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第四章 ~『ゴーレムクリエイター』~


 低級ゴーレムの群れを倒したアークライズたちは、それからも順調にダンジョン探索を進め、とうとう最下層まで辿りついた。


「アーク様、思ったよりも楽にここまで来ることができましたね」

「サラとマイアが頑張ったおかげだろうな」


 【灰色の猫団】の団員たちは魔物との戦闘を経て、着実に腕を上げていた。今の二人なら低級ゴーレムが複数相手でも難なく倒すことができるだろう。


「アークくん、あの扉を見てください」


 マイアが指差した先には、ゴーレムの描かれた大扉が土壁に埋め込まれていた。人の背丈の何倍もある扉を見上げるアークライズたち。彼らはここが目的地であるボスエリアだと確信した。


「とうとうダンジョンボスとの戦いですね。勝てるでしょうか」

「勝てるさ。それだけの努力を俺たちはやってきた」


 アークライズが扉を押し開けると、そこには一体のゴーレムの姿があった。そのゴーレムは下級ゴーレムと違い、赤茶色の外皮で身を纏い、体格も二回りほど大きかった。


「アークさん、あれは……」

「上級ゴーレムだ」

「じょ、上級ゴーレムって……Bランク相当の魔物ですよね」

「ああ。しかもBランクの中でも上位に位置している。下級ゴーレムとは比べ物にならない強敵だ」


 アークライズの評価にサラはゴクリと息を呑む。強敵だと聞いても彼女の瞳から闘志の炎は消えていない。


「私が先手を打ちます」


 サラは風魔法の詠唱を始める。アークライズの助言通り、風の刃を同じ場所に重ねて出現するように配置し、魔法を発動させる。


 風刃が赤茶色の外皮に斬りかかる。膨大な魔力が込められた魔法は並みの相手なら見るも無残に切り刻む。しかし上級ゴーレムはサラの魔法で傷一つ負っていなかった。


「わ、私の魔法が効かないなんて……」

「サラちゃん、ゴーレムの攻撃がくるよ」


 上級ゴーレムはのっそりとした動きでサラに近づくと、その大きな拳を彼女へと振り下ろした。サラは土の壁を生み出す魔法で防御するが、拳は壁を貫き、そのままサラを襲う。


「サラちゃんは私が守る」


 マイアが上級ゴーレムの拳を剣で受け止める。魔力を流した刃は拳の勢いを殺し、サラを守ることには成功する。しかし刃と交わった拳には傷一つ負わせることができなかった。


「アーク様、このままだとマズイのではありませんか?」

「だな……二人だと打つ手がなさそうだ」


 上級ゴーレムは攻撃力も低級ゴーレムと比べ物にならないほど向上しているが、攻撃力以上に厄介なのが、赤茶色の外皮に守られた鉄壁の防御である。


 上級ゴーレムに傷を負わせることができない以上、サラとマイアの二人に勝算はない。


「二人に経験を積ませるためにも、できれば俺は手出ししたくないんだがな……」

「それなら私が少しだけお手伝いをさせていただきます」


 クラリスは詠唱を唱える。彼女は使用人でありながら、銀行員、すなわち金融魔導士の職業も習得していた。


 金融魔導士の魔法には仲間を助け、援助するような力も多い。クラリスが唱えた魔法もその一つで、味方の身体能力と魔力を劇的に強化する力だった。


「私の魔法でお二人を強くしました。これならきっと勝つことができるはずです」

「クラリスさん、ありがとうございます」

「私たち絶対に勝ちます」


 マイアはクラリスによって強化された魔力を、剣に組み込まれた魔法回路に流す。剣が輝きを放ち、あらゆるモノを切り裂く名刀へと変わる。


「この刀ならどんなに固い装甲だって切ることができる!」


 マイアは上級ゴーレムを袈裟切りにする。先ほどまで傷一つすら追わなかった外皮に、しっかりと刀傷を残す。


「サラちゃん、刀傷に魔法の刃を合わせて!」


 サラはマイアの言葉通り、再び風の刃を放つ。クラリスによって強化された魔法の刃が、上級ゴーレムを襲う。


 何度も同じ個所を襲われると、どんなに固いモノでも破壊できる。マイアが斬りつけた斬撃と一寸も違わぬ風の斬撃が重ねられ、上級ゴーレムは真っ二つになった。


「ア、アークさん、私たち勝ちました」

「ボスを倒したんです!」


 二人は斬り崩れる上級ゴーレムを見て、達成感から勝利の笑みを浮かべる。


「おめでとう。よくやったな」

「えへへ、これで私たちの目的は達成ですね」

「いいや、まだだ。どうやら本体がお出ましのようだ」


 上級ゴーレムの外皮の中から黒い羽根の魔物が姿を現す。鋭い牙と鋭い眼つき、そして二足歩行する細身の肉体は、一見すると魔人のようだった。


「アークさん、この黒い羽根の魔物は魔人ではないですよね?」

「おそらくな」


 魔物はサラをジッと見つめると、牙を剥き出しにして襲い掛かる。だがその牙は彼女に届かない。アークライズによって、魔物の首はガッチリと掴まれていた。


「こいつはゴーレムクリエイターか」

「この魔物を知っているんですか?」

「噂にだけ聞いたことのある魔物だ。ゴーレムを生み出す魔法を使えると聞いたことがある……」

「ならこの魔物がゴーレムたちを生み出したんですか?」

「半分正解だ。低級ゴーレムはこいつらが生み出したに間違いない」

「低級ゴーレムは?」

「上級ゴーレムは別の奴だ……俺が鑑定の魔法で調べたから間違いない」


 アークライズの言葉に【灰色の猫団】の団員たちはゴクリと息を呑む。彼の言葉の裏には、ゴーレムクリエイターがこのダンジョンのボスではないという意味が込められていたからだ。


「情報を聞き出したいが……こいつが人の言葉を話せるとは思えないしな」


 アークライズはゴーレムクリエイターの胸に手を突き刺すと、中から魔石だけを抜き出す。魔物の命の源ともいえる魔石を失ったことで、ゴーレムクリエイターは口から泡を吹き出して、命を落とした。


「アーク様、魔物の討伐、おめでとうございます」

「ありがとう。ただ喜んでばかりもいられない。これからボスを討伐しないといけないからな」

「ボスの居場所に目途は立っているのですか?」

「ああ……上級ゴーレムが最初にいた場所を見てみろ。そこにある扉の向こうだろうな」


 上級ゴーレムが守るように隠していた扉。その扉にはゴーレムたちを従える王の絵が描かれている。この向こうにいる者こそがダンジョンボスなのだと権威を示しているようだった。


「最後の戦いだ。準備はいいか?」

「はい」

「なら行くぞ――」


 ダンジョンボスのいる場所へ進む。そう決めた時だ。一人の女性が顔を出す。美しい銀髪の少女は腰から剣を抜き、剣に炎を宿す。


「アーク、やっと見つけた。あなたを成敗しに参上したわ!」

「クラウディア!!」


 アークライズは宿敵の登場に小さく笑みを浮かべるのだった。



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