況はキャパオーバーだ。
何とかこの場を逃げたくて少し前屈みになり小声で男性に
「あのとりあえず立っていただいて、この場を離れませんか?」
「答えが欲しいのですが…」
「この場では絶対しませんよ!」
「分かりました。この場を治めるので私の手を取って下さい」
「ん?」
疑問に思いながらも男性の手を取った。男性は立ち上がりわざと大きな声で
「ありがとう!幸せにします!」
「はぁ?」
“わぁああ!”周りから拍手と歓声が上がる。何このプロポーズ大成功な感じ ”違う!” と叫びたい!
男性は観衆に向けに右手を左胸に当ててお辞儀をして更なる拍手を浴びている。
男性は私の手を取り歩き出し、エスカレーターで2階に上がりフレンチレストランの個室に私を連れて行った。
個室に入ると椅子を引いて座らせてくれ、向かいの席に座る。
目の前の男前はジークヴァルトさん。この人と知り合ったのは2週間前だ。
あの日はボーナスが出てリッチに親友の愛華とここビルトールホテルのランチブッフェに来ていた。お手洗いを出てレストランに向かっていたら通路の角で出会い頭に彼とぶつかった。
「痛っ!」見事に尻餅を着いた。
「失礼!レディ大丈夫ですか?」
ぶつかった相手の手を取り立ち上がると目の前にモデルのような超絶イケメンが!
銀髪の長髪を後ろで束ね綺麗な若葉色の瞳に品のいい薄い唇の綺麗なお顔。背が高っ!私が155㎝だから恐らく180㎝は超えている。
流暢な日本語だけど何処の国の人だろう⁈
「あっ!咲!あんた手から血が!」
「なに?」
左手を見たら手の甲から血が…何処で切ったの?
ふと目の前イケメンを見たら袖口に血が付いている。思わず男性の手を取り袖口を見たら立派なダイヤのカフスに血が着いている。
ぶつかった時に彼のカフスで切った様だ。結構出血している。慌ててカバンからティシュを出そうとしたら、彼は胸元のポケットチーフを取り私の傷口に当てた。
確認するかの様に一度ポケットチーフを外し私の左手を見て固まっている。そんなに傷が酷いのかなあ…
それより!彼のカフスはどう見てもダイヤモンド!
私の血がついた上に立派なスーツも汚した。弁償を考えたら血の気が引いていく私。
「すみません!クリーニング代は請求して下さい!」
まだ唖然と私を見ている男性。彼の後ろから白髪の男性が来て
「ジークヴァルト様。ホテルに手配しましたので、直ぐに御婦人を医務室へ」
「分かった」
彼はポケットチーフを傷口に巻いて縛り、少し屈んだかと思ったらいきなり私を抱き上げた。
「「へ?」」
有無も言わせずホテルの従業員について歩き出す男性。親友の愛華も困惑しながらもついてくる。
「あの!怪我は手だけで自分で歩けますから下ろして…」
「失礼だが私が抱え歩いた方が早いので、暫く我慢下さい」
「その辺の薬局で自分で処置できるので…」
「レディに怪我をさせそのままには出来ません」
この人下ろす気無いようだ。確かにコンパスの短い私が歩くよりその方が早いだろうけど少し傷付いた。親友の愛華は背が高く170㎝あるから、この男性の早さについて行けている。
気がつくとホテルの医務室に着き専属医が診てくれた。縫合までは必要無いが暫くは消毒が必要との事。帰り薬局で消毒液を買って帰らないと…
包帯を巻かれ処置は終わっ……って無い!
汚したカフスとスーツの弁償しないと!
「ありがとうございました。で…汚した…」
「今日はこちらへはどの様な用向きで?」
「友人とランチに」
「では、お詫びにご馳走させて下さい」
「いえ!私の方がご迷惑おかけしたので…」
「でしたら私もまだ昼食をとっていないので、お付き合いいただきたい。タチバナ。ランチの手配を。また私が戻るまでレディのお相手を頼む」
タチバナと呼ばれた男性は深々と頭を下げて、私と愛華の案内を始めた。
案内されたのはイタリアンレストランの個室。
嫌な予感がして愛華に小声で”帰ろうと“と言うと
「せっかくの好意だし、ここのイタリアン私らでは食べれないからご馳走になろうよ!」
忘れていた…愛華は楽天家のお得好きだった…。
愛華は個室をキョロキョロ見てどんな料理が出るのか楽しみみたい。片や私は1秒でも早く帰りたい。
暫くするとあの男性が来た。着替えた様で淡いグレーのニットにダークグレーのスラックスでセレブの休日って感じた。彼が席に着くと料理が運ばれてくる。
「お待たせして申し訳ありません。まだ自己紹介がまだでしたね。ジークヴァルド・フォーグスと申します」
と名刺をくれた…が…英語表記でまったく読めない。名刺をにらめっこしてる間に料理が並んでいる。隣に座る愛華は嬉しそうに既に食べ始めている。慌てて名刺をカバンにしまいスープをいただく。
気のせいだろうか…ジークさんがめっちゃ見ている気がする。ジークさんは話し上手で会話が途切れず和やかな食事会となった。会話の殆ど愛華が応対してくれ、人見知りの私は振られた質問に答えただけで料理に集中できた。
最後のデザートが運ばれたタイミングでジークさんが
「仕事で次の日曜までこちらに居ます。咲さんの怪我の状況を知りたいので、連絡先を教えていただけませんか⁈」
「お医者さんが3日もすれば治ると仰っていたので大丈夫です。それより汚してしまったスーツとカフスのクリーニング代は…」
「必要ありません。大したものではないので。それより貴女の怪我の完治をこの目で確認しないと帰れません」
この後も遠回しに断るが諦めてくれない。デザートを食べ終わり手が空いた愛華が
「怪我が完治したらメールで知らせたら終わりじゃん。早く交換したら?食事会終わらないよ」
そうだこの後買い物に行く予定だった時間が無くなる。愛華に促されて渋々連絡先を交換する。
交換が終わったらジークさんは私の左手を持ち両手で包み込み
「覚えていませんか?」
「はぃ?」
「いぇ…いずれ…」
「ん?」
ジークさんは手を離し微笑んでホテルのエントランスまで送ってくれた。
この後買い物に行ったが愛華がジークさんの話ばかりする。せっかく好きなショプに来て色々見たいのに、愛華が話しかけて来るから集中出来ない。
「きっとジークさんは咲に運命感じているんだよ!話の半分以上は咲の情報を聞くための質問だったし、咲が没一(夫と死別)って聞いた時明らかにニヤけたのよ」
「気のせいだよ。相変わらず昼ドラ好きなの?」
「好き!昼ドラ展開なら直ぐメール入るよ!」
「なぃなぃ!そんなのTVの中だ…け…ん?」
カバンからバイブル音がする。嫌な予感の私に楽しそうな顔の愛華。スマホを取り恐る恐る相手を見る。
「ビンゴ!やっぱり!」
「マジか…」
着信はジークさんからだった。
お読みいただきありがとうございます。
いま他の長編も執筆中。息抜きのつもりで書いていたら案外上手く書けたのでアップしてみました。
息抜きで書いているのでアップが不定期(長期間空く事も)です。
目についた時にお読みいただけたら幸いです。