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第一章 ~『修行を終えた最強賢者』~


 アークライズが魔法研究を開始してから現実世界での十年に相当する時間を過ごした頃、

彼は時間停滞空間から脱出するための方法に結論を出した。


「時間停滞空間から脱出するにはやはりあの方法しかないか……」


 アークライズは時間停滞空間から脱出する方法について考えた時、最初に浮かんだのは空間そのものを破壊することだった。しかし家を丸ごと焼くような炎魔法でも破壊することができないのだ。徒労に終わる可能性が高い。


 次に試したのは外に連絡する手段だ。アークライズは曲がりなりにも賢者であるため、知り合いの魔法使いを何人も抱えている。彼らに宝玉を調べて貰うよう伝えれば脱出できる手掛かりを得られるかもしれない。そんな風にも考えたが、そもそも外への連絡ができなく、もし連絡に成功したとしても、勇者であるクラウディアを相手に戦えるだけの強者はいないため却下した。


 出鼻を挫かれたアークライズは時間停滞空間から脱出する手掛かりを得るために、空間の特性を調査した。そして一つの事実に辿り着く。この時間停滞空間は肉体の時間を停滞させて閉じ込める力を有しているが、魂まで干渉することができないことだ。


「まさか俺が金融魔導士になる日がくるなんてな」


 アークライズが選んだ時間停滞空間から脱出する方法は、金融魔導士が使う転生魔法を利用するというものだ。転生魔法は現在の肉体を捨て、魂だけを外にいる第三者へと移動するため、この空間から脱出することができる。


「それにしても金融魔導士という連中は面白いな。転生魔法なんてものまで生み出すんだからな」


 天才と称された金融魔導士が残した転生魔法は、彼のいつまでも働いていたいという願望を叶えるために生み出されたものだった。


「賢者の職業を維持したまま、金融魔導士の職を極める。ただクラウディアと違い、俺には無限に近い時間がある」


 職業を二つ持つ場合、経験値が分散されるため、狭くて広い能力値へと成長する。しかしこれは時間が有限だからこそだ。無限に等しい時間が与えられたアークライズにとって、成長が遅いことは問題にならない。


「待っていろよ、クラウディア! 俺は一流の金融魔導士になってやる」


 アークライズは修行を開始する。二十年、三十年と時が過ぎ、そして百年の時間が経過した。ただひたすらに修練を積む毎日は、彼を世界最強の男へと成長させていた。


「俺は人を遥かに超えた存在へと到達した」


 アークライズは気まぐれに炎魔法を放つ。手から放たれた炎は地平線の彼方まで燃やし尽くしていた。


「第二世代の炎魔法でも家を丸ごと焼くだけの力はあったが、いまなら街を丸ごと火だるまにすることも可能だな。第四世代、もしくは第五世代の魔法といったところか」


 これほど強大な力を有した賢者は、歴史を振り返っても一人もいない。いまなら彼を追放したクラウディアを指一本で倒すことさえ可能だ。


「さらに金融魔法。これも素晴らしい力だ」


 アークライズは土魔法で地面を覆うと、金融魔法【植物成長】の力により、視界一杯に花を咲かせる。


「この花を売るだけで当分食うには困らない。本当、金融魔法は金を稼ぐことに特化しているな。これだけの力があれば、なんだってできる気がする」


 アークライズは金融魔導士としても超一流の力を手に入れていた。人を超えた金融魔法を自由自在に扱える彼は、打ち出の小槌を手に入れたに等しかった。


「力と金。両方を手に入れたが……なんだか空しいな」


 時間停滞空間に送られた当初は、クラウディアへの復讐心に取りつかれ、ただひたすらに魔法研究を進めた。


 しかし長い年月は人の感情を風化させる。百年も経てば、クラウディアへの復讐心は殺してやりたい怨敵から、ただの嫌いな奴にまで変化していた。


「この空間から脱出できたら復讐してやりたいと誓ったが、いまはそれよりも美味しいご飯が食べたい」


 魔物の肉は固くてゴムのようだった。霜降り肉や、ピチピチと跳ねる鮮魚を想像すると、口の中に涎が満ちる。


「次に大きな湯船だ。肩まで温かいお湯に浸かりたいな」


 炎魔法と水魔法を組み合わせてお湯を作り出すことはできるが、できることはそれをシャワーのように浴びるだけ。娯楽というより義務のように、身体を清めることしかできていない。


「ここから脱出できたら、田舎でのんびりと過ごしたいなぁ。毎日美味しいものを食べて、気の合う友人と酒を突き交わし、大騒ぎするんだ……」


 アークライズは百年の間、誰とも話していないため、人が恋しくなっていた。くだらない話で笑いあう日々を思い浮かべ、口元に笑みを浮かべた。


「さて準備は整ったんだ。長年連れ添った肉体を捨てることになるが、魂を別の肉体に映す転生魔法を使う時が来た。バイバイ、イケメンな俺。待っていろよ、新しい俺」


 アークライズはマジマジと自分の身体を見つめる。この身体が見納めだと思うと、感慨深い感情が湧き出てくる。


「魔力や魔法の知識は魂と紐づいているから、実力はそのままで外に出ることができる。転生先を選べないのが難点だがな」


 転生魔法は誰に転生するのか対象を選択することができないため、男になるか女になるかさえも分からない。もしかすると赤ん坊や老人の可能性さえあった。


「百年だ。長い毎日だった。脱出できたらまずは風呂に入る。次にうまい飯を食う。待っていろ、スローライフ!」


 アークライズは時間停滞空間から脱出するために転生魔法を発動させる。彼の第二の人生が始まろうとしていた。





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