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幕間 ~『冒険団崩壊』~


 クラウディアたちは細い土壁の通路を進み、ダンジョンの奥へと進んでいく。薄暗い道は次第に光に包まれ、彼女たちは大きな空間へと飛び出した。


「ここがダンジョンの最下層ね」

「ボスエリアも近いと思います。気を付けていきましょう」


 ダンジョンにはボスエリアと称される場所が存在し、そこにはダンジョン最強の魔物が住んでいる。ダンジョンボスは例外なく強力で、何人もの冒険者の命を奪っている。ダンジョン探索では必要ないのであれば、ボスと接触しないように立ち回るのが常識だった。


「ダンジョンボスはどんな魔物なのかな?」

「ここは未探索ダンジョンよ。ボスに関するデータは何もないわ」

「怖い魔物だったらどうしよう……」

「私たちの今回の目的はダンジョンボスの討伐ではないわ。ボスと遭遇しないように注意して進めばいいだけよ」

「……アークライズ様なら索敵の魔法が使えたのに」


 アークライズは探索の魔法を使用し、常にダンジョンボスの位置を把握していた。その頼みの綱が冒険団から消えた。寂しさと不安がエルリアに不満の言葉を口にさせた。


「危険が皆を不安にさせていることは分かっているわ。でも私たちの目的はこのダンジョンから神秘の薬草を持って帰ること。それさえ果たせばいいの。だから不満を言わず、私に付いてきて」

「うん……」


 クラウディアたちは捜索を進め、岩陰に目的の薬草を発見する。しかし同時に問題に直面する。


「薬草の傍にいるのはドラゴンでしょうか……」


 リゼロッタは岩陰の傍で眠るドラゴンを指差す。フレイムドラゴンは赤色の鱗を持つ龍で、炎の魔法を操る強力な魔物だ。ダンジョンボスに違いないと、彼女らは確信する。


「もしドラゴンと戦闘になれば私たちだけで勝てるでしょうか……」

「分からない。でもドラゴンは寝ているし、目的の薬草もすぐそこにあるのよ。諦めるなんてできないわ」

「ですね。やりましょう」


 クラウディアたちはドラゴンを起こさないようにゆっくりと岩陰に近づく。戦闘を回避しつつ薬草が手に入る。そう確信した時だ。エルリアの腹の虫が鳴る。その音に反応したドラゴンが目を覚ました。


 ドラゴンは口を大きく開けると、炎のブレスを吐き出す。クラウディアたちはそれを咄嗟に避けるが、回避した場所は熱で溶けていた。


「クラウディア、こんな怪物に勝てるはずないよ」

「だ、大丈夫。炎には炎。私の魔法で反撃して……」


 クラウディアは第三世代の炎魔法を発動させようとする。しかし魔法は発現しない。彼女は空腹と体力の消耗により魔力が使えなくなっていた。


「魔法を使えない私たちに勝ち目なんてないよ。逃げようよ」

「で、でも!」

「エルリアさんの言う通りですわ。私たちに勝ち目はありません。早く撤退しましょう」

「で、でも、ダンジョン攻略に失敗すれば私の評価が……銀行員としてのキャリアが……」

「死んでしまっては元も子もありませんわ。逃げますわよ」


 リゼロッタがクラウディアの手を引いて走り出す。魔法が発動できず、体力も限界に近い三人は逃げるだけで精一杯だった。


「なんとか逃げ切れたね」


 幸いにもドラゴンは岩陰からクラウディアたちを追い払ったことに満足したのか、追ってくることはしなかった。ダンジョンの細い道を駆け、地上へ辿りついた三人は盛大に安堵の息を吐く。


「死ぬかと思いましたわ」

「このダンジョンを攻略するのはこりごりだね」


 エルリアとリゼロッタは無事で良かったと笑いあう。しかし【黄金の獅子団】のリーダーであるクラウディアは不満げに眉を吊り上げていた。


「私は諦めない。準備を整えたら、もう一度挑むわよ」

「私たちだけだと無理だよ」

「無理なもんですか。やるしか道はないのよ」

「な、なら、アークライズ様に戻ってもらおうよ。そしたら私、ドラゴンが相手でも頑張って戦うよ」

「アークライズはいないの。諦めなさい」

「で、でも……」

「それにアークライズは魔人なのよ。冒険団にいたら汚点になるわ。私は彼を呼び戻すのに反対よ」


 クラウディアはアークライズが【黄金の獅子団】に復帰することを否定する。しかしそれはエルリアにとって許しがたい回答だった。


「クラウディアがアークライズ様のことを嫌っているのは知っていたけど、そんな風に思っていたんだね……」

「そうよ。なにせ相手は魔人――」

「魔人だよ! でも私たちの大切な仲間でしょ。私はアークライズ様に何度も命を救われた。その恩を返すために【黄金の獅子団】にも加入したの。だからクラウディアにはもう付き合っていられない。私は冒険団を辞める。そしてアークライズ様を探し出して、新しい冒険団を作るの」

「そんな勝手な……」

「エルリアさんが【黄金の獅子団】を抜けるなら、私も辞めますわ」

「リゼロッタまで何を……」

「【黄金の獅子団】はアークライズさんがいたから成り立っていた冒険団ですわ。エルリアさんが抜けて、私とクラウディアさん二人になっては立ち行かなくなりますわ」

「そんなことやってみないと分からないじゃない」

「いいえ、分かりますわ。クラウディアさん、あなたは勇者としては優秀ですわ。ですが銀行員として、リーダーとしては、はっきり言って無能ですわ。あなたの経営能力ではいずれ行き詰まる。それならばエルリアさんと共に、アークライズさんを探す道を選択した方が賢明ですわ」


 二人の勇者はそれだけ言い残し、クラウディアの前から立ち去る。その足取りに未練はない。彼女は二人の背中を眺めていることしかできなかった。


「アークライズ!! あなたはどこまでも私の邪魔を……ッ」


 アークライズへの憎しみで、クラウディアは唇を噛みしめる。追放した男の顔が脳裏に焼き付いて離れない。


「いいわ、勇者の代わりなんていくらでもいるもの。私は私のやり方で頂点を目指す。アークライズを超える女になってみせるわ」


 クラウディアは拳を握りしめ、成りあがってみせると誓う。彼女の覚悟の炎はメラメラと燃えていた。



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