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第一章 ~『クラリスの初恋』~


「俺がアークでなければいったい誰だというんだ……」

「でもオカシイです。アーク様は第一世代の魔法さえ使えなかったんですよ。それを第三世代の魔法を使用したり、冒険団を相手に圧倒したり、なぜあれほどまでに強くなられたのですか?」

「天才だからな。突然、力が目覚めたんだ」

「嘘を吐かないでください。教育係である私の目は節穴ではありません」

「ならクラリスの教育が良かったんだろ」

「…………ッ」

「黙り込んでどうかしたのか?」

「いえ、嬉しくて。私、少し泣きそうです」

「喜んで貰えたなら何よりだ」

「私の教育の賜物ですか……うふふ、さすが私。何をやらせても天才ですね」

「自分で言っておいてなんだが、お前の成果にされるとなんだかムカツクな」

「ふふふ、弟子の成長は嬉しいものですね」


 クラリスはアークライズの頭を撫でる。その手つきには優しさが込められていた。


「アークライズ様も同じ気持ちだったのでしょうか……」


 アークライズは本当の名前を呼ばれてドキリとするも、すぐに今の自分がアークだと思い出す。


「アークライズとは【黄金の獅子団】の賢者だよな。クラリスの片思いの相手だったか……」

「はい。私の大好きな人です」


 クラリスは満面の笑みを浮かべてそう口にするが、肝心のアークライズは、

(クラリスとどこかで会ったことあったか?)

 と、彼女のことをまったく覚えていなかった。


「好きになったキッカケはなんだ?」

「気になりますか?」

「そりゃまぁな」

「うふふ、昔の話ですよ。私が奴隷として働かされていた頃、助け出してくれたんです。それから生きていくために必要な魔法の知識を与えてくれたんですよ」

「クラリスの師匠だったということか?」

「そこまで強い繋がりではありません。生徒は私以外にも何十人といましたから、きっとあの人は私のことなんて覚えていないでしょうね。でも私は恩義を忘れたことはありません」

「感謝したから惚れたということか?」

「いいえ、それだけじゃありません。アークライズ様は優しくて格好良くて性格も穏やかで、絵本に出てくる王子様みたいな人だったんです。私なんかじゃ手の届かない高嶺の花ですが、その花に憧れてしまったのですよ」

「そうか……ただアークライズのこと、美化しすぎな気もするがな……」

「そんなことありません。むしろ足りないくらいです。アーク様もアークライズ様のような素晴らしい人格者を目指してください」

「善処するよ」


(アークライズもアークもどっちも俺なんだけどな)


 アークライズは心の中で反論すると、視線をクラリスの胸元へと向ける。そこには金色の首飾りが輝いていた。


「アーク様、私の胸ばかりジッと見てどうしたんですか?」

「たいした理由じゃない。気にしないでくれ」

「……私、エッチなのはアーク様にはまだ早いと思います」

「誤解だ、誤解。俺は胸を見ていたんじゃない。その首飾りを見ていたんだ」

「ふふふ、アーク様はお目が高いですね。これは私の宝物なんですよ」

「宝物か。何か思い入れでもあるのか?」

「ええ。この首飾りはアークライズ様に貰ったんです。特別にアーク様にも見せてあげます」


 クラリスは首飾りの上蓋を開く。中には瞳に星が浮かんだ黒髪の美青年の似顔絵が描かれていた。


「誰だ、こいつ。新手の魔物か?」

「失敬な。こちらはアークライズ様の似顔絵ですよ」

「……随分と下手な絵だな」

「絵が下手なのは子供の頃に描いたものだから許してください……でもこの下手な絵をアークライズ様は褒めてくれたんですよ」

「そんなことで宝物になるのか?」

「なりますとも。それまでの私の人生は決して幸せとはいえませんでした。他者から向けられる感情はいつだって悪意ばかり。そんな私の人生で初めて人から優しくされた瞬間でしたから」

「…………」

「私はアーク様をアークライズ様のような素晴らしい人に育ててみせます。これからもビシバシ教育していきますので覚悟しておいてください」

「まぁ、ほどほどに頑張ってみるよ……」

「それでこそ私のアーク様です……私はアーク様とアークライズ様、お二人に幸せになって欲しい。それこそが私の生き甲斐なんですから」


 クラリスはギュッとアークライズを抱きしめる。暖かい感触が彼の全身を包み込んだ。



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