第四章 ~『魔石と思い出』~
「アークさん、その宝石はもしかして魔石ですか?」
「サラは知っていたか」
「いえ、実物を見るのは初めてです……ただ魔法回路の原料である魔砂は、魔法石を砕いて作っていることは知っています」
「魔石はCランク以上の魔物から得ることができ、高ランクの魔物であればあるほど質の高い魔石が手に入る……この魔石は低級ゴーレムを倒したマイアのものだ」
アークライズは魔石をマイアに手渡すと、彼女はじっとそれを見つめる。
「綺麗ですね……」
「翡翠色の魔石は魔石としての価値もそうだが、その美しさから装飾品にも利用されるため、市場でも高値で取引されているからな」
「私。決めました。この魔石は記念に残します」
「なにせ初めて手に入れた魔石だものな」
「はいっ、一生の思い出にします」
アークライズたちはダンジョン探索を再開する。細い土壁の通路を進み、下へ降りるための階段を探す。
「アーク様、こちらに階段がありますよ」
「一階層はクリアだな」
「この調子なら最下層まですぐに到達できそうですね」
「あまり油断できないぞ。なにせダンジョンは下の階層に行けば行くほど、強力な魔物が出現するからな」
アークライズたちが下の階層に降りると、そこは広い空間になっていた。土壁に覆われたドーム状の部屋は端が見えないほどに広い。
「先ほどまでの細い通路とは様相が変わりましたね」
「やはり広い空間の方が息苦しくなくて良いですね」
「いや、一概に良いとはいえないぞ。なにせこういった広い空間には――」
アークライズの言葉尻を遮るように、空間に地響きが反響する。何が起きたのかと音がする方向に皆の視線を集中する。
「あれは低級ゴーレムですね」
「ただ数が問題だな……最低でも十体以上はいる」
数十体の低級ゴーレムが隊列を成してアークライズたちの元へと進んでくる。土埃を巻き上げて進む軍団は、明確な敵意を侵入者である彼らへと向けていた。
「アークさん、今度は私が挑戦してみます」
「サラなら大勢を相手にする魔法も使える。適任だな」
「風の魔法で切り刻みます。伏せていてください」
サラは詠唱を唱えると、杖を前に出し、風の魔法を発動させる。第二世代の風の刃が低級ゴーレムを切り刻んでいく。しかし外皮に傷がつくだけで倒すまでには至らない。
「サラの魔法で傷を負うだけか……同じ低級ゴーレムでも第一階層にいた奴よりレベルが上のようだな」
「アーク様、そんなことを呑気に言っている場合ではありません。迫ってくる脅威を排除しないと……」
「仕方ない。俺が見本を見せてやる」
アークライズは無詠唱で風の魔法を発動させる。発動したのはサラと同じ風の刃で敵を切り裂く魔法だった。しかし唯一違う点がある。切り刻む風の刃は同じ場所だけを何度も切り裂いていたのだ。
低級ゴーレムの外皮がどれだけ固いとしても同じ場所を責められれば耐えきれるはずもない。魔物たちはバラバラに切り裂かれた。
「アークさん、凄いです……」
「難しいことではない。込めた魔力量も使用した魔法もサラと同じだ。ただ工夫しただけなんだ。サラも工夫すれば、より強い魔法使いになれるさ」
「は、はい……ですがアークさんを見ていて思ったのですが……」
「なんだ?」
「アークさんがいれば、私、いらなくないですか?」
「それは……深く考えない方が幸せだと思うぞ」
サラは魔法使いとしての実力差を実感し、肩をガックリと落とす。と同時に、サラがアークライズに向ける視線には、今まで以上の尊敬が込められるのだった。




