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第一章 ~『ブリーガルとの決闘』~


 決闘。それは冒険者同士のいざこざを解決する際に、たびたび行われる行為で珍しいものではない。ただしそれを貴族の銀行員がやるとなると話は別だ。使用人たちは大丈夫だろうかと、慌てふためきながらも、主人の意思には逆らえないため、傍で様子を伺っていた。


「決闘のルールは負けを認めるか気絶したら負けでどうだ?」


 ブリーガルが決闘のルールを提案すると、アークライズは欠伸を漏らしながら首を縦に振る。彼はアークライズが提案を受け入れたことを愚かな選択だと、口元に嘲笑を浮かべる。


「ブリーガル、武器はありのルールでいいのか?」

「当然だ。俺は剣が得意だからな」

「十歳相手に随分と真剣だな」

「黙れ! 俺は子供相手でも手を抜かない主義なんだ」

「そんなことを口にしていいのか? 負けた時の言い訳ができなくなるぞ」

「俺が勝つのだから問題ない。それよりルールに対する質問はないのか?」


 アークライズはう~んと、唸り声をあげて、ルールについて思考する。


「殺しても良いのか?」

「は?」

「いや、だから。ブリーガルを殺しても俺の勝ちになるのか?」

「…………」


 アークライズの十歳の子供が発するとは思えない質問に場が凍る。さらに彼の声には自分が勝利する絶対の自信に満ちていた。


「やはり今日のアーク様は変ですね。浴室に頭のネジを忘れてきたんじゃないですか?」

「クラリスの主人に対する物言いも十分変だけどな。それに本当に殺すつもりなんてない。ブリーガルの奴が偉そうだから冷や水を浴びせたのさ」


 アークライズが指摘するようにブリーガルの口元から嘲るような笑みが消えていた。彼の瞳は対等な決闘相手を見るようなものに変わっている。彼は手にした剣をギュッと握る。


「殺すのはなしだ……」

「そうか」

「殺しはなしだが、俺はアークが泣いて謝るまで痛めつけるのを止めない。覚悟しろよ」


 ブリーガルが剣を上段に構える。隙だらけの構えに、アークライズは鼻を鳴らして笑う。


「このレベルか……勇者と比べると遥かに格下だな」

「な、なんだと」

「先番は譲ってやる。来てみろ、ブリーガル」


 アークライズの挑発に我慢できなかったのか、ブリーガルは一歩、足を前に踏み出す。しかし彼はそれ以上、足を進めることができなかった。背中から流れる冷たい汗が、彼の動きを止めたのだ。


「対面したら、さすがのブリーガルでも理解できるだろ。これが力の差だ」

「ぐっ、おい、お前たち。俺を手伝え」


 ブリーガルは仲間の冒険者たちに決闘を手伝うように告げる。しかし彼らは苦笑を浮かべるままで動こうとはしない。


「ブリーガル様、さすがに決闘に助太刀するのは……」

「俺は金融魔導士の銀行員だ。故に武器とは剣ではなく融資であり、融資先のお前たちも俺の武器ということだ。ルールには反していない! そうだよな、アーク?」

「こじつけだが、一理ある。冒険者が仲間に加わるのを認めてやる」

「そういうことだ。お前たち、アークを叩きのめせ」

「では……本意ではありませんが……」


 ブリーガルの命令に従い、冒険者たちは動き出そうとする。しかし彼らの視界はすぐに真っ暗に染まり、気を失う。


 膝から崩れ落ちる冒険者たちを目にして、ブリーガルは目を見開く。驚きで目が血走っていた。


「な、なにをした!?」

「全員、気絶させたんだ」

「結果を聞いているんじゃない。どんな方法を使ったんだ」

「ん? ただ高速で動いて、腹を叩いて回っただけだ。こんな風にな」


 アークライズは時間停滞空間で修行した身体能力強化の力により、勇者に匹敵する膂力を手に入れていた。彼の動きは常人では目で追うことすら難しい。


 事実、アークライズは瞬時にブリーガルの眼前に移動してみせるが、傍から見ていると瞬間移動でもしたかのようだった。


「お、俺の負けだ。認める。お前の方が俺よりも強い」

「力の差を理解してくれて何よりだ」

「だがな、これはあくまでただの決闘の結果だ。銀行員としての優劣はまだ決まっていない。俺は必ずアークを、そして兄弟の誰よりも優れた男になり、メルシアナ家の当主になってみせる」


 ブリーガルは部下の冒険者へ駆け寄ると、肩を貸して屋敷へと戻る。十歳のアークライズの勝利に、使用人たちの称賛の拍手が鳴り響いたのだった。



ここまで読んで頂いた方、ありがとうございます。これからも応援よろしくお願いします(*^_^*)

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