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第三章 ~『クラウディアとの戦い』~


「なぜここにアークがいるのかしら!?」


 クラウディアは敵愾心を含んだ声で訊ねる。


(どうやら生前のアークとも仲が悪かったみたいだな)


 アークライズの追放された恨みは長い年月により薄れていた。とはいえ嫌悪感だけはしっかりと残り続けている。自然と眉が釣りあがっていた。


「俺がどこにいようとクラウディアに何か関係があるのか?」

「関係ないわ。普通ならね。でも【灰色の猫団】にいるのなら話が違う。私はこの冒険団を担当している銀行員だもの」

「銀行員ね……騙して権利を奪い取ろうとする詐欺師の間違いじゃないのか?」

「事情は聞いているわけね……で、あなたはどういう立ち位置なの?」

「秘密……でもいいが、折角だから教えてやる。俺は銀行員として【灰色の猫団】を助けることに決めた。仲良くしようぜ」

「ほ、本気?」

「本気も本気だ」

「だ、駄目よ。駄目! そんなこと許されないわ」

「なぜだ?」

「なぜって、【灰色の猫団】は私が先に見つけた金蔓なのよ。後からやってきたあなたに、首を突っ込む権利はないわ」

「相変わらず正直というか、本音を隠すのが下手というか……」

「いまさら隠しても仕方がないでしょ」


 クラウディアの金蔓という言葉は【灰色の猫団】の団員の心を抉る。マイアたちは露骨に嫌悪の表情をクラウディアへと向けた。


「私たちは【灰色の猫団】をあなたに譲るつもりはありません」

「マイアちゃんの言う通りです」

「だそうだ」

「魔人の分際で生意気ね……」


 クラウディアは【灰色の猫団】の団員を魔人だと下に見ていた。彼女もまた嫌悪で眉を吊り上げる。


「クラウディアの計画は俺が阻止する」

「あなたにそれができるかしら? 聞いたわよ、あなた、第一世代の魔法さえ禄に使えない無能なんでしょ」

「それはいつの話だ。言っておくが、今の俺はお前よりも強い」

「へぇ~、それは楽しみ。でも私、こう見えて追放するのは得意なの。あなたを必ず追い出してあげるわ」

「追放が得意ねぇ……」


 アークライズの脳裏に忘れたはずの過去が浮かび上がってくる。長年信じた仲間から裏切られた怒りが彼の拳を握らせた。


「クラウディア、お前は過去にも賢者を一人追放しているよな」

「追放? 馬鹿言わないで。アークライズは自分から出ていったのよ」

「自分からか。時間停滞空間に閉じ込めたくせに、よくそんなことが口にできるな」

「……なぜあなたがそれを?」

「語るに落ちたな。その発言は追放したことを認めたようなものだぞ」

「…………ッ」


 クラウディアは額から汗を流す。そしてスッと息を吐くと、意を決したように腰から剣を抜いた。


「あなたに黙っていてとお願いしても無駄でしょうし、口を封じるしかなさそうね」

「短絡的だな。それに俺は言いふらしたりなんてしない。そもそも証拠がないからな」

「だとしてもあなたは私の障害になると確信したわ。ここで死んで貰えるかしら」

「……メルシアナ家の御曹司である俺を殺して無事で済むと思うのか?」

「思わないわ。だからあなたを殺したら、死体を骨すら残さずに消し炭にしてあげる。証拠は何一つ残らないわ」

「クククッ、それが本当に可能かは試してみるといい」

「なら遠慮なく」


 クラウディアはアークライズとの間合いを詰めると剣を振り下ろした。魔物を一刀で両断する剛剣が斬り下ろされるが、彼は涼しい表情を浮かべたまま、ただ立ち尽くしていた。


「バイバイ、あの世で元気でね」

「残念だよ、クラウディア。俺の実力も分からないなんてな」


 アークライズは余裕を持った動作で剣を躱すと、クラウディアの頭をガッシリと掴む。強化された指先が彼女の頭蓋骨にメキメキと沈んでいく。


「うぐっ……は、離しなさい……ッ」

「駄目」

「うぅ……な、なんなのよ、あなた……」

「弟だよ。知っているだろ」

「こ、こんな、馬鹿げた力どうやって……?」

「それよりも随分と我慢強いな」

「あ、あなたの力なんかで……」

「ならもっと強くしても耐えられそうだな」


 アークライズは指先に込める力を増やす。骨がギシギシと軋む音が響いた。


「や、やめて、わ、私が悪かったわ、だ、だから、や、止めて……ッ」


 クラウディアは痛みに耐えられず剣を落とす。口からは苦悶の声を漏らしていた。失神するギリギリの苦痛を与えられ、彼女は涙を零していた。


「お仕置きはこれくらいにしておいてやる」


 アークライズはクラウディアの頭から手を放す。崩れ落ちる彼女は恐怖の色を滲ませた表情で彼を見上げる。


「ば、化け物……」

「弟に対して失礼だな。それに襲ってきたのはクラウディアの方からだ。恨み言は聞かないからな」


 クラウディアはガタガタと歯を鳴らしながらも、何とか立ち上がる。瞳には恐怖の色が残ったままだが、それでも瞳の奥には闘志の炎がメラメラと燃えていた。


「いままで素人を騙すだけの遊びで退屈していただろ。今度からは俺が相手してやるよ」

「……私は絶対に負けない。あなたを倒して、私の優秀さを証明してみせるわ」


 アークライズとクラウディアの視線が交わる。銀行員として戦いの火蓋が切って落とされたのだった。



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