6話
風の便り
今、私はダリューノ大森林の入り口に来ている。
入り口と言っても森の境に来ているだけなのだけど。
今までの照り付けた日差しからは、一転涼しげな木陰がこの先にはある。森林独特のマイナスイオンともいうべき、癒しの空気。
「さっさとやることやって」
「わかってるよ」
イタチもどきが、せかしてくる。
鞄を地面に置き、中から長細い円柱形の小箱を取り出し、その箱を開き小さな棒のような魔導器を取り出す。
右手で棒を持つと小さな光が私から棒に流れ込む。
その棒を地面に垂直に突き立てて手を放す。
すると、意思を持ってるかのように自立した棒が、一瞬光りパタリと倒れた。
「よし、これで一つ目は終わりっと」
「次、つぎっいこ」
棒を小箱に丁寧に終い肩から下げた鞄に入れた。
再び、私は歩きだす。
「しかしさぁ、何度見てもこんなんでいいのかって思うよな」
「何がだよ」
「魔法が使えないとは言え、魔導器を使って計測するだけって」
「まぁ、楽と言えば楽かな」
「なんで、転生者しかこれできないんだろうな」
「なんでって、魔導書のお前が一番よく知っているだろうが…」
「いや、俺の言っているのは、転生者が神の信託を受けてるから魔力に淀みがないとか、そういうシステム的な話じゃなく」
「なにが言いたいのか」
「ああ、ここの世界のモノだってチート使えばできるんじゃないかって話」
「そういうことか、魔導書が勝手に詮索していいのかな。禁足事項にあたらないのか」
「別に大丈夫だよ。筒抜けだし……」
「それを大丈夫と言えるのかはさておき、チートで作ったシステムをチートで破れるかって話なら破れるが正解だ。
しかしな、このシステムはさっきも触れた神の信託が大きく影響している。
つまりは、最初に神によって選別され、マーキングされている点にある。
神をも凌駕できる者が現れれば別だが、そんなやつは早々出てこない。
わかりやすく言えばマーキングされている=(イコール)個別認識票があるってことだ。
個別認識をされるってことは、自由がない反面、システムを構築する上で非常に管理しやすく信用に繋がる」
「なるほどな。俺たちここのモノは、マネたりコピーし放題だけど。神の個別認識票は容易にパクったりできないってことか」
「そういうこと」
「まぁ知ってたけどな」
「じゃなんで聞いたんだよ……」
「その辺飛んでいる風の妖精が暇かと思ってさ」
「……。まぁそういうことにしといてやるよ」
小川にかけられた小さな石橋の上を通りかかり、そよ風が楽し気に吹いている気がした。
私は知っているあの勇者は、神のマーキングだけを信用しこんなシステムを構築していないことを。
次の目的地では、その一端を垣間見ることになるであろうことも。