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時は再び動き出す。そのとき金も…
天は二物を与えず
果たして本当にそうだろうか……
百年前に魔王との大戦が終結し、平和な世界を迎えていた異世界の話。
世間では、ちらほら新たな魔王が出現したとかしないとか。
そうした風の噂が聞こえてくる。
古城と名ばかりの一室に私はいる。
先の大戦時に、各地に数万の砦として築かれた戦略拠点。
国同士の対立はあるものの、国境でない地方では無用の長物と化した廃城。
戦後数十年は維持されていたようだが、国の財政を圧迫し始め経費削減のためと払い下げられた。
当時、下級官職として国に仕えていた親父は、私が生まれたことをキッカケにお国のため家族のためと、いささか生活には不便なこの出城を購入したのである。
この城のことは、のちに母親があまり快く思っていなかったと知ることになるが、国に雇われていた以上めったなことは言わなかった。
「まったく、ヤツはいつになったら働くんだ」
「そうね……」
庭を畑に改良した城とは似つかわしくもない光景が窓の外にはある。
そこから、親の小言がうっすらと耳に入る。
俗にいうニート
というにはいささか微妙に異なる。
現代社会では、無職ひきこもりをニートと評するためそうであるといえばそうだが、ここは異世界。
どう違うのかと言えば、社会環境に違いがある。
年金や生活保護など社会保障の無いこの世界では、現代社会に比べて人の価値は非常に低い。
経済論的にお金との対比をするならモノになるが、要するにお金の価値がものすごく高い。
じゃ財産が潤沢にあるかと言えば、家にはない。
ただ、すぐには生活にぎりぎり困窮しない程度で余裕もない。
(どうせチートスキルとかステータスとか魔法とか使えるんでしょ)
とこんな声がそろそろ聞こえてきそうだ。
少し、生い立ちを簡単に紹介しよう。
異世界テンプレで、私は転生してきた。
しがないブラック工場の工員で、来る日も来る日も朝早く夜遅く休日まで出勤していた。
(早く会社やめたい……)
何度このことを思っただろうか。
体も心も限界に来ていた。ふらふらと、深夜の街を帰宅中にそれは起こる。
トラックが交差点から青信号に代わると加速しだす。
私は、過労で朦朧としていてその場で倒れた。
「あ~やっぱり」これが最後の言葉にならない言葉だった。
鉄板交通事故でなく、単純に過労死でした。ハイ。
ホワイト企業にお勤めの人生エリートの方はご経験ないと存じますが、正直ね人って過労働で死ぬんですマジで。
心身が限界に来ると、あーこれ以上無茶すると死ぬなって薄々体感するんです。
自己防衛機能っていうんですかアレ。
もちろん前触れもなく逝っちゃう方もいると思いますけど。
大概は、前触れ現れます。ミスが多くなったとか、事故起こしたとか、身体感覚がズレてきたとか、脳が腫れてるとか。
ここ死に至るまで、危機感はかなり薄い。
洗脳・従順モードですから。
なので、むしろ自己否定ばかりします。
天は無物を与えるとね。