第四章 ~『クラウディアの復讐』~
【不死者のダンジョン】を攻略すると決めたアークライズたちは、【灰色の猫団】の拠点を後にし、ダンジョンのある町はずれの沼地へと向かう。
どんよりとした雰囲気に包まれる沼地を進むと、突如洞窟が現れる。それこそ【不死者のダンジョン】だった。洞窟の隣には窓から明かりの漏れる小屋がポツリと立っていた。
「あの小屋にいる管理者がいるはずだ」
ダンジョンには管理者がおり、冒険者は管理者に入場料を支払うことでダンジョンに挑戦することができる。逆に言えばお金がなければ、ダンジョンに挑むことさえできないのだ。
「【不死者のダンジョン】に挑戦したいんだが……」
アークライズは小屋の扉を開けて、そこにいるはずの管理者を探す。しかしそこには彼の予想もしていなかった人物がいた。アークライズの宿敵クラウディアである。
「クラウディア、どうしてここに?」
「どうしてですって、そんなの決まっているじゃない。あなたに復讐するためよ」
「俺に復讐か……まさか自分の不注意で魔道具の権利を購入できなかったことを怒っているのか?」
「な、なにが不注意よ。あんなの詐欺じゃない!」
「詐欺も何も。俺は売却する権利書のリストを確認しないでいいのかと聞いただろ。確認しないお前が悪い」
「ぐっ……まぁいいわ。今回こそは私の勝利で終わるんだから」
「勝利か……どうするというんだ?」
「私は【不死身の髑髏団】という冒険団の経営権を握っているの。そして【不死者のダンジョン】は【不死身の髑髏団】の持ち物なの。ここまで言えば分かるわね。つまりダンジョンへの入場を許可するかどうかは私が決められるの」
「クラウディア、お前……」
「なになに、悔しくて頭に来たかしら? そうよね、あなた、まだ十歳だものね。いいのよ、十分に悔し涙を流しなさい」
「俺たちが来るまで待ち続けていたのか?」
「うっ!」
「アーク様、クラウディア様が泣いちゃいますから、あんまり虐めちゃ駄目ですよ」
「あんまり私を馬鹿にすると許さないわよ!」
クラウディアは小屋に響き渡るような大声で叫ぶ。いまにでも腰から剣を抜きそうな見幕だった。
「気になることがあるんだが、どうして俺たちがここに来ると知ったんだ?」
「【灰色の猫団】が【不死者のダンジョン】に挑戦するための聞き込み調査をしていたでしょ。それが私の情報網にかかったのよ」
「だが俺たちがいつここに来るかは分からないだろ?」
「そうよ。だから一週間、毎日あなたたちが来るのを待ったわ。早く来ないのかとイライラをどれだけ貯めこんだことやら……」
「……クラウディア、お前、暇人だな」
「暇なんかじゃないわ。忙しくても、あなたへの復讐を成し遂げたかったのよ。私に敵対する奴は許さない。どれだけの時間をかけても必ず潰してやるわ」
クラウディアはアークライズたちのダンジョン攻略を認める気はないと、強気な態度を貫く。彼は私怨に満ちた彼女の行動に呆れ、小さく溜息を吐く。するとそれに呼応するように小屋の扉が勢いよく開かれた。
「クラウディア、もう止めてくれ」
「ハンス……」
小屋に飛び込んできたのは赤髪の青年だった。悪趣味な髑髏の外套を羽織り、腕に包帯を巻いている。
「クラウディア、僕たちはお金のない人でも挑めるダンジョンを作りたいと【不死者のダンジョン】を経営していたんだ。こんな挑戦者を拒絶するような真似はしちゃいけないよ」
「ハンス、もしかしてあなた、私に逆らうつもり?」
「そ、それは……」
「逆らいたいならいつでも言ってね。私、こうみえても追放は得意なの。【不死身の髑髏団】から追い出してあげるから」
「ぐっ……」
「さぁ、帰って貰おうかしら……アーク、あなたも私に歯向かったこと、後悔するのね」
クラウディアは勝利の哄笑を漏らす。対照的にアークライズは面倒なことになったと、ため息を漏らすのだった。