第四章 ~『ハンスの失敗とクラウディアの罠』~
ハンスは【灰色の猫団】に未探索ダンジョンの調査を依頼した後、そのまま帰路に就いた。そして翌日、彼は仲間たちにリストラから救われたことを知らせようと、【不死身の髑髏団】の拠点を訪れた。
しかし拠点に他の団員の姿はなく、クラウディアがただ一人椅子に腰かけていた。彼女はハンスの姿を認めると、にっこりと笑みを浮かべる。
「ハンス、おはよう。素晴らしい朝ね」
「クラウディア、まだ僕に何か用があるのかい?」
「私は経営者よ。自分の所有物の様子を見に来て何か問題でも?」
「君の所有物か……いつまでそう言っていられるかな」
「どういう意味かしら?」
「それはいずれ分かるさ」
ハンスはクラウディアを挑発するように笑うと、クラウディアも対抗するように口元を歪める。
「私、知っているのよ。あなた、アークに会いに行ったんでしょ?」
「なぜそれを?」
「私はメルシアナ家の令嬢であり、超一流の銀行員よ。街中に情報網を張り巡らせているの」
「何か有益な情報は得られたかい?」
「いいえ。得られた情報はあなたとアークが会ったことだけよ。でも何を話していたか予想がつくわ……私に対抗する手段は得られたかしら?」
「…………」
「答えはいらないわよ。あなたが私に勝つ手段を思いつくはずがないし、聞くだけ時間の無駄だから」
「…………ッ」
「あははは、アークの悔しがる表情が想像できるわ。これで私の方が優れていると、誰もが認めることになる。【不死身の髑髏団】から無能な団員も追い出せるし、私の勝利でハッピーエンドね」
ハンスは拳を握りしめて、目を血走らせる。彼は世話になったアークライズや仲間の団員たちを侮辱されたことに我慢できなくなっていた。彼は勢いのままに感情を爆発させてしまう。
「アークさんは君なんかより優れている。現に君に勝つ手段を提示してくれた!」
「悔し紛れの嘘なんて聞きたくもないわ」
「嘘なんかじゃない。アークさんは僕に融資してくれると約束してくれたんだ」
ハンスはアークライズがクラウディアから経営権を奪い返す手段を熱弁する。その言葉を聞くたびに、彼女の顔は青ざめていった。
「どうだい? これでもまだ君の勝ちだと?」
「ええ。まだ私の勝ちよ」
「往生際が悪いね」
「いいえ。私の勝利は揺るがないわ。なにせ融資はダンジョン探索が成功して初めて実現するもの。ならダンジョン探索が失敗すれば、経営権は変わらず私のものよ」
「君はアークさんたちを舐めすぎだよ。あの人たちなら必ずやり遂げてくれるはずだ」
「ふふふ、私は油断なんてしていないわ。きっと【灰色の猫団】ならダンジョン探索も成功させるでしょうね……不慮の事故が起きなければね」
「不慮の事故?」
「これから話すのはただの仮定の話よ……例えばそうね、モンスターよりも恐ろしい人間がダンジョン内をうろついていたとしたらどうかしら?」
「まさか……」
「ありがとう、ハンス。やっぱりあなたは扱いやすいわ」
ハンスは口を開けて呆然とする。彼はクラウディアによって口を割らされたのだと、ようやく気付いたのだった。