表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/49

第三章 ~『ユリウスの失望』~


 魔道具の権利書を手に入れたクラウディアは馬を走らせ、地方都市リバを後にする。焦るようにメルシアナ家の邸宅へと帰宅した彼女は、手にした権利書をギュッと握りしめ、頬を緩ませる。


「これでお父様は私を認めてくれるはず」


 クラウディアが当主の座を手に入れるためには、父親であるユリウスに自分の価値を認めさせる必要があった。


「メルシアナ家の連中はみんな私のことを馬鹿にする。私はこんなにも優れているのに!」


 愛人の娘だと嘲笑され、序列も十歳のアークより下に設定されている。この不遇な待遇を脱するための切り札こそ、【灰色の猫団】から奪い取った魔道具の権利書だった。


「この権利書を欲しがっているのはメルシアナ銀行の重要取引先。いまからお父様の喜ぶ姿が目に浮かぶわ」


 クラウディアは屋敷の中に飛び込むように帰宅すると、使用人たちが一斉に頭を下げる。彼女は傍にいた使用人にユリウスの居場所を訊ね、彼のいるダイニングへと向かった。


「お父様、ただいま戻りました」

「クラウディアか……」


 ユリウスはクラウディアを認めると、食事のためのナイフとフォークを止め、嫌悪を含ませた表情で彼女を見据える。


「私に何か用か?」

「お父様の欲するモノを手に入れました。これが魔道具の権利書です」


 クラウディアは魔道具の権利書を手渡す。ユリウスは冷たい表情のまま、それらの書類を受け取ると、ペラペラと中身を確認する。


「どうですか、お父様? あなたが無能だと馬鹿にした娘は、きちんと成果を出せる人間なのです」

「成果か……お笑い種だな」

「なっ!」


 クラウディアはユリウスの予想外の反応に、目を見開く。彼女は称賛の言葉を期待していただけに、その反応は予想外だった。


「な、なぜですか? 私の何がいけないのですか?」

「クラウディア、お前は権利書の中身を確認したのか?」

「いえ、ですが【灰色の猫団】の保有している権利はすべて頭の中に入っています」

「やられたな。重要な魔道具の権利が抜かれている」

「え……」


 クラウディアは信じられないと、権利書に目を通す。その中に彼女の欲していた権利は一つも含まれていなかった。


「え、え、どういうこと……」

「どうやら騙されたようだな」

「ぐっ……アークゥッッ!!」


 クラウディアは騙されたことを知り、怨嗟の唸り声を漏らす。そんな彼女とは対照的にユリウスは嬉しそうに笑みを浮かべた。


「アークにやられたのか?」

「…………ッ」


 クラウディアは失言だったと額に玉の汗を浮かべる。


「アークはお前の思慮が浅い性格を利用したようだな。さすがは俺の息子だ。上手く立ち回るものだ」

「うっ……」

「それに比べてお前は……もしお前が娘でなければ、メルシアナ家から追放しているところだ」

「うぅ……ぅっ……」


 クラウディアは目尻に涙を浮かべて、ダイニングを後にする。彼女は瞳を濡らしながらも、目は死んでいない。怨嗟に満ちた表情を浮かべている。


「アークッ! あなたのことを絶対に許さない!」


 クラウディアはメルシアナ家の屋敷に響き渡る大声で叫ぶ。その負け惜しみが彼女の評価をさらに落とすのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


cont_access.php?citi_cont_id=774287868&s ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ