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第二章 ~『徴税人の脅威』~


 アークライズはティアに連れられて、村の麦畑へと案内される。小麦色の畑はやせ細り、今にも枯れそうである。


「酷い荒れようだな」

「リバ領は天候が荒れやすく、不作になることが多いのです。特に今年は嵐も多く、収穫量がかつてないほどに悪化してしまいました」

「なるほど。この状況だと貧乏なのも納得だな」


 アークライズは麦の種子をいくつか手に取ると、それをジッと見つめる。


「麦の品質も良くなさそうだな」

「アーク様、麦の良し悪しが分かるのですか?」

「分かるさ。もしかして疑っているのか?」

「いいえ。ですがどこでその知識を?」

「知識というより、金融魔法の一つに商品価値を判断する鑑定の能力があるからな。それで判別したのさ」

「なるほど。そのような魔法が……」

「それにリバ領に来る前に軽く勉強もしている。種子の灰色が強いと品質が悪いんだろ」


 麦の品質はタンパク質やでんぷんなど主成分以外の成分がどれだけ多いかによって変化する。灰色が強く出る種子は主成分以外の成分が多く、品質が悪いため、パンに加工した際に舌に強い雑味を残すのである。


「この麦はきっと売れないだろうな」

「そうなのです。ですが税金は容赦なく私たちを苦しめますから、生活は一向に楽にならないのです」

「……徴税人は税金を免除してくれないのか?」


 税金は嵐などの天災によって払えなくなった場合に免除されることがある。その判断を任されているのが税金を回収する徴税人である。


「いいえ、リーン村の徴税人は厳しい人ですから。税の免除はしてくれません。それどころか税金を払えないのなら、奴隷になってでも金を作れと脅すのです」

「酷い話だ」

「でもあの人はリーン村に救いの手を差し伸べてくれました……私があの人のものになるのなら、リーン村の税金を免除すると約束してくれたのです」

「清々しいほどのクズだな」


 アークライズは苛立ちから舌を鳴らすと、何かを思いついたように、土に手を触れる。


「アークさん、何をするつもりですか?」

「ティアの悩みの根本はすべて不作が原因だ。なら豊作にしてやればいい」


 金融魔法は金を稼ぐことに特化した魔法だ。その中には商品である作物を増産させる効力を発揮するものもある。


「畑の土に栄養を与える。第三世代の金融魔法ならすぐにでも稲は力を取り戻すはずだ」


 アークライズは金融魔法の効力により、土の中に肥料の五大要素である窒素、リン酸、カリウム、石灰、マグネシウを満たす。さらに稲の成長を促すために魔力を注ぎ込んでいくと、枯れていた麦たちは力を取り戻し、眩しくなるほどの黄金色の畑へと変貌する。


「アークさん、こ、これは……」

「これなら税金も払えるだろ」

「はい。ありがとうございます。アークさんのおかげです」


 ティアは嬉しそうにアークライズの手を握る。彼女は村の窮地が救われた喜びで、目尻に涙を貯めていた。


「アーク様、喜んで貰えてよかったですね」

「だな」


 アークライズたちは満足げに笑う。誰もが幸せになる結果を得られたと喜びを分かち合っていると、馬に乗った男が彼らの元へと駆けてきた。


「な、なんだ、この状況は!」


 馬に乗った男は丸々と太った顔を小麦畑へと向ける。その瞳には驚きと怒りの感情が籠っていた。


「ティア、何が起きたのだ! 説明しろ!」

「そ、それは……」

「私はリーン村の徴税人だぞ。この私に逆らうつもりか?」

「い、いえ、そんなつもりは……」

「俺がやったのさ」


 アークライズがティアを庇うように一歩前へ出る。徴税人の男は馬から降りると、アークライズに掴みかかった。


「私の邪魔をしたのだ。覚悟はできているのだろうな?」

「邪魔? 俺が何か邪魔をしたのか?」

「ふん。お前が余計なことをしなければ、ティアは私のモノになっていたのだ。その償いをしてもらおうか」

「償いか。なら良いモノをやるよ」


 アークライズは徴税人の男の頬を叩く。目にも止まらぬ速度の張り手は、彼の丸々と太った顔に赤い手形を残した。


「な、なにをする!」

「その腐った根性を叩きなおすために、罰をやっているのさ。感謝しろよ」

「お、お前は! 私が誰だか分かっているのか!?」

「ただの徴税人だろ」

「馬鹿め。私のバックにはメルシアナ家が付いているのだ。その私に歯向かって、ただで済むと思うなよ!」

「へぇ~それは恐ろしいな」

「だろ。なら私に詫びを――」

「恐ろしいからビンタ追加だな」


 アークライズは男の頬をさらに叩く。容赦ない一撃に、男の目尻から涙が零れていた。


「ほ、本当にいいのか!? わ、私は、メルシアナの――」

「アーク様、さすがに可哀そうですし、そろそろネタ晴らしをしてあげましょう」

「そうだな」


 アークライズは懐から一枚の書類を取り出す。それは彼にリバ領の運営を任せるという文言が刻まれた領主任命書だった。そこにはメルシアナ家の家紋もしっかりと刻まれている。


「あ、あ、あなたは、もしや……」

「メルシアナ家のアークだ。よろしくな」

「こ、これは、失礼しました!」


 徴税人の男は馬に飛び乗ると、逃げるように走り去る。見事な逃げっぷりだと、アークライズは笑いを零すのだった。



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