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演劇台本

あの日の桜

作者: リサ

【キャスト】

・医者

・少女

・患者

・お母さん

・看護婦




医者「あー・・・いい天気だね・・・こう天気がいいと外でピクニックとか行きたくなるね」

看護婦「先生?・・・何やっていらっしゃるんですか?」

医者「うん?いやね、こんな天気がいい日はピクニックとか行きたくなるなぁって」

看護婦「・・・何バカな事を言ってるんですか?○○さん来てますよ?」

医者「・・・君も昔と変わらず辛辣だね・・・って。もう○○さん来てるのか。早く中に入れて頂戴」

  看護婦は袖へ、医者の呼び声と共に患者登場

医者「○○さん。お入りください」

患者「先生・・・こんにちは」

医者「こんにちは。お座りください」

患者「は、はい」

  医者はカルテを見ながら患者へ

医者「うん。特に問題はなさそうですね。明日の手術は予定通りに決行します。○○さん。明日の手術に当たって何か不安や疑問点はありますか?」

患者「・・・先生」

医者「どうかしましたか?」

患者「私・・・やっぱり明日の手術は受けたくはありません」

医者「・・・何か・・・不安な事でも?」

患者「怖いんですよ・・・手術って体を切り刻まれるんですよね?もしかしたら死んじゃうかもしれないじゃないですか?」

医者「大丈夫ですよ!手術の際は私が執刀しますから・・・それとも私では不安ですか?」

患者「い、いえ・・・そうではないんです・・・ただ・・・その・・・」

医者「どうしましたか?」

患者「・・・先生・・・正直に言って欲しいんです。私・・・多分・・・ダメですよね」

医者「体の事ですか?・・・確かに難しいかもしれません。ですが手術が成功すれば必ず治ります」

患者「・・・そんなの分からないじゃないですか・・・成功すれば?難しい手術なんですよね?確か、日本の中でも成功例は少ないって聞きました」

医者「成功例は確かに少ないです。でも、ゼロじゃありません。成功している手術だってあるんです!不安はあるかもしれませんが何もしないよりは絶対いいですね」

患者「で、でも」

医者「・・・分かりました。少し待っててください」

  医者は手紙を机から取りだす

医者「お待たせしました」

患者「先生?その手に持っているのは・・・手紙・・・?」

医者「詩ですよ」

患者「詩?」

医者「ええ・・・ある女の子が書いた詩です。その子は手術すらできない重い病気を抱えていました。私を含めた周りの人間は彼女の病気について勝手に諦めていたんです。でも、彼女は最後まで違いました。自分が死ぬって言うのに彼女は幸せそうに笑っていたんです。・・・そしてこれを渡されました。」

患者「・・・どんな女の子なんですか?」

医者「彼女ですか?」

患者「ええ」

医者「そうですね・・・わたしもあまり話す機会がありませんでしたので彼女の内面まで知っている訳ではありませんよ?それでも良いですか?」

患者「構いません」

医者「・・・分かりました。それではお話します」

  場面転換

母 「先生?娘はどうですか?」

医者「・・・何とも言えない状況で――」

母 「先生!はっきりとおっしゃってください!」

医者「・・・もってあと1年ぐらいです」

母 「そうです」

医者「・・・あまり驚かないのですね」

母 「ええ。諦めていましたから・・・この子が病気になった時から」

医者「そう・・・ですか。どうなさいますか?」

母 「え?」

医者「一応、可能性が無いわけではありません。抗がん剤やその他薬剤で症状を緩和させる事が出来ますし――」

母 「いえ。結構です」

医者「え?」

母 「先生。それをすれば治るんですか?」

医者「・・・分かりません。ただ、可能性の話として――」

母 「なら。結構です。」

医者「しかし――」

母 「あの子は助からないんです。もう、そっとしてあげたいんです」

医者「・・・そうですか」

母 「失礼します」

  母退場

医者「ふー」

看護婦「お疲れ様です。先生」

医者「何だかなぁ・・・」

看護婦「・・・先ほどの親御さんですか?」

医者「・・・うん」

看護婦「なにかあったんですか?」

医者「・・・娘が助かるって可能性があるかもしれないのに・・・もう、諦めちゃうんだって・・・何だかなぁ・・・」

看護婦「・・・私、わかる気がします」

医者「何がわかるのさ?」

看護婦「あの親御さんの事ですよ」

医者「ほんとに?」

看護婦「ええ・・・多分、諦めちゃってるんだと思います。まぁ、生存の難しい病気ですしね。親御さん的にも看病に疲れちゃったんだと思いますよ」

医者「看護が疲れたって・・・親子なんだから」

看護婦「親子だからこそですよ」

医者「親子・・・だからこそ?」

看護婦「・・・親子って言うのは自分の半身みたいなものなんですよ・・・特に母親って言うのは自分の体を痛めてでも産んでますからね・・・その思いは非常に強いと思うんです」

医者「・・・そんなもんなんかね・・・って君はずいぶんと知った風な口調だね」

看護婦「・・・私の母も同じでしたから」

医者「・・・そっか・・・申し訳ないけど・・・僕にはわからない事だね・・・父も母も元気だから」

看護婦「でしょうね。先生はそういう悩みから無縁そうな人でしょうからね」

医者「・・・えっと・・・それは・・・褒めてる?」

看護婦「なわけないじゃないですか。先生は鈍感な人ですからね」

医者「君・・・ずいぶんな事言ってる自覚ある?・・・いくら僕でも――」

看護婦「僕でも?」

医者「ないちゃくよ?」

看護婦「・・・キモ」

母 「先生!」

  母が袖から乱入

医者「・・・どうしました?」

母 「む、娘が!」

医者「娘さんが?」

母 「いなくなったです!」

医者・看護婦「ええ!?」

母 「さっき病室に向かったらもぬけの殻で付近を探してもどこにもいなくて!」

医者「あー、落ち着いてください!わかりました。僕が探してくるので、君はお母さんについてあげてください」

看護婦「はい!・・・さ、こちらです!」

   看護婦と母は退場

医者「・・・たく」

  医者はそでへ

  場面転換、袖から医者が登場

医者「どこ行ったんだよ」

  医者がうろつく

医者「ん、アレは?」

  女の子が座っている場所の横に座る

医者「こんな所で何してるの?」

少女「あれ?・・・先生?」

医者「はぁー・・・抜け出したんだって?」

少女「探しにきたの?ごめんんさい」

医者「良いよ。別に。それで、君は何してるんだ?」

少女「・・・桜を見てたんだ」

医者「桜?」

少女「うん。桜・・・きれいでしょう?」

医者「ああ・・・きれいだな・・・中庭にこんなきれいな桜の木があるなんて・・・驚いたよ」

少女「ねぇ?先生」

医者「ん?」

少女「桜はね1週間しか咲く事が出来ないの・・・知ってた?」

医者「へー、それは知らなかったよ・・・1週間か・・・もし、僕が桜だったら耐えられないな」

少女「・・・そうかな?」

医者「ええ?」

少女「桜はね・・・1週間しか生きられないからこそ・・・こんなにもきれいに咲き誇ってるんだと思うの」

医者「・・・」

少女「・・・人も同じ・・・短い命だからこそ。それを全力で、必死で生きてるんだと思うわ。・・・そうおもったら諦めるなんてできっこないわ」

医者「それでここへ?」

少女「うん・・・それにここにいると良い詩が浮かぶの」

医者「詩?詩が好きなんだ」

少女「うん!大好きだよ」

医者「そうなんだ・・・是非読んでみたいな」

少女「なら、今書いてるのが出来たら読ませたあげるね」

医者「ほんと?・・・それは楽しみだ。さ、病室にもどろっか」

少女「・・・そうね・・・お母さんも心配してるわよね・・・いこ、先生」

  少女は駆け出す。袖へ、医者は桜を見て

医者「桜・・・の木か」

  医者は袖へ。場面転換

  医者は袖から出てくる。座ってる少女を見つける

医者「・・・また、逃げ出してきたのかい?」

少女「先生」

医者「はぁーダメだろ?」

少女「違うわよ・・・お母さんに許可も取ったんだから・・・先生こそ仕事はいいの?」

医者「あー、休憩中だよ」

少女「ふーん・・・休憩ね」

医者「あはは、隣座っても?」

少女「どうぞ」

医者「はぁ・・・なにかあった?」

少女「・・・どうして、そんな事を聞くの?」

医者「悩んでますって顔してるから・・・かな?」

少女「何それ・・・変なの」

医者「あははは・・・それで、どうしたの?」

少女「ねぇ・・・私って助からないんでしょ?」

医者「そんなことは――」

少女「気休めはいらない・・・私の体だもん。私が一番わかってるわ」

医者「・・・」

少女「たまにね・・・こう考える事があるの」

医者「なに?」

少女「私も桜と同じ・・・短い命のなかで必死に生きてるつもりでも・・最期はひっそりと枯れてしまう・・・なにも残んないんだなって」

医者「・・・」

少女「このいま考えてる詩だってそう・・・何か残したくて・・・一番好きだった詩ならって思ってたけど・・・そう考えると意味の無いって思えて来るの」

医者「ずいぶん・・・今日は悲観的なんだね」

少女「・・・夢を見たのよ」

医者「夢?」

少女「

医者「ねぇ?・・・桜はほんとに何も残らないと思うかい?」

少女「え?」

医者「確かにこの綺麗さは枯れてしまったら残らないかもしれない。でも。それだけじゃないとも思うんだ」

少女「どういう事?」

医者「僕たちの心に残るんだよ」

少女「心・・・それって結局何も残らないじゃない」

医者「確かに形では何も残らない。でも、そのきれいな生き様はこうして僕たちの心に残るんだ。それは不確かなものかも知れないけど・・・形で残るよりも長く残り続けるんだと思う。・・・だから、僕たちはこうして毎年のように桜を見るのかもしれないね。あの綺麗な生き様がまた見たくて」

少女「人の心・・・?」

医者「うん」

少女「・・・!」

  少女は手元で何か書き始める

少女「できた!」

医者「・・・どうしたの?」

少女「できたのよ!・・・ほら」

医者「・・・よかったね」

少女「うん!・・・はい」

医者「え?」

少女「約束したでしょ?先生に読ませるって・・・だから。はい」

医者「・・・じゃあ、読ませてもらうね」

  医者は読み始める

少女「ねぇ。先生」

医者「ん?」

少女「約束してほしいの・・・来年も再来年もずっとここで私と桜を見るって」

医者「・・・うん。わかった」

少女「約束だよ!・・・先生」

  暗転

  明転、現代へ

患者「それで・・・その女の子はどうなったんですか?」

医者「彼女は・・・頑張りました。半年の命が約束の来年と再来年の桜を見れたのですから・・・最後は笑ってました。私にこれを託して」

患者「そうなんですか・・・でも、どうしてその話を私に?」

医者「なぜでしょうね?・・・私にもわかりません・・・でも、偶然だとも思えなかったんです。どうです?読んでみませんか?」

  患者が詩を読む。患者号泣

患者「先生・・・私!」

医者「貴女なら大丈夫です。彼女と違い・・・手術すれば治るんですから」

患者「・・・先生・・・ありがとうございます」

  患者退場

医者「・・・また・・・桜の季節だね・・・君もみてるんだろ・・・約束だからね・・・僕はね・・・この桜を見るたびに思い出すんだ・・・君の笑顔を・・・だからなのかね?・・・僕は、あの時からこの桜が忘れられないんだ」

  医者は笑いながら桜を見る。横には少女が笑いかけながら彼と桜を見る。


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