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異世界でニートは思ひに耽る  作者: かういん
9/9

7話

憩いと兆し

「せっかくだから街についたら屋台で買い食いしようぜ」


「まぁ別いいけど……」


 さきほどから、ここぞとばかりにイタチもどきはしゃべりまくる。

 それも仕方ないといえば仕方ないのだが。


「それより前から不思議に思ってたが、なぜ魔導書がしゃべるかについて話してくれないか」


「この間、話しただろ」


「いや、聞いてなかった……」


「おい、まぁ暇だし話してやるか」


 延々と続きそうな田畑を横目にし、肩に乗りながら彼は話し出す。


「そもそも、モノはしゃべれない。声帯がないからな。なので疑似声帯で話さなければいけない。例えばラジオやそういうスピーカー的なものだ。それと話にはもう一つ大切なものがいる、思考だ」


「改めて聞くとたしかに」


「思考とは、経験から来るものと勘と言われる感覚的なものの総称だ。だから、学習の蓄積だけではなく感覚も必要になる。この3つを基本に言葉が発せられるわけだ」


 なるほどねっと相槌を打つ。


「でだ、魔導書がなぜしゃべるかというと、ニルト達が使う魔導書には本来しゃべる機能なんてものはない。しかし、俺はしゃべれる」


 ふむふむと聞く。


「魔導書に転生したからな!」


 ポンと握った右手を開いた左手に打った。


「なるほど!」


「……。」


「おみごと!」


「なにがだよ!」


「ブラボー!」


「いやいやいや。どうして魔導書に転生したか聞きなさい」


「エクセレント!」


「なぜ、魔導書に転生したかだが、外れ目に深く関係している。

 神の信託を受けた転生者は、通常神が受付を行う。

 実際は、神が受け付けない場合も多々あるのだが……

 当たり目でない転生者は実に扱いが雑だ。

 神も忙しいのだ。その代わり、いわゆる天使様が対応してくれる。

 私は実は当たり目で神様が受け付けてくれた」


「なんだと?! 知らなかった……」


「いや、なんども話してるから真剣に聞いていないだけだろ。

 私は神に言った。天使にしてほしいと。

 しかし、それはできないとのこと。そこで神様は提案された。

 天使をしたいのであれば、とある魔導書になるといいと。

 最初は本などに転生するのはなんだかなぁと思ったが、変化へんげが使えるから気にする必要はない。

 しかも、通常転生と違い睡眠や飲食も必要なく永遠の命だと。

 かなり悩んだが、もし後悔したら、いつでも1度だけリセットしてもいいと、お墨付きを貰ったので本になることにした」


「どっかのニートも真っ青な条件だな」


「そう(ひが)むな。君は天使様にしか会えなかったからって」


「天使になりたかったヤツの言うセリフじゃない」


「天使様は神様の言わば代行をしているだけで、実に作業的に処理されるからな」


「なぜそれを知っている」


「天使になりたい俺が、神様に聞いていないわけないだろ」


「くっ、こやつ地下の書庫にしまってやろうか」


「そんなことをしても無駄無駄。次の目的はまさにそれなんだから」


 と、いつのまにか着いた街中の石畳沿いにある古い扉の前に彼は立っていた。

 トントンとドアノッカーで叩くと、しばらくすると扉が開く。


「お久しぶりね。どうぞ入って」


「失礼します」


 四半期に一度、黒髪の女性が出迎えてくれる。

 部屋に通されると、いつもの客間でソファーに腰掛ける。


「さっ。はじめましょう」


「そうですね」


 通例行事ともいうべきものなので、お茶するとかそんなものはあとだ。


 鞄の中から、カードケースを取り出し開ける。

 まずは、本人確認のような工程からだ。


 お互いカードを交換する。

 このカードは、識別術式が記されていてこれに手を置くことで転生者かがわかる仕掛けだ。


 さらに、カードケースに戻すと最新の分析結果までわかるという優れモノだ。

 つまりは、人体偽物防止装置のようなものだ。


 基本的には、神の認識票を流用しているのに過ぎない。転生者になりすまそうが殺そうが、本人に成り代わることは絶対に不可能だ。


 神を超えられるなら別だけど。


 互いに自己証明を終えると、次は森で使った棒魔導器の入った箱を渡す。


「使用に問題なしね」


「ああ、いつも通り使用してきたが特に気になることはなかった」


「ならいいわ。じゃ、最後の確認ね」


 と、彼女が傍にあった魔導書をテーブルの上に置いた。


「また、この時間かあんまり好きじゃないんだよな。身も心もスキャンされているみたいで。」


「あら、また化けていたのね。」


「そう言わずにさっさと、魔導書に戻ってくれ。」


「わかったよ。」


するとイタチもどきは、光りを放ち一冊の本へ還った。


「たく、丁寧に扱ってくれよな。」


「はいはい。」


 うるさい魔導書と彼女の魔導書を突き合わせる。


 そして、彼女も私も各々の魔導書の表紙に手を置く。


 手のひらを(かたど)ったように光り、その形が波紋のように広がっていく。


 しばらくすると、広がった光りの波紋が収縮する。


「これで終わりね。お茶を用意するわ」


「どうもありがとう」


 うるさい魔導書は沈黙していた。ある事情があると数分は動けなくなる。

 その事情とは、ハッキングデータを分析するためだ。



 到底、この地方では手に入れられない茶葉の香りが厨房の方から香る。


 

 彼は、めんどうなことが起きた気配を感じた。

 それは、本格的に動かざる負えない状況へ追い込まれたことを意味している……






今回はこれでこの物語は、打ち切りとなります。

お読みいただきありがとうございました。

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