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第三章 ~『クラウディアの去った銀行』~


 アークライズは流れゆく雲を眺めながら、新しい産業について思考を巡らせる。領の新しい収入源を生み出すことは容易くない。それは彼も十分に理解していることだった。


「さてどうしたものかな……」

「アーク様らしくないですね。いつものあなたなら、すぐにでも結果を出すではありませんか」

「それほどまでに新しい製品を生み出すことは大変なんだ……」

「ならリバ領出身のサラさんにアドバイスを頂いては如何ですか?」

「わ、私にですか!?」


 サラは自分を指名されたことに驚き、目を見開く。


「無理です。無理、無理。私なんかでは……」

「サラさんはリバ領での生活も長いのですよね。それなら地元民から愛されている隠れた魅力を何か知っているのでは?」

「隠れた魅力ですか……リバ領は海産物以外、駄目駄目ですからね……小麦も駄目、葡萄も駄目……地元の女の子たちの間だと貝殻のアクセサリーが流行っていましたが、既に観光客向けの商品として販売されていますからね」

「やはり簡単に名案は浮かばないですね」


 クラリスは小さくため息を吐く。アークライズは二人の意見に耳を傾けつつ、自分なりの考えを頭の中でまとめていた。


「新商品か……やはり俺たちが考えるのは時間の無駄だな」

「アーク様、もう諦めるのですか」

「いいや。諦めない。やり方を変えるのさ」

「やり方を?」

「リバ領には少なからず人がいるし、観光地ということもあり土産用の製品を作るための職人も多い。ならその職人の中には素晴らしい商品を生み出せる者もいるはずだ」

「で、ですが、現実は……」

「そう。人はいるのに上手くいっていない。なぜか。その理由は簡単だ。金がないからだ」


 新しい商品を生み出すには、アイデアだけでも技術だけでも難しい。人件費に材料費、そして商品を宣伝するための広告費が必要になる。


「俺は金融魔導士、すなわち銀行員だ。金の血脈ともいえる銀行を立て直せば、自然と金の巡りも良くなり、名産品も生まれるはずだ」

「それは一理ありますね……ですがリバ銀行を再建するのは大変ですよ」

「どう大変なんだ?」

「まずライバル銀行の存在です」

「リバ銀行以外にも銀行があるのか?」

「他の領に本拠地がある支店ばかりですがね。その銀行に預金の大半を奪われているのが現状です……それも当然と言えば当然で、失礼極まりないリバ銀行と、サービスの行き届いたライバル銀行、どちらを選ぶかと聞かれれば、私でさえリバ銀行を選びませんから」

「酷い話だな」

「それにクラウディア様の負の遺産も問題です」

「職員のサービス内容や取引先の数、それに何よりも印象だな」

「はい。リバ銀行は取りつぶし目前とまで噂されています。そんな銀行にお金を預けるお客様がいると思いますか?」

「いないだろうな……」


 どれだけ金利が高くても、預けたお金を失う可能性があるなら、誰も預金などしない。預けるとしたら高い金利に目がくらんだ一部の賭博師だけだ。


「そういやクラウディアがリバ銀行の頭取を追放されてから、トップが空席の状態だったんだよな。その間、誰が銀行を切り盛りしていたんだ」

「それはアーク様もご存じの人物ですよ」

「心当たりがないな……誰なんだ?」

「ニック様です。ほら、アーク様のことをガキ呼ばわりし、私を魔人だと侮蔑した男です」

「あのクズか……だがどうしてあいつが?」

「クラウディア様は魔人に対して強い差別意識を持っていました。それはニック様も同じ。

随分と気に入られていたようで、彼女が去り際に後継者として指名したそうです」

「クラウディアの奴、追放される時まで迷惑だな……」

「で、如何なさいますか?」

「ニックから現状を聞き出そう。うんざりする時間を過ごすことになるが、我慢してやるさ」

「うふふ、嫌なことから逃げない鋼の精神。それでこそアーク様です……私は我慢できなくなったら、一人で退室しますね」

「主人への忠義、どこ行った!」


 アークライズは諦観の笑みを浮かべる。クラリスも微笑まし気に小さく笑みを浮かべるのだった。



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