第三章 ~『英雄の脅迫』~
銀行の外に飛び出たアークライズたちは、サラの姿を探すも、彼女が人混みに紛れたことで見失ってしまう。
「サラさんはどこへ行ったのでしょうか?」
「遠くへは行っていないはずだが」
アークライズたちは周囲をキョロキョロと視線を巡らせるが、サラを見つけることはできない。
「私はあちらを探してきますね」
「頼んだ」
クラリスがアークライズの元を離れる。彼はまずどこから探そうかと頭を悩ませていると、銀行からニックが飛び出してくる。
「ニック、お前……」
「人を探すなら一人でも多い方が良いでしょう」
「……お前、案外いい奴だな。もしかすると俺はお前のことを誤解していたかもしれないな」
「ふふふ、これで私の給料アップは間違いなし。本当、貴族のお坊ちゃんはチョロいな~」
「お~い、心の声が漏れているぞ……」
アークライズが呆れていると、再び女性の悲鳴が耳に届く。その声にいち早く反応したのはニックだった。
「声は路地裏の方からですね……様子を見てきますね」
ニックが路地裏の様子を確認すると、駆け足でアークライズの元へと戻ってくる。
「どうだった?」
「問題ありません。襲われているのは魔人の娘でした。見なかったことにしましょう」
「いや、問題あるだろ……俺が助けてくる」
アークライズはニックを尻目に、襲われている娘のいる路地裏へと急ぐ。夕暮れに照らされ、一人の茶髪の少女が屈強な男に絡まれていた。少女はサラと同じく犬型の魔物の血が混じっているのか、獣耳と鋭い犬歯が特徴的だった。
「そこで何をしている?」
「……痛い目に遭いたくなければ消えろ」
「ははは、分かりやすいな」
男の高圧的な態度に、アークライズは少女の味方をすることに決める。彼女に視線を移すと、問うようにジッと見つめる。
「あ、あの……」
「助けて欲しいか?」
「は、はい。助けてください!」
「分かった」
アークライズは第二世代の風魔法を発動させる。突風が路地裏に吹き抜け、男は成すすべもなく吹き飛ばされる。男の乾いた悲鳴は木霊し、風に乗せられて姿が見えなくなる。
「す、すごい魔法……い、いえ、それよりも、助けていただき、ありがとうございます。私はマイアと申します」
「俺はアークだ。よろしくな」
「こちらこそよろしくお願いします。アークくんがいなければ危ないところでした」
「アークくんか……」
「あれ? 年下だと思ったのですが、違いましたか?」
「まぁいいや。それよりも何が起きたのか教えてくれないか?」
「実は私、ある人から嫌がらせを受けているんです」
「ある人?」
「信じて貰えないと思いますよ」
「もしかして権力者なのか?」
「権力者……それもそうなのですが、あの人はこの国の英雄なのです」
「英雄か……まさか……それって勇者だったりしないよな?」
「どうして分かるのですか!?」
「やっぱりか」
「そうなんです。炎の勇者クラウディア様が率いる【黄金の獅子団】に、私の所属する【灰色の猫団】が脅されているんです」
アークライズは運命ともいえる再会の兆しに、複雑な表情を浮かべる。この時の彼は、この出会いが銀行員としての人生に大きな影響を与えるとは想像さえしていなかった。




