表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/49

プロローグ ~『追放された最強賢者』~

新作執筆しました

経済・復讐・成り上がり・領地経営

が好きなら気に入って貰えると思います


しばらくの間、毎日更新予定です

どうぞよろしくお願いいたします。

「アークライズ、あなたを冒険団から追放するわ」

「は?」


 銀髪赤目の女勇者、クラウディアが放った追放宣言に、アークライズは頭の中が真っ白になる。


 アークライズはクラウディアと同じ冒険団に所属し、凶悪な魔物たちと戦ってきた。彼は彼女のことを共に苦難を乗り越えてきた戦友であり、生涯の友だと信じていた。そのため追放宣言を簡単に受け入れることはできなかった。


「追放か……だが自分で言うのもなんだが、俺は顔も整っているし、頭の回転も悪くない。それに何より俺は強い。欠点なしの大賢者様を追放する理由が何かあるのか?」

「それは……」

「そもそも【黄金の獅子団】は俺を含めた四人が揃ってこその冒険団だろ」


 王国最強の冒険団【黄金の獅子団】、それは三人の勇者と、賢者であるアークライズから構成されている。


 三名の勇者はそれぞれ炎、水、風の勇者と称され、自分の属性の魔法を自由自在に使いこなすことができる。しかし自分の属性魔法以外は不慣れであるため、基本的な戦闘スタイルは接近戦である。そんな勇者たちを陰からサポートする存在こそ賢者であるアークライズなのだ。


「クラウディア、お前は炎の魔法が得意だし、近接戦での攻撃力も高い。だが防御が疎かでいつも傷だらけになっていたよな。その度に傷を治していたのは、はたして誰だったかな?」

「う、うるさいわね。だとしても、いや、あなたが優秀だからこそあなたの存在が邪魔なのよ」

「どういうことだ?」

「あなた自身も気づいているでしょうけど、この冒険団の名目上のリーダーは私なのに、実質的なリーダーはあなたになりつつある。このままでは【黄金の獅子団】が成果を挙げても、あなたがいたから成し遂げられたという評価が与えられてしまう」

「つまりリーダーの役割を奪われたことを恨んでいると?」

「いいえ。恨んではいないわ。あなたはよくやってくれたもの。でもね、私はただの勇者で終わる気はないわ。金融魔導士になるつもりなの」

「金融魔導士か……困難な道のりだな」


 金融魔導士は勇者や賢者に匹敵する最上位職の一つである。勇者は魔物との戦いに特化した戦闘のエリート。賢者は魔法の扱いに長け、世界の魔法技術発展に寄与してきた。そして三つ目、勇者よりも賢者よりも尊敬を集める職業――それこそが金融魔導士である。


 金融魔導士は金の扱いに長けた職業だった。例えば物の良し悪しを見分ける鑑定魔法や、金を消費することで賢者以上の魔法や身体能力を取得する金融強化魔法などを習得できる。


 過去、人々は金融魔導士を卑しい職業だと馬鹿にしてきた。最上位職を目指すなら勇者や賢者だと、誰も見向きもしてこなかった。しかしある時、状況が一変する。金融魔導士を大勢抱える銀行が権力を保持し始めたのだ。


 銀行が権力を持つようになったのは、冒険者たちのおかげであった。冒険者はダンジョンを攻略するために装備やアイテムを揃えないといけないが、新米冒険者にはその資金がない。その金を銀行が貸し出したのである。当然冒険者は金を貸してくれている銀行に頭が上がらなくなり、魔物討伐や犯罪者の捕縛を冒険者に頼り切っている国家も銀行の存在を無視できなくなった。


 クラウディアはそんな銀行の中でも三大銀行の一つ、メルシアナ銀行を保有するメルシアナ家の令嬢だった。そんな彼女が目指しているのは、メルシアナ家の当主の座であり、そのために金融魔導士の職業を手に入れるつもりだった。


「あなたも知っての通り、職業を得るには神より与えられた試練を乗り越えなくてはならないわ。金融魔導士になるには冒険団を率いたリーダーとしての経験が必要になるの」

「そのために俺が邪魔ということか……勇者の職業は捨てるのか?」

「いいえ、私は勇者でありながら金融魔導士を目指すわ」

「二重職業か。茨の道だな」


 職業は習得できる魔法や肉体的な成長に大きな影響を与える。例えば魔法使いであれば、魔法の習得が早くなる代わりに、身体能力の成長が鈍化する。武道家であればその逆であった。


 なら職業を複数保有することで苦手な分野をカバーすればいいと考えるのが自然だが、その方法を選択すると成長に与えられる経験値も分割されてしまう。つまり勇者と金融魔導士、両方の職業を得た場合、どちらも中途半端な実力で終わる可能性があるのだ。


「そうまでして金融魔導士になりたいんだな……」

「私は必ずメルシアナ家の当主になる。そのためには主要事業のメルシアナ銀行で頭角を現さないといけないわ。故に金融魔導士の職業習得は必須。私は目的のためなら手段を選ばないの」

「だとしたら本当に俺を追放してもいいのか?」

「どういうこと?」

「【黄金の獅子団】はメルシアナ銀行から融資を受けて活動している。もし俺が抜けたことで成果を挙げられなくなれば、リーダーであるクラウディアの責任になるぞ」

「だとしても私はやるしかないの。このままだとどうせ勇者としてしか評価されない。なら賭けに出るべきだと考えたの。それにね、私はあなたにリーダーとしての成果を奪われたことを恨んではいないけど、魔人としてのあなたは嫌いなのよ」

「魔人嫌いは変わらないな……」

「当然でしょ……私はお母様を殺した赤い羽根の魔人を許せないの……それは他の魔人も同じよ」


 魔人。それは魔物と人間、両方の血を引く存在である。クラウディアの母親を殺したのは赤い羽根を生やした魔人であり、アークライズもまた魔物の血を引く魔人であったため、彼女は心の底で彼のことを嫌悪していた。


「坊主憎けりゃ袈裟まで憎いってことか?」

「そうね……でも私にも言い分があるの。私のお母様を襲ったのは、赤い羽根の魔人以外にも複数人いたそうなの。それも一人や二人じゃない。数百人単位で人影が目撃されているの」

「魔人の集団による襲撃か……」

「だから私は魔人を許さない。魔人という存在をこの世から消し去りたいのよ」


 数百人規模の魔人が集まっているなら組織的な犯行ということになる。どこかの魔人コミュニティが敵なのだと、クラウディアは続ける。


「私は犯人を捜したけど、手掛かりさえ得られなかった。けどメルシアナ家の当主になれば、アクセスできる情報も増える。私は赤い羽根の魔人を必ず探し出してみせるわ」

「……クラウディアの願いは十分に伝わった」


 アークライズは瞼を伏せると、何かを思い出したようにキョロキョロと視線を巡らせる。


「誰か探しているの?」

「他の勇者たちに別れの挨拶しようと思ってな……」

「…………ッ」

「もしかして俺が抜けることを説明してないのか?」

「そ、そんなことないわ。全員、説得済みよ」


 クラウディアは煮え切らない言葉で、アークライズの質問に答える。彼は嘘だと確信したが、それでもこのまま【黄金の獅子団】に残ると冒険団の雰囲気が悪くなることは間違いなかった。


「仕方ない。俺ほどの人材がいらないというなら冒険団から抜けてやるよ」

「アークライズ……」

「理不尽な追放だが、仲間に嫌われるのは辛いからな。それに何より、俺を欲しがる冒険団は【黄金の獅子団】だけじゃない。実はスカウトも数えきれないほど来ていたからな。そこで楽しくやるさ」

「アークライズ……ごめんなさい。私を恨んでくれて構わないから」

「気にするな。いままでありがとうな。楽しい旅だったよ……」

「アークライズ……」

「じゃあな。達者で暮らせよ」


 アークライズは背を向けて、クラウディアの元から立ち去ろうとする。しかし彼女はその隙を突くように、懐から光り輝く宝玉を彼へと投げつけた。宝玉が彼の身体に触れると、淡い光に包み込まれていく


「なんだ、これは!」

「その宝玉は対象者を一年が一時間になる時間停滞空間に幽閉することのできる古代の魔道具よ。理論上は魔王でさえ封印できると言われているわ。故に賢者であるあなたでも防ぎきれない」

「クラウディア、お前ッ! 俺は大人しく追放されるつもりだったんだぞ。それだけでは足りないのか!」

「許して欲しいとは言わないわ。あなたに別の冒険団へ参加されると、それはそれで私の評価が下がるの。あなたはこれから無限に等しい時間を閉じた空間で過ごすことになる。私を憎む時間は十分に与えられるから、存分に恨んで頂戴」

「ぐっ……」


 アークライズは宝玉の引き釣り込む力に抗おうとするも、空間に閉じ込めようとする力は強く、徐々に吸い込まれていく。


(俺の力ではこれ以上、抗うことができない)


 アークライズは宝玉に封印される。彼が最後に見た光景は、長年連れ添った仲間が嘲笑を浮かべている姿だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


cont_access.php?citi_cont_id=774287868&s ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ