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第二章 ~『銀行の主要業務』~


 アークライズは、気絶から目を覚ましたニックに頭取室へと案内される。樫の木の机に黒塗りの椅子、頭取の威厳を強調するようなデザインの室内だった。


 そんな頭取室にあって、異形ともいえる存在に目に入る。銀髪の少女クラウディアと、添えるように人間優遇という強調文字が描かれたポスターである。


「クラウディア……」

「アーク様はクラウディア様とご姉弟でしたね。ならこのポスターもご存知なのでは?」

「知るはずないだろ、こんな悪趣味なポスター」

「悪趣味だなんてそんな……我がリバ銀行のキャンペーンポスターですよ」

「はぁ? こんなポスターばら撒いたら、客の印象が悪化するだろ」

「魔人にはそうでしょうね。ですが地方都市リバに住む大多数の人間には好印象でしたよ。僕も大好きなポスターです」


 こんなの喜ぶのはクズだけだと、小さくため息を漏らすと、椅子に腰かけ、ニックに退出するよう告げる。彼は嬉しそうに頭取室を後にした。


「アーク様、疲れていそうですね」

「クラウディアの残した問題がたくさんあると分かったからな」


 リバ銀行は前経営者のクラウディアによる経営失敗により業績が悪化していた。その一番の原因である彼女は追放されたが、それ以外の職員たちは何一つとして変化していない。問題も残されたままだった。


「リバ銀行を立ちなおすのは並大抵のことではないな」

「それほどに問題が多いのですか?」

「見えているだけでもたくさんだ。問題行動を起こす職員に、銀行の印象は最悪、客の数も少ないし、このまま進めば廃校だな」

「……頑張りすぎて無茶しないでくださいね」

「心配しなくてもほどほどに頑張るさ」


 アークライズは机の上に置かれた資料に目を通す。そこには銀行の業務に関する概要が記されていた。


「銀行員の初歩の初歩を学ぶための資料ですね。よければ私が説明しましょうか?」

「分かるのか?」

「もちろん。私はエリートメイドのクラリスお姉さんですよ。家事に炊事に銀行業務。私に苦手なものはありません」

「俺、お前のことをポンコツメイドの駄目人間だと思っていたけど訂正するよ。誰にでも特技はあるんだな」

「ふふふ、私の価値を理解できたようで何よりです……あれ? なんだか、私、馬鹿にされたような気が……」

「気にするな。さっそく銀行業務について教えてくれ」

「ではさっそく……」


 クラリスは説明のため、机の上に業務内容が記された羊皮紙を広げる。


「銀行の業務は細かいものまで含めると膨大な数になりますが、主要なものだと三種類です」

「三種類か……一つは預金だよな」

「その通りです。さすがはアーク様! お客様は銀行にお金を預けることで利子を得ることができます。子供でも知っている常識ですね」

「あれ? なんだか、俺、馬鹿にされたような……」

「そんなはずありません。私は誰よりもアーク様を尊敬しておりますから」

「それならいいが……」

「次に為替です。これは離れた場所にいる人に資金を受け渡すとき、現金を持ち歩かなくても取引できるサービスのことです。例を挙げるとアーク様がご当主様からお小遣いを頂くときに、直接会わなくても銀行を経由すれば遠隔地で受け取れるようになります。親の脛かじりをスムーズにしてくれるサービスですね」

「なんだか俺への悪意を感じるんだが……」

「気のせいです。さて最後が貸出。融資、出資ともいいます。お客様から預かっているお金を第三者に貸し出すことで、利子の差額を得るビジネスです。銀行の大事な収入源ですね」

「最近のトレンドだと冒険者への出資が流行っているよな」

「その通りです。冒険者はダンジョンを攻略するのに武器や道具を必要としますが、そのためにはお金がいります。そのお金を融通するのも銀行業務の一つです」

「貸した金の利子で銀行は儲かるということか」

「はい。そして最近だと貸し出すだけでなく、銀行がリスクを取って投資する形も流行っています」

「銀行が冒険者に金を無利子無担保で貸し出す代わりに、ダンジョンから持ち帰った成果の一部を銀行が受け取る形の出資だな」

「それ以外にも貸し出すのではなく、与えるタイプの投資も存在しています。この場合だと経営権の一部を銀行が握るケースが多いですね。そして金融商品として展開するようなパターンも見受けられます」

「金融商品?」

「金融商品は成功すれば大きな成果を得られる花形ビジネスです」

「へぇ~どんなビジネスなんだ?」

「簡単に言うなら賭博に近いですね。例えばダンジョンの攻略に金貨一枚が必要だとして、成功した場合に冒険者や銀行の取り分を除いた利益が金貨二枚だったとします。その利益が投資者に返ってくる商品のことを金融商品と呼んでいます」

「本当に賭博と変わらないな」

「だからこそ大きな利益を生み出せる商品になります」

「銀行はどこで利益を出すんだ?」

「手数料という名目で、胴元の利益を享受しています。例えば先ほどの例であれば、投資した金貨が一枚で、投資者に返金する金貨が二枚なら、銀行は投資者に返金する前に手数料として銀貨一枚は抜いています」

「なるほど。銀行が儲かるわけだ」


 金融商品はリスクを投資者に負わせ、儲けが出た場合は銀行が手数料という名目で金を徴収していく。ノーリスク、ハイリターンの都合の良いビジネスだった。


「他にも様々な投資方法、ビジネスモデルが存在します。クラウディア様もかなり特殊なタイプのビジネスを展開していましたね」

「性格は特殊といえるほどにクズだったが……どんなビジネスをしていたんだ?」

「クラウディア様は勇者として【黄金の獅子団】を運営・参加しています。自分で融資対象に出向し、利益を上げる手伝いをする。勇者という金看板を持つクラウディア様だからこそできる効果の高い投資方法ですね」

「もしかしてあいつ経営の才能があったのか?」

「いいえ、それはないかと。厳しいかもしれませんが、あの人に経営の才能はありません。それはこの銀行を見れば分かることです」

「それもそうだな」


 クラウディアは人間を優遇することで、魔人嫌いの人間にとって魅力ある銀行にしようとしたが、失敗して業績は悪化。


 クラウディアは責任を取らされ、頭取の座を追放。頭取からメルシアナ銀行の職員にまで降格させられた。


「クラウディア様は【黄金の獅子団】に所属していたアークライズ様を追放されたそうなんです。許せません……」

「最低な奴だよな」

「その気持ちはご当主様も同じようで、クラウディア様と口論になっておりました。その結果の降格です……アークライズ様がご無事だといいのですが……」

「きっと田舎でのんびりやっているさ」

「正義心が服を着て歩いているようなアークライズ様に限ってそんなことはありえません。きっと今頃、世界のどこかで悪と戦っているはずです」

「きっと案外身近にいると思うがな」

「うふふ、それなら是非再会したいものですね」

「……それで降格させられたクラウディアはいまどこで何をしているか知っているか?」

「知っていますとも。伝え聞く話だと、アークライズ様を失って苦労されているようですよ」


 クラリスは自分の知っているクラウディアの現状について語り始めた。



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