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第四章 ~『不死者のダンジョン』~


 クラウディアに追い返されたアークライズたちは、ハンスと共に【灰色の猫団】の拠点へと戻っていた。頭が痛くなるような展開に、団員たちの顔はどんよりと曇っている。


「クラウディア、会うたびに面倒な奴になるな」

「すいません。僕のせいです……」

「ハンスは何も悪くないさ。問題なのはあの女だ」


 アークライズがハンスに頭を上げるように促すと、彼は悔しさで唇を噛みながら、顔を上げた。


「私にもっと力があれば……ッ」

「気にするな。それよりもこれからどうするかだな」

「アーク様、他のBランクダンジョンに挑戦するのはどうでしょうか?」


 【不死者のダンジョン】は数あるBランクダンジョンの一つでしかない。クラリスの提案は正論のように思えたが、その意見に対しマイアが首を横に振る。


「Bランクダンジョンの中で【不死者のダンジョン】は突出してアンデッドの数が多いダンジョンなんです。サラちゃんの対アンデッド用の光魔法を活かせることを考えると、他のダンジョンでは成功率はガクッと落ちてしまいます」

「ですがクラウディア様がいらっしゃる以上、どうしようもありませんよ」

「いいや、答えを出すのはまだ早い。まずは情報を集めてからだ。そのためにハンスにも来てもらったわけだからな」

「僕にできることならなんなりと」

「ならクラウディアとの関係を聞かせてくれ」


 ハンスは【不死身の髑髏団】の団員だ。当然内部事情にも詳しいはずである。アークライズは銀行から出向しているだけのクラウディアが経営権を握った秘密に不穏な空気を感じ取っていた。


「分かりました。すべてをお話します。僕はハンス。【不死身の髑髏団】の団長です」

「団長なのか……」

「驚かれましたか?」

「まぁな。だが調査した団長の名前と違うような……」

「その団長とはきっと先代ですね……先代の団長はクラウディアに追放されてしまい、急遽、副団長だった僕が団長に昇格したのですよ」

「驚いた。まさか団長を追放できるような権力をクラウディアが握っていると思わなかった」

「ふふふ、これもすべて私が不甲斐ないせいですよ」


 ハンスは乾いた笑みを浮かべると、昔を思い出すように遠い目で虚空を見つめた。


「クラウディアとの関係も最初はこうではありませんでした。銀行員と冒険者。互いに協力し合う、良きパートナーでした」

「それがなぜ関係が悪化したんだ?」

「【不死身の髑髏団】の業績悪化が原因です」

「業績悪化か……だが【不死身の髑髏団】の評判は良好だと聞いだが……」


 【不死者のダンジョン】を攻略するにあたり、管理している【不死身の髑髏団】についてマイアが調査していた。その調べによると、Bランクの冒険団に認定される実力者揃いのチームだった。


「冒険者業は儲かっていたのですが、副業のダンジョン経営が上手くいかなかったんです」

「ダンジョン経営か……【不死者のダンジョン】は冒険者にとって随分と優良なダンジョンだったらしいからな」


 【不死者のダンジョン】はBランクダンジョンの中でも挑戦料が安いことと、魔人でも人間でも分け隔てなく挑戦できることが売りだった。そしてそれをハンスは誇りに感じていた。


「僕は大勢の人にダンジョンを楽しんでもらいたい。たとえ業績が悪化しても、その信念は曲げたくなかったんです」

「その信念がクラウディアを怒らせたということか」

「はい。クラウディアは業績を悪化させていく【不死身の髑髏団】に我慢できなくなったのか、融資したお金を引き上げないことを条件に我々の経営権を奪っていきました。その結果、安価で有名な【不死者のダンジョン】はBランクの中でも高額ダンジョンの一つに仲間入りしました」

「なるほど。それが経営権を奪われた経緯か……しかしまだ何とかなるな」

「何とかなるのですか!?」

「こう見えても俺はリバ領の領主であり、リバ銀行の頭取だからな。手はあるさ」

「リバ領の領主! ま、まさか、メルシアナ家の……ッ」


 アークライズがリバ領の領主、つまりはメルシアナ家の人間だと知り、ハンスは目を見開いて驚く。


「クラウディアの弟なんですね。ただ彼女とはあまり似ていませんね」

「最高の誉め言葉をありがとう。そして俺がただの十歳ではないことが理解できたな?」

「それはもう。というより最初から気づいていました……あなたは姿形こそ子供ですが、発する威厳はまるで老騎士のようですから」

「ははは、老騎士か。当たらずも遠からずだな」


 アークライズは時間停滞空間で百年以上の歳月を過ごしている。人間の寿命が約百年であるとするならば、彼は誰よりも年を重ねていた。


「アークさん、あなたが権力者だということは分かりました。しかしクラウディアに経営権を握られているんですよ。それを奪い返す方法があるんですか?」

「ある」

「まさか……そんな手段あるはずが……」

「クラウディアが経営権を握っているのは、金を貸しているからだ。つまり借金さえ返せば、経営権を奪い返せる」

「ですがどうやって借金を返せば……」

「【不死者のダンジョン】は尖った特徴を持つ素晴らしいダンジョンだ。収益性も見込めるし、投資する価値もある。業績悪化しているリバ銀行でも、十分に融資の価値ありと判断が下るだろう」

「リバ銀行が助けてくれるんですか!?」

「ああ。ただしクラウディアと俺はライバル関係だ。横から顧客を奪われたとなれば、クラウディアとの全面戦争になる。その覚悟はあるか?」

「僕は……」


 ハンスはアークライズの提案にゴクリと息を呑むと、視線を宙に泳がせる。そして彼の中で結論が出たのか、アークライズを見据える。


「止めておきます。僕は争いが嫌いだ。それに何よりかつては仲間だったクラウディアと揉めたくない。和解の道を探ってみます」


 ハンスはそう言い残すと、一礼して【灰色の猫団】の拠点を後にする。その背中をアークライズは黙って見送った。


「アーク様、よろしいのですか? ネギを背負った鴨が帰っちゃいますけど……」

「俺を詐欺師みたいに表現するの止めてくれない!?」

「ですが本当にハンス様を帰らせてもよろしいのですか?」

「いいさ。あいつは必ず俺に縋ってくることになるからな」

「何か算段があるのですね」

「な~に、ただの付き合いの長さの違いさ」

「付き合いの長さ?」

「俺はクラウディアのゲスさを良く理解しているが、ハンスはまだクラウディアを信じている。その違いさ」


 アークライズは笑みを浮かべる。彼の頭の中にはゴールまでの道筋が既に浮かんでいた。



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