5話
門外不出
エイラシアン中央大陸の北西に位置するダリューノ地方。
ここが我が故郷でもあり在住地である。
朝食を済ませた私は、久々に外の陽の光を浴びている。
ニートだからって、陽が弱点とかはない。外に出たらトラウマが再発もない。
それは勘違いだ。外に出るのが難しいのはニートでもひきこもりでもなく、うつ病だ。併発する者が後を絶たないので間違っている人が多い。
広い庭を数分歩くと内側城壁に差し掛かる。
正門は常に開けっ放しだ。戦乱でない今は邪魔でしかない。
城壁は2つある外・内。あと外城壁の外側にはお濠を備えている。
「おい、ニルトそろそろ出してくれ」
カバンの中から声がするがあえて無視する。
私は歩くのに忙しいのだ。
「ふざけるな。こんなかび臭い鞄に閉じ込めないでくれ」
「ひきこもりに権利はないのだ」
「それはお前だろ」
一瞬出してやろうと思ったがやめることにした。
「冗談だから……出してくれ」
「仕方ない……」
と鞄を開けて、中から一冊の分厚い本を出した。
「ふぅ、生きた心地がしないぜ」
「生きているのか、魔導書って……」
「物の例えだろ」
傍らから見れば、宙に浮いた本と掛け合いをしている実に妙な光景である。
「もういいから、さっさと適当なモノに化けろ。じゃないと連れてかないぞ」
「仕方ネーな、ほらよっとっ」
魔導書は、まばゆい光を放ちイタチのような獣に変化した。
「これでいいんだろ」
「化けても獣だから、明らかに話すのはおかしいけどな」
「勘弁してくれ、ヒト型は疲れるんだ」
「致し方ない」
半ば諦め口調で肩にのったイタチぽいものを連れ丘を降りてゆく。
さっと気持ちの良い風が一瞬吹き抜ける。
城下なら普通近くに屋敷や商家が点在するが、ここは砦そんなものはない。隣人ですら、結構な距離がある。
「ところで、今日はどこに行くんだ?」
「着いてからのお楽しみだ」
百年前、戦略道として整備された畦道。
農作業をしている人に、白い目で見られながら歩いてゆく。