第三章 ~『クラウディアに仕込んだ罠』~
アークライズはクラウディアを【灰色の猫団】の拠点から追い出す。二人の少女は自分でも気づかないままに涙を浮かべ、彼をギュッと抱きしめていた。
「ありがとうございます、アークさん」
「とても格好良かったですよ、アークくん」
二人の少女は嬉しそうに耳をピクピクと動かす。抱きしめられたアークライズは「暑苦しい」と思いながらも、喜んで貰えたのなら良かったと、頬を緩めていた。
「アークくんが子供じゃなければ、私、あなたに惚れていたかも」
「マイアさんもですか。私ももう少し年上なら婚約を申し込むところでした」
「残念だが俺はどちらとも結婚する気はない。それにそろそろ俺から離れてくれ。これからについて話そう」
アークライズは二人を引き剥がすと、椅子に腰かける。続くように二人の少女も、彼の両隣の椅子に腰かけた。
「さて、これからの動きだが、俺が宣戦布告したことで、クラウディアは表立って動き始めるはずだ」
「ア、アークくん、本当にあんな喧嘩を売るようなことをして良かったんですか?」
「いいさ、あいつは喧嘩を売るくらいがちょうどいいんだ」
「でも怒らせたら……相手はメルシアナ家のお嬢様ですよ」
「忘れたのか? 俺はメルシアナ家の御曹司だぞ」
「あ、そうでしたね」
「だからメルシアナ家からの妨害は気にしなくていい。それにクラウディアは、怒ると視野が狭くなるんだ。怒れば怒るほど馬鹿になるから、相手をするなら、常に怒らせておいた方が良い」
「さすがは姉弟。なんでも知っているんですね」
「知りたくはなかったけどな」
アークライズはクラウディアと共に冒険者をしていた頃を思い出す。彼女は彼のことを嫌っていたが、それでも一緒の冒険団なのだから、話す機会も多々あった。彼女の人間性について、彼は自分でも意識しないままに詳しくなっていた。
「アークくん、クラウディアさんと戦うにしてもどうやって戦うのですか?」
「色々と策はあるが、今回は相手の狙いも明確だ。シンプルに解決できる」
「ど、どんな方法で解決するんですか!?」
「簡単さ。相手の狙いがサラの魔道具の権利なら、逆らわずに売ってやればいいのさ」
「アークくん、それは……」
マイアはサラの方をちらりと一瞥すると、ゆっくりと首を横に振る。
「アークくん、魔道具の権利は魔法使いにとって大切なものなんです。だから――」
「マイアさん、いいの」
「サラちゃん……」
「私は魔道具の権利より、マイアさんとの楽しく過ごせる毎日が欲しい」
「で、でも、【灰色の猫団】の活動資金はサラちゃん魔道具の権利料が頼りなの。もし権利を売れば、冒険者として活動することができなくなるわ」
「そこで俺の出番だ。冒険団として食っていけるようになるまでの間、活動資金を俺が援助してやるさ」
「アークさん……」
「それに上手く罠に嵌めれば、大事な魔道具の権利を売らなくて済むかもしれない」
「ほ、本当ですか……」
「クラウディアの性格が昔から変わっていなければ勝算はある。楽しみにしていろ」
アークライズはクラウディアの性格が変わらないことを祈る。彼の口元には小さな笑みが浮かんでいた。