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第四章 ~『最低のクラウディア』~


 ハンスが【灰色の猫団】の拠点を後にした時には、日は暮れて真っ暗になっていた。彼は暗闇の中、肩を下ろしながら帰路に就く。中央通りの端に位置する【不死身の髑髏団】の拠点は、魔除けの骸骨が不気味な雰囲気を放つ建物で、中に入ると、愛すべき団員たちとクラウディアの姿があった。


「クラウディア。来ていたんだね……」

「私がここにいたらマズイのかしら?」

「いや、君は経営権を持っている、ここに来るのは自由だ……けどダンジョン管理はもういいのかい?」

「それなら問題ないわ。メルシアナ銀行から出向してきている私の忠実な部下に見張らせているから」

「なんだか含みを感じる物言いだな」


 クラウディアの言葉には命令を聞かないハンスを責めるような口ぶりが含まれていた。彼女は意図が伝わったようで良かったと、口元に笑みを浮かべる。


「さて、それじゃあ、団長のハンスも帰ってきたことだし、話し合いを始めましょうか」

「ま、待ってくれ、クラウディア。話し合いとはなんだい?」

「それを今から説明するのよ」

「重要な話なんだね?」

「ええ。このためにわざわざ全員を集めるくらいにはね」


 ハンスは団員たちの顔を見渡す。誰もが見知った顔ばかり。一人として欠員はいない。


「これからするのは【不死身の髑髏団】の未来に関わる話よ…………」

「未来……つまりは経営に関する相談がしたいと」

「そういうこと。特に【不死身の髑髏団】の業績悪化。この問題はすぐにでも解決しないといけないわ」


 クラウディアの言葉に待っていましたとばかりに団員たちは彼女に詰め寄る。彼らの中で業績悪化の原因は既に答えが出ていたからだ。


「業績悪化の原因なら明らかだ」

「【不死身の髑髏団】全員が同じ考えを持っている」

「クラウディア、あんたの経営が最悪なせいで業績が悪化したんだ」


 団員たちは思いをぶつけるように言葉を投げかける。そのすべてがクラウディアへの非難だったが、彼女は涼しい顔でそれを受け流した。


「私の経営に問題があったか……責任転嫁もいいところね」

「クラウディア、僕も君が悪いと思うよ」


 ハンスは団長としてクラウディアと対峙する。


「私のどこが駄目だと?」

「色々あるよ。でも特に駄目なのは、ダンジョンの入場制限だ。あれだけはやっちゃ駄目だった」

「嫌いな相手を排除して何が悪いのかしら?」

「君はその嫌いな相手が広すぎるんだ。特に魔人の入場を無条件に拒絶するなんて……巷では差別ダンジョンだと馬鹿にされているんだよ」

「あらそう。言わせておきたい人に言わせておけばいいわ」

「君はそれでいいのかい?」

「いいのよ。それに魔人排斥は意味ある行為よ。これによって人間相手に付加価値を提供できるのだから」


 クラウディアは反省の意を示すことなく、ただひたすらに自分が正しいという態度を貫き通す。団員たちの非難の言葉は右から左へと流れていった。


「さて、あなたたちの戯言は終わったようね。なら次は私の番。【不死身の髑髏団】の業績悪化は売り上げに対してコストが大きいことが原因よ」

「コスト……でも僕たちはつつましい暮らしを心掛けているよ」

「でもね大きなコストがあるの。それは人件費よ」

「人件費……まさかクラウディア……」

「私はリストラを断行することに決めたの」

「そ、それだけは駄目だ!」

「駄目なものですか。私が経営者なのよ。決定権も私が握っている。そしてここにリストラ対象のリストを用意したわ。こいつらはいらないので、明日から無職です。精々頑張ってね」


 クラウディアがリストラの対象者名簿をハンスに手渡す。そこには彼女に強く反発する人間とすべての魔人の名前が記されていた。中には創設期から【不死身の髑髏団】を支えてくれた功労者まで含まれている。


「クラウディア、君は……」

「喜びなさい。これで業績は回復するわ。私の手柄にもなるし、お互いに喜ばしい結果が得られるわね」

「ぼ、僕は……」

「どうかしたの、ハンス? 震えちゃって可愛らしいわね」

「僕は君のことを許さないと決めた!!」


 ハンスは怒りのままに詠唱を唱える。第二世代の闇魔法。すべてを飲み込む黒い炎が彼の手の平に灯る。


「クラウディア、謝るなら今の内だよ」

「謝るはずないでしょ」

「そうかい。残念だ」


 ハンスは黒い炎を弾丸のように発射する。目にも止まらぬ速度で放たれた禍々しい炎は、クラウディアを包み込んだ。


「みんな、すまない。これで僕は犯罪者だ」

「団長……」

「でも悔いはない。みんなを守れたのだから――ッ」


 ハンスが言い終える前に、黒い炎に包まれたクラウディアが、彼の首をがっしりと掴む。黒い炎の中で彼女はクスクスと笑っている。


「ク、クラウディア、なぜ生きて……」

「あら、私は炎の勇者なのよ。この程度の火力で死ぬはずがないでしょ。それよりも炎を解除しないと、あなた、自分の仲間を殺すことになるわよ」

「ぐっ」


 クラウディアはハンスを捉えている手とは反対の手で、団員の首をガッシリと掴む。黒い炎が仲間を焼く。彼はすぐさま魔法の発動を停止した。炎に包まれた人の肉の香りが、建物の中に充満する。


「武力行使が失敗して残念だったわね。でも冷静に考えれば分かるでしょ。私は勇者。勝てるはずがない。本当、お馬鹿さんね」


 クラウディアは禍々しい笑みを浮かべると、【不死身の髑髏団】の拠点を後にする。その背中を見つめながら、悔しさの涙を零すのだった。



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