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第二章 ~『別れの挨拶』~

 徴税人は去り、アークライズとクラリス、そしてティアの三人が、黄金色の麦畑に残された。彼らの間に気まずい空気が流れる。


「ア、アークさん、領主様だったんですね」


 ティアは気まずい空気を壊すように口火を切る。アークライズはその心遣いに応えるように小さく笑みを浮かべる。


「騙すようなことをして悪かったな……」

「とんでもないです。それどころか新しい領主様がアークさんのような優しい人で良かったです」

「そう言ってもらえるなら何よりだ。これからはあんな徴税人を生まないようにするから安心してくれ」

「私、貴族様は悪い人しかいないと思っていましたが、間違いでしたね! アークさんは心から尊敬できる貴族様です」


 ティアはアークライズの言葉に心が動かされたのか、目をキラキラと輝かせて、彼を見つめる。そんな二人の様子をクラリスはただ黙って見つめていた。


「クラリス、何か言いたそうだな」

「別に何も……ただアーク様が鼻の下を伸ばしているなぁ~と思っただけです」

「俺は普段と何も変わりないぞ」

「そうですかぁ? 私にはティアさんが美人だから、優しくしているように見えるのですが」

「そんなはずあるか。領民の幸せは領主経営に欠かせないから、手助けしているんだ」


 領主経営をする上で領民たちから反発を買うことはトラブルに繋がる。例えば一揆だ。生活が苦しくなった領民は領主に武力で対抗するかもしれない。仮に一揆が起きなかったとしても、武装して反抗されれば、税の回収に滞りがでる。


「それに何より生活が苦しいと生産性も落ちる。誰だって辛いことを考えながら仕事はしたくないからな」

「アーク様も色々考えながら生きているんですね」

「人の頭を空っぽみたいに表現するのやめてくれない!?」


 クラリスが小さく笑みを零すと、それに釣られるようにアークライズも笑う。二人の間に和やかな空気が流れた。


「さて、俺たちはそろそろ行くよ。色々とありがとうな」

「こちらこそアークさんには助けられました……アークさんがあと五才年上なら、私きっと惚れていました」

「それは残念だ」

「だからこれは些細なお礼です」


 ティアはアークライズの両肩を掴むと、大人が子供にするように彼のデコに軽くキスをする。


「これでアークさんは私の初めてのキス相手です」

「デコにキスなんてノーカウントだろ」

「ふふふ、でも思い出には残ります。五年後、アークさんが大人になったら私を迎えに来てくださいね」

「考えとくよ……」


 アークライズはティアに別れの挨拶をすると、その場を後にする。隣を歩くクラリスは頬を膨らませて、不機嫌そうである。


「クラリス、拗ねるなよ」

「拗ねてなんていません……いつも通りの私です……なぜなら――」


 クラリスはアークライズの小さな手に自分の手を重ねる。二人の白い指が交差する。


「私はアーク様が五歳の時に、ほっぺにキスをしていますからね。アーク様の初めてのキス相手は私なのです。それを忘れないでくださいね」


 クラリスは長い耳を真っ赤に染める。黄金色の畑も差し込む夕日で、赤く輝いていた。


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