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第一章 ~『アークライズへの宣戦布告』~


 魔物騒動は落ち着いたと、誰もが一息吐いていた頃、森の中から悲鳴と共に血まみれになった使用人の男が飛び出してきた。背中には獣に裂かれたよう爪痕が刻まれており、呼吸は荒くなっていた。


「ブリーガル様、街まで治癒師を呼んできます」


 使用人の女性が叫ぶ。しかしブリーガルは首を横に振る。


「待て、ここから近くの街まで走っても間に合わない」

「しかし!」

「それに森の中には魔物がもう一体いる。爪痕から考えると、先ほど俺たちが倒した魔物より大きい。被害が拡大する可能性を考えると、こいつは切り捨てるべきだ」

「そんな……」


 怪我をした使用人と仲が良かったのか、女性は目尻に涙を浮かべる。


「冷酷だと思うかもしれないが、これが最善だ。受け入れろ」

「いいや、受け入れる必要はない」


 アークライズが瀕死の使用人に近づくと、第三世代の治癒魔法を発動させる。すると傷を負った背中が最初から怪我などしていなかったかのように治り始める。


「アーク様、これはいったい……」

「助けて欲しかったんだろ。だから治療してやったんだ」


 使用人たちはゴクリと息を呑む。目は見開かれ、驚愕で表情が歪んでいた。


「アーク、お前、なぜ治癒魔法が使えるんだ? しかもあれだけの傷を一瞬で治すのは第一世代では無理だ。少なくとも第二世代でなければ不可能だ」

「それはそうだろうな。俺が使ったのは第三世代の治癒魔法だからな」

「だ、第三世代……あ、ありえない。第二世代でさえ到達するためには長い年月を要するのに、第三世代の魔法を扱える十歳などいてたまるか!」

「いてたまるかと言われてもな。使えるんだから仕方ないだろ」


 使用人たちは唖然とするしかなかった。しかしそんな空気を壊すように、クラリスがアークライズに拍手を送る。


「皆さん、事実としてアーク様のおかげで尊い命が救われたことは違いないのです。彼に感謝を贈るべきではないでしょうか」

「そ、そうですね。アーク様に感謝を!」

「「アーク様に感謝を!」」


 使用人たちの拍手の雨がアークライズに送られる。人助けができたことによる喜びで、彼の頬は少しだけ緩んでいた。


「アーク様、森の中に潜む魔獣はどうされますか?」

「討伐するしかないだろう」

「なら俺たちの出番だな」


 ブリーガル率いる冒険団は、助けられるはずの使用人を切り捨てたことの負い目があったのか、挽回しようと戦いに名乗りを上げる。


「その出番はさっそくやってきたようだぞ」


 森の陰から大型の獅子の魔物が姿を現す。黄金の鬣と鋭い牙。そして獲物を狙う眼光が、魔物は強敵だと主張していた。


「あの魔物かなり強いな……本当にダンジョンから逃げてきた魔物なのか?」

「アーク、お前知らないのか?」

「なにをだ?」

「最近ダンジョンから現れた魔物が人を襲う事件が多発しているんだ。しかも以前のように雑魚ばかりではない。強い魔物も混じり、しかも誰かの指揮に従うかのような統率ある動きを見せることもある」

「なら近くに魔物を支配するタイプの魔物でもいるのかもな」


 魔物の中には同種の魔物を支配する魔物が存在する。マスタータイプと称される魔物がいるのなら、意図して人里を襲うことも起こりうることだった。


「まぁ、いい。今はアークに構っている場合ではない。皆、気を付けろよ。相手は強敵だ」

「はい! さっそくですがブリーガル様、指示をお願いします」

「おう、任せておけ」


 ブリーガルは魔物を指差し、口を開こうとする。その瞬間、ほんの一瞬の間に魔物は彼に肉薄する。


「なっ!」


 ブリーガルを守るべく、冒険者の男たちは間に割って入る。身を挺して鋭い爪を槍で受け止めるが、その衝撃で、槍は無残に折れてしまう。


「ぐっ……お前たち、逃げろ! こいつには勝てない!」


 ブリーガルは魔物との力の差を悟ったのか、部下に屋敷へと走るように命じる。一斉に背後へと駆ける人影。それに逆行するように魔物へと近づく影があった。


「アーク、何をしている!?」


 アークライズが無警戒に魔物に近づくと、魔物は大きな口を開けて、彼に噛みつこうと襲い掛かる。しかしその動きは突然に止まる。アークライズを映した獲物の瞳が、恐怖の色に染まっていく。


「俺と戦うか、それとも逃げるか。好きな方を選べ」


 アークライズの脅しの言葉を魔物が理解できるはずもないが、それでも魔物は恐怖に怯えたように背後の森へと逃げ帰った。


「ア、アーク様が、魔物を追い払われたぞ!!」


 使用人たちが歓声をあげる。ブリーガル率いる冒険団が敵わないと判断した強敵を睨むだけで追い払った彼に、使用人たちは尊敬の眼差しを向けた。


「さすがはアーク様です。それでこそ私が認めた主人です」


 クラリスがパチパチと拍手をしながら、アークライズへと駆け寄る。


「私はアーク様なら必ずや魔物を追い払ってくれると信じていました」

「本当かぁ? 俺の目には真っ先に屋敷に逃げたように見えたんだが」

「私は常にあなたと共にあります。屋敷の中に逃げたのはきっと私のそっくりさんですね」

「ははは、主人が危険な時も傍にいてくれるなんて素晴らしい使用人だなぁ」

「そうでしょうとも。忠義だけなら私の右に出る者はいません」

「そう信じたいね」


 アークライズは無事問題が片付いたと欠伸を漏らす。すると気の抜けた彼の顔が気に入らないのか、ブリーガルが足音を響かせながら駆け寄ってくる。


「そんなに怒って、どうかしたのか?」

「アーク、お前のせいで俺の評価はガタ落ちだ」

「人のせいにするなよ。すべてお前の能力不足が招いたことだ」

「ぐっ……その能力だが俺はお前の力を疑っている」

「へぇ~」

「決闘だ! 俺がお前の化けの皮を剥いでやる」


 ブリーガルは腰から剣を抜いて、アークライズに宣戦布告する。面倒だと思いながらも、彼はその挑戦を受けることに決めた。



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